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09.失われた夢と探す未来

翔汰が夢の話をしてくれた夜、私はずっと眠れなかった。

彼が見せた真剣な眼差し。

プログラマーか、介護士か――選択肢は二つあっても、どちらも彼自身が望んでいる未来。

それに比べて、私はどうだろう。


事故に遭う前は、ピアノの教師になるのが夢だった。

小さな子どもたちに音楽の楽しさを教えてあげたい。

そう思って、毎日練習を重ねていた。

けれど、あの日からすべては途切れてしまった。

今では長時間ピアノに向かうことすら難しい。

「夢」なんて言葉を口にすること自体が、怖くなっていた。


翌日、リハビリを終えて病院の庭を歩いていると、翔汰が持ってきてくれたノートを思い出した。

「リハビリの記録をつけてみたら?」

彼に言われて書き始めたものだ。

ページをめくると、そこには私が書いた稚拙な文字が並んでいた。

「今日は十回立ち上がれた。」

「先生に褒められて、少し自信がついた。」

小さな前進を翔汰が喜んでくれたこと。

その笑顔を見るたびに、私はまだここにいてもいいのだと思えた。

……もしかしたら、それも夢のひとつなのかもしれない。


「ねぇ、翔汰。」

その日の夕方、私から切り出した。

「もし……私が新しい夢を見つけたら、笑わない?」

彼はきょとんとした顔で首を振った。

「笑うわけないだろ。俺だってそうだし。

 夢って、更新してもいいんだよ。」

「……更新?」

「そう。前の夢が無くなったからって、人生が終わるわけじゃない。別の夢を探せばいい。」

簡単に言うけれど、私にはまだ答えが出せない。

それでも、翔汰のその一言に救われる。


夜、机に向かってノートを開いた。

空白のページに、震える手で文字を綴る。

「私の夢は――」

そこで止まってしまった。

書こうとすればするほど、過去の挫折が頭をよぎる。

ピアノを弾けなくなった指。

涙で滲んだ鍵盤。

けれど、その下に小さくこう書いた。

「翔汰と一緒に笑っていたい。」

それが夢と呼べるのかは分からない。

けれど、今の私には確かに必要な願いだった。


次の日、翔汰にノートを見せるか迷ったけれど、結局渡せなかった。

恥ずかしいのもあったし、まだ形になっていない想いを見せる勇気がなかった。

でも、翔汰の夢を聞いた今、私も変わらなくちゃいけない。

立ち止まったままじゃ、きっと彼の隣にはいられないから。


――失った夢の先に、新しい夢を探そう。

そう心に決めて、私は再びノートを開いた。

小さな文字で、何度も消しては書き直しながら。

未来の私に手紙を書くように。

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