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地獄の宣言

 ついに完成した。

 僕は手の中にある仮面を見つめる。

 三日三晩、寝ずに作り上げた傑作だ。


 被ると顔が変わる魔法の仮面。

 反射と屈折の魔法を組み合わせ、装着者の顔を美形に変える。

 理論上は完璧なはずだ。


「よし、試してみよう」


 僕は仮面を顔に当てる。

 魔力が流れ、仮面が顔に吸い付くような感覚。

 そして……。


「おおおおっ!」


 鏡に映った顔は、まさにイケメンだった。

 彫りの深い顔立ち、通った鼻筋、キリッとした眉毛。

 僕じゃない。僕じゃないけど、僕だ。


「すごい……これなら……これならエミリーに……」


 胸が高鳴る。

 この顔なら、自信を持って気持ちを伝えられる。

 今すぐエミリーに会いたい。

 今すぐこの顔を見せたい。


「よし、行くぞ! 転送魔法!」


 僕は魔法陣を展開し、ウォールドの家へと転送する。

 かっこよく登場するんだ。

 イケメンの僕が、颯爽と現れるんだ。


 シュバッ!


「エミリー! 僕だよ!」


 僕は片手を顎に添えて決めポーズを取る。

 完璧だ。完璧な登場だ。


 エミリーは洗濯物を干していた。

 濡れたシーツを持ったまま、僕を見ている。


「……えっ?」


 エミリーの目が点になる。

 そして……。


「ぷっ……」


 口元が震え始める。


「ぷふっ……あは……あはははははっ!」


 エミリーは洗濯物を落として、お腹を抱えて笑い始めた。


「えっ? えっ?」


 僕は困惑する。

 何がそんなにおかしいんだ?


「あっははははっ! ファブ、なにそれ! あはははっ!」


 エミリーは地面にしゃがみ込んで、涙を流しながら笑っている。


「ちょ、ちょっと! 何がおかしいの!?」


「だって……だって……あははっ! 顔と体が……あはははっ!」


 顔と体?

 何のことだ?


