07.小さな一歩
リハビリの帰り道。
病院の駐車場に向かう途中、私はふと立ち止まった。
「ねぇ、翔汰。」
「ん?」
「……少し、寄り道してもいい?」
自分でも驚くような言葉だった。
いつもなら「早く帰ろう」「疲れたから休みたい」と言っていた私だったが、今日は小さな勇気が芽生えていた。
「寄り道?」
翔汰は首を傾げて、それから優しく笑った。
「いいよ。どこに行きたい?」
「……近くの公園。」
私は視線を落としながら答えた。
あの事故以来、病院と家の往復ばかりで、外に出ることが怖かった。
でも翔汰が隣にいるなら――少しだけ挑戦してみたかった。
公園に入ると、夕方の光に照らされた遊具や木々が目に入る。
子どもたちの笑い声、ジョギングする人の足音。
すべてが懐かしくて、同時に胸を締めつけた。
私は一歩踏み出し、杖をつきながら歩く。
芝生の感触、風の匂い。
当たり前だったはずの景色が、こんなにも鮮やかに胸に迫ってくる。
「大丈夫?」
翔汰が隣でそっと声をかける。
私は息を整えて頷いた。
「うん……でも、ちょっと怖い。」
「怖いなら、俺の手を掴めばいい。」
そう言って差し出された彼の手。
一瞬ためらったけれど、私はその手に自分の手を重ねた。
あたたかい。
その温もりが、私の足元を支える力に変わっていく。
「ほら、ちゃんと歩けてる。」
翔汰が笑う。
「……ほんとだ。」
思わず笑みがこぼれた。
歩幅は小さい。
足取りはまだぎこちない。
でも――私は今、自分の意思で前に進んでいる。
その隣に翔汰がいる。
それだけで、不安が勇気に変わっていく。
芝生を抜けて、ベンチに腰掛ける。
夕陽が沈みかけ、空が淡いオレンジ色に染まっていた。
「……ありがとう、翔汰。」
「何が?」
「私と一緒にいてくれて。」
彼は少し驚いたように目を瞬かせ、それから照れくさそうに笑った。
「当たり前だろ。俺は陽咲と一緒に歩きたいんだ。
どんな景色でも。」
その言葉に胸が熱くなる。
気づけば私は、彼の肩に頭を預けていた。
今日の一歩は、ほんの小さな一歩。
けれど私にとっては、とても大きな意味を持つ一歩だった。
遠慮じゃなく安心して、共に迷惑じゃなく。
――これからも、少しずつ前へ。
私は翔汰となら、どこまでだって歩いていける気がした。




