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スキル解放

 泉を出た俺は、家に帰るため再び森を彷徨っていた。

 せめて方角だけでも分かればと思い、僅かに覗いた山肌を目指して歩く。

 山に登って森全体を見渡すつもりだった。


 しかし実際に現れたのは、登るべき山ではなく、巨大な魔獣だった。


 ケルベロス。三つの頭が俺を睨んでいる。

 俺はこの魔獣を知っている。誰も手を付けないSランクの討伐依頼。

 遭遇したら最後、生きて帰った者はほとんどいない。

 唯一生き残った者はその恐怖から再起不能になった。

 ギルド内でも永久未達成として誰もが知っている。


 その絶望的な魔獣が、今、目の前にいる。

 三つの頭が俺の体の別々の部位を見ている。

 体が三つに引き裂かれ、血の跡を残して消える未来が見えた。


 体が震えて動かない。逃げたくても足がすくむ。

 浮かぶのは母さんと妹の顔。そして何故か、ファブの顔も思い浮かんだ。


 俺はもはや覚悟するしかなかった。

 帰らない俺を心配する母の顔。いなくなって寂しそうに泣く妹の顔。

 想像したくもない現実が迫ってきていた。


(ああ、神様、どうかお助けください……)

 俺は神に祈った。


『どうした? 何かあったの?』


 頭の中に声が響く。


(何だ? ファブの声が聞こえる。それともケルベロスの魔法なのか?)


『ケルベロスだって? スキルカードを使うんだ! 早く!』


(使うって、どうやって!)


『カードを掲げてスキル解放と叫んで!』


 ファブがどこにいるのかは分からないが、俺を助けようとしてくれている。

 カードが何なのかは分からないが、強力な魔法使いがくれたカードだ。

 助かる道はそれにすがるしかなかった。


 俺はファブにもらったスキルカードを全て掴み、空へと掲げる。

 それと同時にケルベロスが飛び出し、恐ろしい牙が俺に向かって迫ってくる。


「スキル解放!!」


 カードが光り、無数の魔法陣と四角い窓のような光が散乱する。

 その光の洪水にケルベロスは一瞬たじろいだ。


 次の瞬間、光は俺の体の中に流れ込み、強い衝撃となって精神を揺さぶる。

 それはまるで、カードが魂に突き刺さり、溶けて混じっているような強烈な感覚。

 痛みとも苦しみとも違う。しかし俺は声を張り上げていた。


「ぐあああああっ!」


 ケルベロスの牙が俺の体に噛みついた。

 牙が突き刺さり、皮膚が裂け、肉が引きちぎられる。

 はずだった……


「グアウウ、グアウアウ、ガウガウグァウ」


 ケルベロスは俺の体を三つの頭で取り合っているが、まるで硬い金属でもかじっているように手応えがない。

 俺はと言えば、よだれでベトベトにされていることと、服が裂かれている以外は全く平気だった。


 ケルベロスは必死で俺を捕食しようと首を捻りながら噛みつくが、まるで歯が立たない。


『どう? スキルは発動した?』


(ああ、発動したみたいだ……)


『それで、今どうなってるの?』


(ケルベロスに食われてる……)


『ああ、あいつ結構人懐っこいよね。僕も何回か食われたことあるよ』

『それに、ちゃんとバリアウォールが発動してるね。良かった』

『チートすぎるって返されたんだけど、まあいいよね。痛いの嫌だし』


 こんな時に何の冗談かと言いたいところだが、この状況の異常さに理解が追いつかず、受け入れてしまった。


(これ、どうすればいいの? このままだと体は大丈夫でも、服がなくなる)


『今も噛まれてる最中なら、カウンターリフレクションのスキルが発動してるはず。手近な頭を殴ってみて』


(こ、こうか?)


 ドゴーン!


 ケルベロスの頭の一つが吹き飛び、周囲に牙が散乱した。

 その衝撃で俺は投げ出され、近くの岩に叩きつけられた。

 しかし、やはり痛みはなく、まるでソファーから起き上がるように簡単に立ち上がれた。

 頭の一つを失ったケルベロスは混乱し、半狂乱で飛びかかってくる。


 俺は噛まれる瞬間、もう一つの頭を上から殴り倒す。


 ズドーン!


 頭は砕け、最後の一つも地面にめり込み気絶してしまった。


「す、凄い……なんなんだ、この力……」


『カウンターリフレクション。相手の攻撃を三倍にして返すスキルだよ』

『相手の攻撃を受けてる最中じゃないと使えないから、難しすぎるって返された』


「さ、三倍?」


『異世界では三倍返しってルールがあるらしいよ』


「ああ、そうだ! 助かったよありがとう。今どこにいるの? 声しか聞こえない」


『今はいないよ。君が腕輪を身につけてくれたから、声だけで会話ができるんだ』

『どう、便利でしょ?』


「凄い……こんな凄いものを作れるなんて、君って何者なの……」


 そう言いかけた時、ケルベロスがピクリと動き出した。


「うわっ! まだ生きてる。どうしよう、今のうちに殴るしかない」


『カウンターリフレクションは攻撃を受けてる時にしか発動しないよ』

『ところで、スキルカードは全部使ったの?』


「ああ、無我夢中で全部いっぺんに……」


『うわー、そりゃキツかったね。じゃあ大丈夫、頭を撫でてみて』


「撫でるって? こうか?」


 俺は恐る恐るケルベロスの頭を撫でる。

 するとケルベロスは目を覚ました。

 そして突然、飛びかかってきたと思えば、いきなり俺を舐め出した。


「うわわわっ! なんだこれ! 何やってるんだ?」


『もう君を襲わないよ。グルームハンドのスキルさ』

『どんな凶暴な魔獣でも一発で手懐けちゃうから、ゲームバランス崩壊だって返されたんだ』

『動物可愛いのにね』


「頭を二つも潰してしまったのに関係ないのか……」


『テイムが成立したからね。傷口はもう塞がってると思うよ』

『ただ、頭はもう再生しないかな。主人を傷つけた罰だと思っているんだろうね』


 見ると、確かに傷口は塞がっていた。

 頭が一つになったケルベロスは、巨大な狼のような姿になっている。

 三つ首の魔獣の面影はなく、どこか誇らしげに俺を見上げていた。


『乗せてもらいなよ。きっと喜ぶから』


「まじか……」


『じゃあ、また困った時には声を掛けてね』

 そう言って、ファブの声は途切れた。


 もう何でもありの状況に笑うしかなかった。

 俺は散らばった牙を拾い集め、ケルベロスにまたがった。


「ワオォォォォォン!」


 遠吠えを一声上げ、森の中を疾走し始める。

 速い! これなら簡単に森を抜けられる。


「ファブ、ありがとう! おかげで助かった。今度お礼をするよ。母さんの食事は世界一美味いんだ。今度一緒に食べよう!」


『それは楽しみだ』


 風を切る音に混じり、ファブがそう言った気がした。


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