創造神ファブリウス
僕の名前はファブリウス。親しい友人は僕のことをファブと呼ぶ。
僕の見た目は貧相だ。貧乏神に間違われたこともある。
そんな僕でも、恋はするんだ。
美の女神ルミエラ。金髪が陽光のように輝き、瞳は宝石のように美しい。
豊満な肉体はまさに神。
その笑顔は天にも昇る心地にさせ……いや、僕はもう天にいるんだけど……。
その仕草は心を乱す。考えただけでうっとりする。
そこで僕は決心をした。この気持ちを伝えねば。やるのだ、行動あるのみ。
僕は三ヶ月かけて準備をした。星屑の花。
彼女への思いを込めて作った、美しく光り輝く永遠の花。
宇宙で最も美しい花だと自負している。
この花に心を動かさない女神などいるだろうか!
ローブも気合を入れて美しく作った。
滑らかな純白の生地は誠意の証。よし、行くぞ!
「女神ルミエラ、受け取ってください! これは僕の気持ちです。どうか僕と……」
「ごめんなさいね、気持ちだけ受け取っておくわ。それから、そのお花はいただくわ」
「はい……喜んで……」
気持ちは受け取ってもらえたし、星屑の花ももらってくれた。
なのに何故涙が出るんだろう……。
「はああああああっ……」
泉に映った貧相な顔が、涙の波紋で揺れても美男子になることはなかった。
◆◆◆
あの後、僕はウォールドに出会った。彼の寂しそうな姿が僕と重なった。
顔はまあ……お互いに張り合っても仕方がない感じだった。
彼はこんな僕に大切なお弁当を分けてくれた。
彼の気持ちを無下にするのも忍びない。そう思って、特にお腹が空いていたわけでもないのに、一口食べたら涙が出た。
本当に美味しかった。
僕はいろいろ物を作っては人を喜ばせてきた。物を作るのは得意だ。世界の理に反しない限り、何でも作れる自信はある。
なのに、誰かが僕のために作ってくれたことはなかった。
何かをもらったこともなかった。それに気がついたのかな……
本当に嬉しかった。
またウォールドに会ってみたいな。彼の家族はどんな人なんだろう。きっと素晴らしい人なんだろうな……
◆◆◆
――同じ頃、地上では。
街への入り口からは少し離れた耕作地。そこに小さな木造の家がある。
一般的な農家の家。そこが俺、ウォールドの住む家だ。
もうすっかり日は落ち、周囲は闇に包まれている。
そのおかげで魔獣に乗って疾走する姿を見られず、無事に家にたどり着いた。
家に隣接する納屋の中、俺はそこにケルベロスを隠れさせた。
「頼むから大人しく待っててくれよ。いきなり家族に会わせるとさすがにマズイ」
「ウァウ!」
物凄く懐いているが、それでも魔獣だ。人に見つかるわけにはいかない。
俺は慎重に周囲を確認し、そっと納屋の扉を閉めて家へと向かった。
家の扉に近づくと、夕食のいい匂いが漂ってきた。
「ただいま、遅くなってごめん。今日はちょっと失敗して……ははっ」
そう言って家に入るなり、妹のエミリーが俺の姿に目を丸くして出迎えてくれた。
「あーっ! お兄ちゃん傷だらけじゃん。何があったの、ちょっとこっちに座って!」
そう言って妹が布を絞って顔を拭いてくれる。心地よい痛みが顔を撫でる。
エミリーは俺より6歳年下の16歳。明るく小柄で、そばかすと茶色のおさげが可愛らしい。
俺とは似ていないが、それが救いだと思っている。
「もう、こんな顔してたらお母さんが心配するでしょ。一体何やってたの?」
「ちょっと大きな犬と遊んでたらこうなったというか……」
「魔獣とでも遊んでたの? どれだけ大きい犬なのよ! 服だってボロボロ」
「えっ? なんで知って……そんなわけないか……」
「まあ! どうしたの、その格好……」
母のエルマが妹と同じように目を丸くして俺を見ている。
「ああ、ごめん母さん。服をボロボロにしてしまって」
「それよりも怪我は大丈夫なの? どうしてこんなことに……」
「魔獣と遊んでたんだって。お兄ちゃん本当に頑丈なんだから!」
違うと明確に否定できない。どうしよう……
「かすり傷だよ。それで今日、その魔獣に懐かれちゃって……ははっ、今その……一緒に帰ってきた」
「えっ! その子連れて帰ってきたの? 見たい! どこにいるの?」
エミリーは目を輝かせて顔を寄せてきた。
「ちょっと待って、見たら驚くから。納屋に行く前に少し話を……」
言い終わる前に、エミリーは家から飛び出していた。
マズイ! さすがにエミリーが危ない! 俺は慌ててエミリーを追いかける。
必死で追いかけるがエミリーの姿はなく、既に納屋の扉が開け放たれていた。
そしてエミリーの闘を切り裂くような絶叫が聞こえる……ことはなかった。
聞こえるはずの声が聞こえない。まさか! と思ったその時。
「きゃああああっ!」
明らかな悲鳴。俺は納屋の中に滑るように走り込む。
エミリーは震えながらケルベロスの前で立ち尽くしていた。
「なにこれ! でっかい! フサフサで可愛い!」
悲鳴ではなく歓喜の声だった。
◆◆◆
「あんなに大きな犬と仲良くなるなんて、凄いわねウォールド」
「ねえねえ、名前は? 私が付けてもいい?」
「まだないよ。今は犬に近い見た目になってるかな……」
どちらかと言えば狼のほうが近いような気もするが、突っ込みを入れるのはやめておいた。
「シフォン! あの子の名前はシフォンにする。どう? 可愛いでしょ?」
「シフォンケーキみたいだね」
「そう! ふわふわの毛並みがシフォンケーキみたいなの!」
「いい名前ね。銀色でフサフサの毛並みにとっても似合うわ」
魔獣のケルベロスは、シフォンと名付けられて新しい家族となった。
まあいいか……
ファブ、君のおかげで物凄く強い番犬ができたよ。これで家族のことは安心だ。
『おおっ! それは良かった。僕も一度見てみたいよ』
(ファブ? ああそうか、思い浮かべると話せるんだった)
『もう家には着いたのかい? もしかして家族にも見せた?』
(ああ、なんだか可愛いって喜んでいるよ。君にも見せたかったよ)
『じゃあ、今からそっちに行くね』
ファブがそう言うと、空の雲が明るくなり、そこから一筋の光が降りてきた。
そして家の前に魔法陣が現れる。
天から降臨するように光の粒子が魔法陣へと降り注ぐ。
そしてそこから、ファブがせり出すように現れた。
ファブはにこやかに笑いながら言った。
「こんばんは、お邪魔します」
……大魔法使いって、本当に凄いんだな。




