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53.離さない

次に陽咲に会ったのは、リハビリの帰り道だった。

彼女は珍しく一人で歩いていた。足取りはまだ不安定で、杖に頼る姿が小さく見える。


――もう、見ていられなかった。

「陽咲!」

思わず声を上げていた。

彼女は肩をびくりと震わせ、振り返る。その瞳は驚きと、少しの怯えで揺れていた。

「……翔汰、どうして。」

「どうしてって……会いたかったからに決まってるだろ。」


押し殺していた感情が、抑えきれずに溢れ出す。

陽咲は視線を逸らし、唇を震わせた。

「やめて。……もう、これ以上は。」

「これ以上?何をやめろって言うんだよ。」

「私と一緒にいたら、翔汰が苦しむだけだから……」

その言葉に、胸の奥で何かが切れた。

両親の声と同じ響きを、彼女の口から聞かされるなんて。


「ふざけんなよ!」

思わず声が荒くなる。周囲の視線なんてどうでもよかった。

「誰が苦しいって決めたんだ?

 俺はお前と一緒にいたいんだよ!

 夢を諦めるとか未来を縛られるとか、そんなの関係ない!」

陽咲の目が大きく揺れた。

けれど彼女はまだ首を振る。

「でも……私は、翔汰の重荷にしか……」

「違う!」

彼女の言葉を遮り、強く言い切った。

「お前がいるから俺は頑張れるんだ。

 お前が笑ってくれるから、俺は前を向けるんだ。

 重荷なんかじゃない。

 陽咲がいなかったら、俺の未来なんて意味がない!」

言葉と一緒に、溜め込んだ想いをぶつける。

陽咲は涙をこぼしながら、それでも「ごめん」と小さく呟いた。


「謝るなよ……。」

翔汰は彼女に一歩近づき、震える肩にそっと手を置いた。

「俺から離れようとするな。

 俺は絶対に、陽咲を離さない。」

その瞬間、彼女の瞳から堰を切ったように涙があふれた。

人目も気にせず、声を殺して泣く陽咲を、翔汰はただ抱きしめた。

夜風が吹き抜ける街の片隅で、二人はしがみつくように互いを確かめ合った。

両親の反対も、不安も、未来への恐怖も。

全部抱えたままでもいい。

――離さないと、ここで誓った。

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