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ダンジョンボス

 ダンジョンの最奥、ボス部屋の扉が目の前にある。


「よし、開けるぞ」


 俺は鉄製の枠組みで重厚に作られた扉をゆっくりと開く。


 ボス部屋の中は薄暗かったが、奥にある祭壇から松明の明かりが見える。

 いや、松明ではない。青白い炎だ。


「あれは霊魂だ、気をつけろ。依代に憑依して攻撃してくる」


 ナイト職のシルフィアが話した。


 その時、青白い炎が祭壇の人影に吸い込まれた。


「うおおおおおん」


 不気味な声とともに、人影が浮かび上がる。

 その姿は、漆黒の布を纏った骸骨。そして額には赤い魔石が埋め込まれていた。


「リッチー。Aランクの死霊よ。実際に見るのは初めてだわ」


 ヒーラー職のエリシアは落ち着いた表情で敵を見据えている。


「何だか寒くない? これってアイツのせい?」


 魔法使いのミラは両腕を抱えて震えている。


「ああ、あいつの霊気のせいだろうよ」


 レオンが答える。


「よし、まずはシルフィアとウォールドで抑え込んでくれ」


「奴は死霊だ。エリシアのヒールは奴にとっては攻撃となる」


「ミラはあの黒い布を焼いてくれ。視界を塞がれたくない」


「額に魔石が埋め込まれている。あれを壊せば動けなくなるはずだ」


「俺がチャージ攻撃で仕留める」


「簡単ではないが、このメンバーなら倒せる。行くぞ!」


「ウォールド、シルフィア、先行してくれ」


「よし、行くぞ!」


 俺は先行して突進する。

 目の前にリッチーが迫る。

 リッチーが纏う漆黒の布が、揺らめくように広がってゆく。


 俺はリッチーに体当たりするが手応えがない。上へ逃げられたのだ。

 身にまとった布を手足のように動かし、広い空間を自由に移動している。


 次の瞬間、俺の体に布が絡みつき、縛り上げられる。


「うぐっ!」


 身動きが取れない。これでは反撃もできない。


「ミラ! 布を焼き切ってくれ、俺に当たっても構わない。やってくれ!」


 そう言ってミラがいる方向を見る。そしてそこには……

 パーティメンバー全員がいた。


 一緒に突撃したはずのシルフィアもいる。

 一体何をしている? 二人で抑え込む作戦のはずなのに。


 全員が俺のことを黙って見ている。

 そしてレオンが歩いて進み出てきた。


「なぁ、ウォールド。助けてやりたいんだけど……一つだけ教えてくれ」


「い、一体何を言っている?」


「本当の仲間になるためには、秘密はいけない。ちゃんと情報は共有しないと」


「ううっ、早く助けてくれ。秘密って何のことだ」


「おい、みんな、どうして助けてくれないんだ!」


 顔を向けると、そこには冷たい視線があるだけだった。


「あっ、扉が動き出した。早くしないと閉じ込められちまう」


 レオンの言葉だけが返ってくる。

 ああそうか、確かに俺には秘密がある。スキルカードだ、チート能力を身に着けている。奴の狙いはそれか!

 しかし、今そんな事を説明している場合じゃない。


「そんなことより、早く助けてくれ。話は……」


「だから見つけたんだろ! 遺跡か? それとも未発見のダンジョンか? 早く言え!」


 レオンは早口でまくしたてて怒鳴る。明らかに焦っている。

 まさかレオンのやつ、俺を置いて逃げる気じゃないよな……


「そんなもの無いと言ったら?」


「無いはずがない。あの牙を偶然見つけた事はわかっている」


「お前に魔物を倒したり、他人から奪ったりなど出来るはずがない」


「お前は弱いんだからな!」


 そのとおりだった。ほんとうの俺は弱い。

 レオンのように他人を踏みにじってでも目的を達成しようとする。

 その気持ちが足りないんだ。

 ああ、勉強になったよ。心底……俺は甘かった。

 さあ、少しは変わる努力でもするか……


 お前の思いどおりにはならない!


