08.夢のかたち
病院のロビーで、診察を終えた私を待っていた翔汰は、どこか考え込むような表情をしていた。
声をかけようとしたけれど、その雰囲気に気圧されて、私は言葉を飲み込んだ。
「……どうかした?」
やっとの思いでそう尋ねると、翔汰は少しだけ笑って、肩をすくめた。
「いや……たいしたことじゃないんだけどさ。」
「たいしたことじゃない顔してないよ?」
思わず突っ込むと、彼は視線を宙に泳がせ、やがて真面目な顔に戻った。
「俺さ……将来のこと、少し考え始めたんだ。」
「将来?」
その言葉に胸がちくりとした。
私が事故で夢を失ったから。
それを思い出すたび、翔汰の未来まで縛ってしまうのではないかと不安になる。
「もともとはプログラマーになりたかった。パソコンに向かってコード書いて、システム作って……そういうのが面白くてさ。」
「うん、知ってる。」
「でも最近は……介護の仕事もいいなって、思うんだ。」
「介護……。」
私は小さく呟いた。
翔汰はゆっくりと話を続ける。
「お見舞いに通ってるうちに思ったんだ。
支えるって、ただ体を支えることじゃなくて、心を支えることなんだって。
俺、陽咲のリハビリに付き合いながら、それを実感した。」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
けれど同時に、怖さもあった。
――私のせいで、翔汰は夢を変えてしまうの?
「ねぇ、翔汰。」
私は思わず問いかけていた。
「もし私がいなかったら……プログラマーのままだった?」
彼は一瞬驚いたように目を見開き、それから真剣な表情で首を横に振った。
「違うよ。もちろん陽咲の存在が大きいのは本当だけど……俺自身が考えて決めたいんだ。
どんな道を選んでも、俺の夢だって胸を張りたい。」
その強い目を見て、息を呑む。
翔汰は、私に縛られて夢を諦めるんじゃない。
私と向き合う中で、新しい夢を見つけているんだ。
「……ごめん。」
気づけば、涙がにじんでいた。
「私、翔汰のこと信じてなかった。
私のせいでって、ずっと思ってた。」
彼は困ったように笑い、ハンカチを差し出してくれた。
「バカだな。俺が陽咲に支えられてるのに。」
「支えてるのは、翔汰だよ」
「いや、二人で支え合ってるんだろ。」
そのやりとりに、自然と笑みがこぼれた。
涙の後に笑えるなんて、不思議な気持ちだった。
その日の帰り道、夕暮れに染まる歩道を二人で歩きながら、翔汰がふとつぶやいた。
「夢ってさ、ひとつじゃなくてもいいんだな。」
「……うん。」
「プログラマーになってもいいし、介護士になってもいい。
大事なのは、どっちを選んでも後悔しないこと。
俺はそのために努力したい。」
私はその横顔を見つめながら、胸の奥で静かに願った。
――どうか、この人の夢が輝き続けますように。
そして、その隣に私もいられますように。
その夜、ベッドの上で考えていた。
事故で夢を失った私。
それでも翔汰は、新しい夢を見つけようとしている。
私は何を夢見ればいいんだろう。
私にできることは、なんだろう。
揺れる想いを胸に抱きながら、私は眠りについた。
きっと答えはすぐには出ない。
でも――翔汰となら、一緒に探していける気がする。




