2
「なールーゼ、なんかあった?」
「なんかって?」
「んー最近雰囲気変わった気がするっていうか、
ぼーっとしてること多くね?」
「そう?自分じゃ分からないかも。」
週末は家にアルトが遊びにくることが多い。
何をするわけでもないが、小さいころからの習慣でなんとなく集まっている。
「アルにい、鈍いなあ。ねえさんは好きな人が出来たんだよ。」
「はっ?好きな人?」
「ソージェ?変なこと言うのやめて。」
「なにお前好きなやついんの?」
「はあ…買い出し行ってくるから2人で適当に話してて…」
無駄に面倒くさそうな方向に会話が進んだのでさっさときりあげる。
(みんな好きとか付き合うとかそういう話好きだよね。)
聞く分にはいいが自分が話のタネになるのはごめんだ。
ぎゃーぎゃーとまだうるさい2人を無視して外に出る。
(今日はアルのお祝いしようと思ってたのに。)
少し空気が変わるまでその辺を散歩でもするかと思って方向を変えた。
ギールさんはたまにパン屋に顔を出してはくれるが、特に進展はない。
軽く雑談をしてパンを買って行ってくれるだけだ。
(もっと仲良くなりたいけど、どうしたらいいんだろ…
気が利いて、余裕があって、優しそうで、どう考えてもモテそう。)
私は彼とどうなりたいのだろうか?
ジールさんが夢で別れた男の人だというのは間違いない、間違いようもない。
(でも今の私は夢の女の人なんだろうか?そうかもしれないし、違うような気もする。)
もし自分が夢の女の人だっとして、今の世界でジールさんと仲良くなりたいという気持ちは誰のものだろう?
考えすぎて更によく分からなくなって終わる。最近はこの繰り返しだ。
「あールーゼちゃん!今日おやすみなんだね。」
「ギールさん。」
「パン屋さん寄ったらなールーゼちゃん休みだって言われちゃった。」
へへへっと笑うジールさんを子供っぽくて可愛いと思う。
「ギールさんが来てくれたのにおやすみで残念です。」
「うん、でもここで会えた。」
笑いながら真っ直ぐ見つめられてドキドキする。
(この人無自覚の人たらし?人間兵器?)
「なーなー少し話さん?
たまにはゆっくり話したいなーって思ってたんだよね。」
「あ、はい、それならもう少し行ったところにベンチがあるのでそこでどうですか?」
「うん、そこ行こう。」
なんとか普通に返すことが出来た。
たまに思うが彼は言葉がストレートで心臓に悪い時がある。
(普通話したい、とかここまではっきり言う?言うの?)
「さ、どうぞ。お洋服汚れちゃう?大丈夫?」
「ありがとうございます、汚れてもいい服なので大丈夫です。」
「はあい。俺も大丈夫。
ずっと聞きたかったんだけど、初めて会った時に『前に会ったことありますよね』って言ったでしょ。
あれって人違い?俺は会った記憶ないんだけど、殆ど確認に近い聞き方だったから気になって。」
「あーあれは…多分私の勘違いです、すみません。」
「そう?うーん。
そっかあ、何回も聞いてごめん。
あと1こ聞いていい?」
「はい。」
「ルーゼちゃんってアルトくんの彼女?」
「えっいえ、幼馴染です。」
「じゃ、好きな人とか付き合ってる人っている?」
「いない、です。」
「じゃあさ、俺と付き合わない?」
「え?なんでですか?」
あまりの急展開に聞き返してしまう。
「まだ話した事少ないけどさ、ルーゼちゃんと話してると楽しいんだよね。
何でも話せるし、話したくなる。聞いて欲しくなる。
それが理由じゃだめ?」
「いえ、はい、私で良ければ。」
「ほんと?やったーーーー!
絶対気ぃ合うと思うんだよね。よろしくね、ルーゼちゃん。」
「はい…宜しくお願いします。」
(なんか、お付き合いする事に?なった。)
ジワジワと頬が熱くなってくるのに、ジールさんはニコニコと笑顔でこちらを見たままだ。
急展開についていけない。
(でも、すごく嬉しい…)
「あんまり深く考えなくて大丈夫だよ、もっと仲良くなりましょうって約束みたいなものだし。」
「はい。」
「ね、折角だし呼び方変えてもいい?前から何がいいかなって考えてたんだけど、ルールとかどう?」
「ルール………はい。私も考えていいですか?
ジールさんっていつもなんて呼ばれてます?」
「やった、俺かー
ジーとかジールさん、とかジルとかかなー?
