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06.遠慮はいらない

「ごめんね……。」

リハビリの帰り道、病院の廊下を歩きながら、私はまた同じ言葉を口にしていた。


今日の歩行練習は昨日よりも少し長く歩けた。

それなのに、胸の奥はすっきりしない。

足を引きずる私のせいで、翔汰の時間を奪ってしまっている。

彼に迷惑をかけている――その思いが消えないのだ。

「ごめんって、何回目?」

翔汰が立ち止まり、私の方を見つめる。

「いや、でも……。」

「でもじゃない。陽咲は、俺に遠慮しすぎ。」

その言葉に胸がちくりと痛み、無意識に唇を噛む。

遠慮しているつもりなんて、なかった。

ただ――彼にこれ以上、重荷になりたくなかっただけ。


「俺さ、迷惑なんか思ったことないよ。」

翔汰の声は真っ直ぐで、いつになく強い。

「むしろ……頼ってくれる方が嬉しい。」

「でも……私、何もできないし……。」

「できないことがあるなら、俺と一緒にやればいい。

 そうやって少しずつ前に進んでいけばいいんだ。」

思わず視線を逸らした。

彼の瞳は、私の心の奥まで見透かすように真っ直ぐで、

胸の奥に隠した弱さを暴かれてしまいそうで、怖かった。


「陽咲」

翔汰が私の名前を呼ぶ。

その声は、優しくて、でも強くて。

「俺は……一緒にいたいんだ。

 大変な時も、嬉しい時も、悲しい時も全部。」

「……全部?」

「そう。だから遠慮しなくていい。

 弱いところも、情けないところも、全部俺に見せてほしい。」

思わず涙が込み上げて、思わず俯く。

翔汰の手がそっと私の肩に触れる。

その温もりに、心の奥の氷が少しずつ溶けていくのを感じた。


「……翔汰」

震える声で、私は彼の名前を呼ぶ。

「本当に、いいの……?」

「当たり前だろ。」

彼は少し照れたように笑って、私の目を真っ直ぐに見た。

「俺はずっと、陽咲と一緒にいたい。

 それが俺の願いだから。」

その言葉が、私の胸に深く染み込む。

遠慮なんていらない。

翔汰は、私を受け止めてくれる。

なら、私は――少しずつでも自分をさらけ出していこう。


病院の出口から外に出ると、夕陽が二人を照らした。

オレンジ色の光に包まれながら、私は翔汰の隣でそっと呟く。

「……ありがとう。これからは、もっと甘えるね。」

「おう、任せろ。」

彼は照れ隠しのように頭を掻いたけど、その笑顔はどこまでも優しかった。


私は初めて、遠慮じゃなく安心の意味で、彼の隣に立てた気がした。

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