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三つの掟

「届けに来たよ、ギルド改革の切り札!」


 ファブが抱えてきたのは、大きな鏡だった。

 縁には金の装飾が施され、見るからに高級品だ。


「わあ、綺麗な鏡!」


 エミリーが目を輝かせる。


「ファブさん、これ私たちに?」


 母さんも嬉しそうだ。


「いえ、これはギルドに設置する鏡でして……」


「ちょっと見せて見せて!」


 エミリーが鏡を覗き込む。

 すると、鏡面に数字が浮かび上がった。


「……1?」


 母さんも覗き込む。

 同じく「1」の数字。


「何これ、顔の前に数字が浮いてるわ」


「鏡として使えないよ、これ」


 二人は不満顔だ。


「あ、いや、この鏡は……」


 ファブが説明しようとするが、エミリーは興味を失ったようだ。


「お兄ちゃん、この鏡、失敗作だよ」


「そうかな」


 俺は鏡の前に立つ。

 数字が浮かび上がる。


「3」


 ファブも隣に並ぶ。


「3」


 俺たちは顔を見合わせた。


「うん、ちゃんと動いてる」


「完璧だね」


 満足げに頷き合う俺たち。


「え、何が完璧なの?」


 エミリーが首を傾げる。


「この鏡はな、顔の……まあ、個性を数値化するんだ」


「個性?」


「数字が大きいほど、報酬が増える仕組みさ」


 エミリーと母さんは、まだよくわかっていない顔だ。

 だが、それでいい。


 俺は鏡を見つめた。

 「3」の数字が、静かに光っている。


 これで、ギルドを変える。

 ブサイクな者たちが、報われる世界を作る。


 俺の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。


 ◆◆◆


 ギルドの二階ロフト。

 俺は手すりに手をかけ、一階に集まった冒険者たちを見下ろしている。

 

「今日から、このギルドは生まれ変わる」

「そのための、三つの掟を定める」


 俺は指を一本立てた。


「一つ、ブサイクは報酬三倍」

「受付の真実の鏡に顔を映すと、1から3の数字が浮かぶ。ブサイクほど高い数字となり、そのまま報酬の倍率になる」


 ざわめきが広がった。


「二つ、『ブサイク』の言葉を人に使ってはならない」


「さっき自分で言ったじゃねえか!」


「他人に使わなければ問題ない」


「な、なるほど……」


「三つ、来る者は拒まず、去る者は追わず」

「気に入らない奴は今すぐ去れ。以上だ」


 ◆◆◆


 演説が終わった瞬間、一人の冒険者が膝から崩れ落ちた。


「生まれてきてよかった……」


 目は離れ、鼻は曲がり、歯並びはガタガタ。今までパーティに入れてもらえなかった男だ。

 他のブサイクたちも集まり、抱き合って泣いている。


 一方、イケメンは不満顔だ。


「こんなギルド、出ていってやる!」


 しかし、誰も動かない。


「……出ていかないのか?」


「……今すぐとは言ってない」


 ◆◆◆


 数日後、かつて隅に追いやられていた者たちが引っ張りだこになった。


「うちのパーティに入らないか? お前みたいな個性的な顔の奴を探してたんだ!」


 そしてブサイク争奪戦が、毎日のように繰り広げられた。


 ◆◆◆


 そんなある日。


 Aランクのワイバーンにやられ、ボロボロになった冒険者が換金に来た。


「3ですね! 報酬三倍です!」


「え……俺、いつもは1なのに……」


 仲間が言った。


「顔が腫れてるからだろ。普段よりブサイクだもんな」


「怪我で顔が腫れると、報酬が上がるのか……」


 この発見は瞬く間に広まった。


 ◆◆◆


 安易な考えを持つ者もいた。


「なあ、お前の顔を殴って報酬を山分けしねえか?」


「……軽くだぞ」


 ゴッ!


「全然軽くねえ!」


 三倍の報酬を得たが、殴られた男は「俺にも殴らせろ」と言い出した。

 殴り合いは延々と続き、翌日、二人は別のパーティに移籍した。


 教訓が生まれた。「仲間を殴ると、パーティが崩壊する」


 結果、強い敵と戦うしかなくなった。


 ◆◆◆


 こうして、ギルドに文化が根付いた。


「高難度の依頼に挑み、ボロボロになって帰ってくる」


 それが誇りとなった。


「よう、今日もいい腫れっぷりだな」


「お前もな。報酬三倍だ」


 二人は拳を突き合わせた。


 ◆◆◆


 街の人々は囁き合う。


「おい、聞いたか? あのギルド」


「ああ、新しいギルドマスターに変わってから、おかしくなったってやつだろ」


「あのギルド、冒険者が皆ボコボコらしい」


「でも強者ぞろいらしい、依頼の成功率も高いんだと」


「『修羅ギルド』って呼ばれてるらしい」


「それに、あそこの受付嬢も恐ろしいらしいぞ」


「受付嬢が?」


「ああ、ギルドマスターをシゴいてたって噂だ」


「シゴく? 受付嬢が?」


「ギルドマスターが泣きながら走り回ってたらしい」


「……何それ」


「しかも、とんでもない魔獣を従えてるんだと」


「魔獣? 受付嬢が?」


「ああ、巨大な狼だって」


「……それ、本当にただの受付嬢か?」


「さあな。でも、あの娘だけは怒らせるなって言われてる」


 ◆◆◆


 俺は窓から街を眺めていた。


「お兄ちゃん、街の人に怖がられてるんだけど」


 エミリーが不満そうだ。


「私、普通の受付嬢なのに!」


「兄ちゃんはその方が安心だよ」


 俺はエミリーの頭を撫でた。


 修羅ギルド。見た目で虐げられてきた者たちが集い、強者となる場所。

 しかし、これはまだ途中経過に過ぎない……。


 俺の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。


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