もっと可愛く呼んでいいよって言ってるんだけどね。」
「なるほど…少し考えます。」
「うん、楽しみ!」
子犬のような目で見つめてくるジールさんがおかしくて体の力が抜ける。
「ふふ、ジールさんって可愛い系ですよね。」
「そう?俺可愛い?」
「かわいいです。
今まで会った人の中でいちばん。」
「嬉しいなあ、ルールもかわいいよ。」
「…はい。」
「照れてる。」
揶揄われてる、と思ってもジールさんの楽しそうな笑顔を見ると何も言えなくなる。
「そろそろ陽もくれるし帰ろうか。
勿体無いけどな、また会えるしな。ルール、明日は会える?」
「はい、でも私明日もおやすみなんです。ジールさんは?」
「それなら家まで迎えに行っていい?仕事終わったら行くよ。」
「家に弟もいるので、また明日ここで待ち合わせはどうですか?」
「弟がいるの?いいね、いつか会わせてね。じゃここで待ち合わせしようか。」
俺の呼び方については宿題ね、と言うジールさんと別れ
ソージェ達の元に帰ってもジールさんと付き合う事になったとは言い出せなかった。
(何でokしたのかとか聞かれても困る。いつか頃合いをみて話せば大丈夫よね。)
アルの為に作っておいたスープとケーキを出してささやかなお祝いをする。
「アルにい、仕事どう?大変?」
「大変だけど、ジールさんが居るからそこまで気を張らずにやれてる。
喧嘩の仲裁とか上手いし、酔っ払いとか乱暴なやつ相手でも強いし、すごい人だよ。
あ、でも怒ると怖い。」
「へー、一時期噂になってた人だよね。」
「噂?」
「姉さん知らないの?
結構前に他から越してきて、有望株だって人気があったんだよ。
いつもニコニコしてるし、話しやすいし。
でも全然女の子になびかないから、既に結婚してて奥さんがよそにいるんじゃないかって話。
本当かどうかは分からないけど。」
「ふうん。」
(なんか彼のいないところでこういう話するのは気が引ける。)
「ジールさんはすごい人だけど、今日の主役は俺だし。」
「アルにい!すごい!さすが!」
「お前さすがに棒読みすぎるだろ。」
アルがソージェの頭を乱暴に撫でる。
「へっへ、アルにいをかっこいいと思ってるのは本当だけどね!僕も早く働きたいなー。」
「だな!今度の休みに稽古でもするか。」
「する!僕剣使うやつがいい。」
「2人とも、とりあえずご飯食べよう?」
「ん。ルーゼの作るやつは何でも上手い。いつもありがとな。」
「いーえ。アルが警備のお仕事に就けて私も嬉しい、おめでとう。」
「おめでとうアルにい!」
「ありがとう。俺もっと強くなってこの街を守れるようになるから。」
少し真面目なトーンで話すアルが大人びて見えて、少しグッとくる。
彼はとても頑張り屋で真面目で、頼れる存在だ。幼馴染としても誇らしい。
遅くまでおしゃべりを楽しんで、寝る時間ギリギリにアルは帰った。
「姉さん姉さん。」
2人で軽く片付けをしていると、沢山はしゃいでご機嫌のソージェがソワソワした様子で近づいてくる。
「どうしたの?」
「僕も警備の仕事、目指せると思う?」
(ソージェは体を動かすよりも、頭を働かせる方に向いてると思っていたけど。)
「そうね、アルみたいになりたいの?
ソージェなら頭もいいし体を鍛えていけばなれるんじゃないかな。」
「かなー、かっこいいなアルにい。僕ももっと勉強もしないとね。
アルにいのペアってどんな感じの人なの?」
「ジールさん?
優しくて、穏やかで、可愛くて
何事も真っ直ぐって感じ。」
「かわいいの?詳しいね姉さん。よく話すの?」
「アルのペアの方だし、それなりにね。」
「まぁ…僕は姉さんが幸せならそれでいいから。」
「ソージェ?」
何でも分かってる、というような顔をして「おやすみ姉さん。」と隣の寝室に戻るソージェを見送る。
(私の弟って変わってるわよね…)
昔から彼は勘が鋭い。
たまに大人のような顔をする時があるのだ。
(私もそろそろ寝よう。
明日はギールさんに会える。)
仕事帰りならお腹がすいているだろうし、何か食べられるものがあったら喜んでくれるかもしれない。
(私、今結構幸せかも。)
自然と緩む頬をそのままに布団にもぐると、すぐに夢の世界に入ることができた。




