プロローグ
「お前はもう必要ない」
パーティリーダーのレオンが冷たく言い放つ。
「えっ?」
俺は一瞬驚いた。しかし、ついにこの時が来たかという諦めも湧く。
なぜなら俺は、ブサイクだからだ……
俺の名前はウォールド・ブルーム。
大柄でポッチャリ体型。顔は一重の小さな目に団子鼻、太い唇。一言で言うとゴブリンっぽい顔だ。
目の前でニヤついているイケメンとは大違い。その周りに立っている美人三人は、俺を見向きもしない。
「じゃあな、あばよ」
レオンはそれだけ告げると、女たちを連れてギルドを出ていった。
俺はしばらく呆然と立ち尽くす。
理由はなんとなく分かった。先日加入した新メンバーだ。盾持ちのナイト職はタンクも出来る。しかもエルフの超美人。
タンク職の俺は用済みになった。そういうことだ……
◆◆◆
ギルド内を見回す。冒険者で賑わっているが、俺に目を合わせる者はいない。
タンク職は余り気味。しかも俺は女性ウケが悪い。
それでも俺は諦めるわけにはいかない。声をかけてみる。
「悪いな、他を当たってくれ」
「なに? 近づかないでよ!」
分かりやすい拒絶。そのうちギルド内から冒険者はいなくなった。
仕方がない。一人で討伐に出るしかない。
◆◆◆
森の中を一人で歩く。腕には剣と盾。
自分で言うのも何だが、俺は弱い。頑丈なだけが取り柄で、攻撃役がいなければ何も倒せない。
数回の戦闘の末、俺は傷だらけで逃げ続けていた。気がつくと、見知らぬ場所だった。
「どうしよう……迷っちまった……」
喉が渇く。汗が傷に滲みて痛い。
歩き続けていると、どこからか水の匂いがした。耳を澄ますと、かすかにせせらぎが聞こえる。
「助かった……」
音のする方へ向かうと、開けた場所に出た。
綺麗な水をたたえた泉。水面がキラキラと輝いている。
俺は夢中で水を飲んだ。生き返る。
しかしそれもつかの間、水面に現実が映し出された。
傷だらけで腫れ上がった、俺の顔。
情けない。俺は一人じゃ何も出来ない。
つくづく自分が嫌になる。
「はあああああ……」
「はあああああ……」
ため息が重なった。……重なった?
顔を上げると、近くの倒木に男が座っていた。
立派な装飾の白いローブ。しかし容姿は――俺が言うのも何だが――お世辞にも良いとは言えない。
落ち窪んだ目、コケた頬、いびつな鼻に尖った顎。とても貧相な顔だ。
じっと水面を見つめて、何か思い悩んでいる様子だった。
こんな森の奥に武器も持たず男が一人。普通なら警戒する。
でも、その寂しそうな姿に自分が重なった。
「大丈夫ですか? こんな所で何を?」
俺は声をかけた。
男は俺に目を移し、ゆっくりと口を開く。
「君こそ、こんな所で何してるの?」
「特に何も……」
「そっか……」
男は再び水面に視線を戻す。
居心地が悪くなって、俺は何か話すことにした。
「立派なローブですね……」
「立派なのはローブだけだよ……君こそ立派な体格じゃないか」
「顔はダメですけどね……おかげで一人です」
「……その気持ち、分かるよ……僕もずっと一人ぼっちでさ……」
「じゃあ、今だけは二人ぼっちですね」
「ふっ、面白いこと言うね……それにしても傷だらけだ」
「こう見えて弱いんです。一人だと満足に狩りも出来なくて」
俺は顔を見せて笑ってみせる。頬の傷が少し痛んだ。
森の中で道に迷い、正体も知れない男と話している。不安なはずなのに、なぜかこの男を放っておけなかった。
何かに心を痛めている様子だが、踏み込むわけにもいかない。
何かきっかけはないかと考えていると、鞄の中に母が持たせてくれた弁当があることを思い出した。
「これ、食べますか? 母さんが作ってくれた弁当です」
「ああ、いただくよ……」
俺は二個あるサンドイッチの片方を渡した。
一口食べる。優しい香り、ほんのりとした甘さとふわふわの食感。母の愛情が伝わってくる。
男は食べながら涙を流し始めた。
「うっ、美味いなあ。これは美味い、うっ、うっ」
「ううっ、母さんはいつも俺のために……うっ、うっ。なのに……うっ、うっ」
俺も釣られて涙が溢れる。色々な感情が押し寄せてくる。
「ああ、僕もこんな美味しいもの作ってもらいたいなあ……ううっ」
「誰も僕のことなんて……ううっ」
森の中の美しい泉。その水面に、ブサイクと貧相から落ちる、涙の波紋が交差していた。
◆◆◆
「美味しかった。本当に! ありがとう、少しやる気が湧いてきたよ」
「それは良かった。母も喜びます」
「そうだ、これを君にあげる。僕が作ったものなんだけど、何か役に立つといいな」
男は数枚のカードを差し出してきた。
受け取って見ると、カードには『スキル名称』と『効果』が美しい文字で記されている。
何気なく裏返すと、手書きの文字があった。
『ボツ理由:チート過ぎる』
……チート?
「これ、何ですか?」
「スキルカードだよ。異世界からの転生者に渡すとか言われて作ったんだけどね」
「没だって突っ返されちゃってさ。せっかくの力作なのに、もったいないよね」
「良かったら君が使ってよ」
「あ、ありがとうございます……」
異世界? 転生者? 何だかよく分からないものを貰ってしまった。
困惑する俺に、男は両腕につけていた腕輪の片方を外して差し出してきた。
「これは絆の腕輪って言ってね。前にプレゼントしようと思って作ったんだ」
「受け取ってもらえなかったけど……」
男は空を見上げて遠い目をする。
「これを身につけていれば、相手を思い浮かべるだけで話ができるんだ」
「持っていてくれないかな? 君とは気が合いそうだし」
「そうだ、名前を聞いてなかったね。君は?」
「俺の名前はウォールド・ブルームです」
「僕はファブリウス。ファブって呼んでくれていいよ」
そう言ってファブは手を差し出してきた。そして俺たちは固い握手を交わす。
「ありがとう、ファブ」
「また会おうね、ウォールド」
ファブはそう言って手を振り、泉へと歩いていく。
そして――光と共に、泉に沈むように姿を消した。
水面に波紋と淡い光だけを残して。
「転移魔法……? 見た目によらず、凄い魔法使いなのかもな」
俺は泉を後にした。
手にはスキルカードと絆の腕輪。
後にこれが、俺の運命を大きく変えることになる。