「と、とりあえず中に入って! 鏡見て! あはははっ!」


 エミリーは笑いながら僕の手を引いて、家の中に連れていく。

 そして姿見の前に立たせた。


「ほら、見て」


 僕は鏡を見る。

 そこには……。


「……うわぁ」


 思わず声が漏れた。


 顔は完璧なイケメンだ。

 彫刻のような美しさ。

 でも、その下にあるのは……。


 猫背で、なで肩で、ひょろひょろの体。

 ブカブカの白いローブが、貧相な体をさらに強調している。


 イケメンの顔に、貧乏神の体。


「これは……」


「ね? おかしいでしょ? あははっ!」


 エミリーはまだ笑っている。


「顔だけ立派で、体がヒョロヒョロって……ギャップがすごすぎるよ!」


 確かにその通りだ。

 むしろ仮面を被って不気味になってしまった。


「うう……せっかく作ったのに……」


 僕は肩を落とす。

 これじゃあエミリーに気持ちを伝えるどころじゃない。


「ファブ、仮面外して」


「えっ?」


「いいから、外して」


 僕は仮面を外す。

 鏡には、いつもの僕の顔が映っている。

 不細工な、いつもの僕だ。


「うん、やっぱりこっちの方がいい」


「えっ?」


 エミリーは笑顔で言う。


「私、ファブの顔の方が好きだよ。イケメンの顔より、ファブの顔の方がいい」


「で、でも……僕の顔は……」


「だってファブはファブでしょ? 顔を変えたら、ファブじゃなくなっちゃうじゃん」


 エミリーの言葉が、胸に染みる。

 この子は……本当に僕のことを……。


「エミリー……」


「でも、せっかく作ったんだもんね。もったいないなぁ」


 エミリーは仮面を手に取って眺めている。


 その時、玄関の扉が開いた。


「ただいま」


 ウォールドが帰ってきた。


「あれ、お兄ちゃん、今日は早いね」


「ああ、今日の討伐は仲間に任せてきた。もう俺がいなくても大丈夫だからな。母さんの手伝いでもしようと思って」


 ウォールドは僕に気づいて手を上げる。


「おう、ファブ。来てたのか」


「やあ、ウォールド」


「ねえお兄ちゃん、ファブがすごいもの作ったんだよ!」


 エミリーが仮面をウォールドに見せる。


「何だこれ? 仮面か?」


「被ると顔がイケメンになるんだって!」


「イケメンに? 本当か?」


 ウォールドの目が輝く。


「ああ、本当だよ。試してみるかい?」


「いいのか? じゃあ……」


 ウォールドは仮面を受け取り、顔に当てる。

 魔力が流れ、顔が変化していく。


「おおっ! 本当だ! イケメンになってる!」


 鏡を覗き込むウォールド。

 確かに、顔は完璧なイケメンだ。

 でも……。


「……あれ?」


 ウォールドの動きが止まる。


 顔は彫刻のようなイケメン。

 でも体は……ぽっちゃり体型のまま。


 イケメンの顔に、ぽっちゃりの体。


「なんだこれ……」


 ウォールドの声が震えている。


「顔だけイケメンで、体はそのまま……余計に変じゃないか……」


「ね? ファブも同じだったんだよ。顔だけ立派で体がヒョロヒョロって」


 僕は肩を落とす。


「ごめんね、ウォールド。体まで変えるのは難しくて……せっかく作ったのに……」


「いや、ファブが謝ることじゃない。すごい技術だと思うぞ」


 ウォールドは仮面を外して、僕に返そうとする。


「でも、このままじゃ使えないな……」


 二人でため息をつく。


 その時、エミリーが口を開いた。


「じゃあさ、私が一肌脱いであげようか?」


「「えっ!?」」


 僕とウォールドの声が重なる。


「エ、エミリー!? 何を言って……!」


 ウォールドを見ると、真っ赤になって慌てている。


「こらこら…… 女の子なんだぞ、人前でそんな! ファブ、お前も何か言え!」


「えっ、いや、僕は……その……」


 僕も顔が熱くなる。

 一肌脱ぐって……何を脱ぐの?


「何慌ててるの? 二人とも顔真っ赤だよ?」


 エミリーは不思議そうな顔をしている。


「い、いや、だって、脱ぐって……」


「私が指導してあげる。鍛えてあげるって事!」


「「…………」」


 僕とウォールドは黙り込む。

 そうだよな。そういう意味だよな。

 何を考えていたんだ、僕は。


「もう、二人とも何だと思ったの?」


 エミリーはジト目で僕たちを見ている。


「ご、ごめん……」


「すまん……」


 僕たちは揃って頭を下げる。


 その前で、エミリーは腰に手を当てて宣言する。


「顔をイケメンにしたいなら、体も鍛えないとね。目標は仮面に合う体型!」


「き、鍛えるって……」


「エミリー、お前が俺たちを?」


「そうだよ。私、シフォンと一緒に毎日森を走り回ってたから、体力には自信あるんだよ?」


 エミリーは胸を張る。

 確かに、シフォンと一緒に森を駆け回っているエミリーは、見た目以上にタフだ。


「ファブはヒョロヒョロだから筋肉つけて、お兄ちゃんはぽっちゃりだから絞って、二人ともカッコいい体にしてあげる!」


「い、いや、でも……」


「僕は物作り専門で、運動は……」


「言い訳禁止!」


 エミリーがビシッと指を差す。


「二人とも、明日から特訓開始だからね!」


 そう言って、エミリーはニヤリと笑った。


 その笑顔を見た瞬間、僕の背筋に冷たいものが走る。

 隣を見ると、ウォールドも同じ顔をしていた。


「な、なあファブ……」


「う、うん……」


「エミリーの目、怖くないか……?」


「う、うん……目から光が消えてるね……」


「途中でのリタイヤ禁止! 覚悟してね、二人とも」


 エミリーの声が、やけに低く聞こえた。


「「ひいいいいっ……」」


 僕とウォールドは、揃って冷や汗を流した。


 こうして、地獄の特訓が始まろうとしていた……。

 

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