「知っててもお前には言わないよ。死んでもな」


「そうか……じゃあ死ね! ケッ! とんだ骨折り損だ」


「じゃあな、あばよ!」


 そして扉は閉まり、俺はリッチーと二人きりになった。


 ◆◆◆


 俺は逆さまに吊り上げられ、さらにきつく絞め上げられる。

 呼吸が苦しくなり、表情が苦痛に歪む。

 リッチーは俺のそんな様子をじっと見ている。

 ドクロに表情は何もないが、首を楽しげに振っている。

 すぐに殺すつもりはないらしい。俺の苦しみを味わっているようだ。

 逃げられない。有効なスキルの使い方もわからない。

 俺はここで死ぬのかな。ファブだったら何か教えてくれるかな……


 その時、左腕にはめた銀の腕輪がほんのりと温かくなった。

 これはファブにもらった「絆の腕輪」だ。

 ファブを思い浮かべて意思疎通をする。


「なぁファブ、俺は馬鹿だ……死んで当然の愚か者だってわかったよ」


 腕輪に向けて、思わず愚痴を漏らしてしまう。


『穏やかじゃないね。何があったの? 僕は君が死ぬのは嫌だよ』


 腕輪からファブの声が聞こえてくる。


「ファブ、君よりも痩せている人と一緒にいる。とても楽しそうにしているよ」


『えっ? 新しい友人? そりゃあ良かった。僕にも紹介してよ』


「紹介したら喜ぶだろうな。でも紹介はしないよ」


『……そうか、そうだよね……いいんだ。うん、問題ないよ』


 物凄く誤解している。少し申し訳ない気持ちになってしまった。


「いやいや、ごめん、人じゃないんだ。今はリッチーに締め上げられてる」


『何でそんな事になってるの? スキルは使ってないのかい?』


「黒い布に縛られてる。身動きが取れなくて、スキルが使えないんだ」


『あれ? スキルの使い方知らない? カードに書いてなかった?』


「ごめん、読んでない。読む前に全部解放したから、カードも消えた」


『……あー、なるほど。そういうことか』


『じゃあ、今から言う言葉を詠唱するんだ。水魔法の応用スキルだ』


『発動したら、腕から射出される魔法を布に当てるんだ』


 リッチーの布がさらに強く締まる。次第に呼吸が困難になってきた。


「早く、詠唱を教えて……」


『詠唱は、ロマンリキッド』


「ロマンリキッド!」


 手の先に魔力が集まってくる。そして水魔法が勢いよく射出される。

 リッチーの黒い布が溶け落ちてゆく。


 ドサッ!


 俺はようやく解放され、床に落ちる。


 そしてリッチーは攻撃手段と飛行能力を失い慌てている。

 ボス部屋の中をカチャカチャと音を立てて走り回る。

 その姿は、ただのスケルトンにしか見えない。

 しばらく見ていると、骨だけの状態で魔法陣を展開し、再び布を生み出す魔法を発動する。

 魔法陣から大量の布が流れ出る。


「ロマンリキッド!」


 すぐに布は溶かされた。

 リッチーはカタカタと音を鳴らしながら、ゆっくりと俺に顔を向ける。


 ガシャーン!


 リッチーの骨は、盾の一撃でバラバラに砕かれた。

 そして床に魔石だけを残し、灰となって消えた。

 とても哀れな最後だった。

 魔石を拾う。すると入口の扉が開き始めた。


「凄い能力だ! 何でも溶かす水魔法はチートだよな。さすがファブだ」


 俺は驚きの声とともに、ファブを称賛する。


『布しか溶けないよ。コンプライアンスがどうとか言ってた』


「布だけ? コンプラ?」


 確かに骨は残っていた。それって……


『異世界の勇者が欲しがっていたけど、ボツになったよ。苦労して作ったのに』


『でも、リッチー以外に使い道がないから仕方がないよね』


 ああ、そういうことか……

 ゲスい笑みを浮かべる異世界の勇者、そんな顔が浮かんだ……


 ◆◆◆


 俺は一人、ダンジョンを後にし、街へと戻った。

 汚名返上のチャンスは消えてなくなり、裏切りに対する怒りだけが残った。

 手にはリッチーの魔石が鈍い光を放っている。

 これを持ってゆけば、俺の疑いは晴れるだろうか?

 ギルドの入口の前に立つ。中に入るべきか悩む。

 以前と同じように罵られて没収され、追い出される未来しか見えなかった。


 俺はギルドの敷地の周りをひたすらグルグル歩き回る。

 こうしている間にも、レオンと鉢合わせして、揉め事になるんじゃないか。

 そんなことを心配している。

 気合を入れろ、根性を見せろ。俺は変わるんだ。甘い自分は捨てるんだ。

 これをカウンターに叩きつけて、どうだ! ざまあ見ろ! と言ってやるんだ。

 いや俺に、そんな度胸が……


 そんな時、ギルド裏口のあたりから声が聞こえてくる。

 なにやら怒鳴り声と泣き声……この声は、まさか!


「言え! お前も何か知っているはずだ! この牙に見覚えはないのか!」


「知りません! それにお兄ちゃんが盗む訳ありません」


「何か変わったことはなかったのか、あったはずだ、話せ!」


「そっ、それは……なんでそんな事を聞くんですか!」


「やっぱり、何かあったな? 話せ! 見つけた場所も知っているだろう。何処だ!」


 何だこれは……。ギルドマスターの声だ。エミリーを問い詰めている。

 エミリーは何も関係ないのに……。


「話せ! 冒険者をけしかけるぞ! お前の家をしらみ潰しに探してやるぞ」


「やめて、やめてください! きゃっ!」


 ガタン!


 悲鳴とともに何かが崩れる音。


 ブチッ!


 ああ、人は本当に切れると音が聞こえるんだ。俺は今、冷静なはずだ。

 この魔石を見せて、叩きつけて……


「このやろおおおおおっ!」


 ゴキン!


 ギルドマスターの顔に拳がめり込む。そしてギルドマスターの体が吹っ飛ぶ。

 エミリーの驚く顔が俺を見る。


 俺はギルドマスターに魔石を投げつけて叫ぶ。


「俺はリッチーを倒したぞ! 目撃者だっている! レオンだ!」


「必要なら何でも取ってきてやる! だがな!」


 俺は一息、深呼吸して自分を落ち着かせる。そして見下すように話す。


「俺の家族に手を出してみろ。ギルドごと潰してやる……」


「エミリー帰ろう。ここでお前を働かせる訳にはいかない」


 ◆◆◆


 帰り道、エミリーが俺の腕を掴む。


「お兄ちゃん! かっこよかった!」


 エミリーの笑顔が弾ける。

 ああ、カッコ良くなりたいな。本当にそう思った。


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