05.ふたりで進む一歩
「ほら、手を貸すよ。」
病院のリハビリ室,、翔汰は陽咲の前に立ち、そっと手を差し伸べた。
陽咲は少し戸惑った顔をしたが、やがて小さく笑って、その手を握り返す。
「……重いけど、いい?」
「当たり前だろ。俺だって頼られたいんだ。」
陽咲の手は、思ったよりも力強くて、震えていなかった。
けれど、その瞳にはまだ不安の影が宿っている。
ゆっくりと歩き出す。
一歩、二歩――
足を出すたび、陽咲の表情はぎこちなく歪んだ。
それでも彼女は、離そうとしない。
「大丈夫。俺がいるから。」
「……うん。」
周りの目なんて気にならない。
この瞬間、リハビリ室にいるのは、俺と陽咲だけのように感じられた。
「……七歩」
「八歩……」
陽咲は息を切らしながらも、必死に数を重ねていく。
翔汰はその横で声を合わせた。
「九歩」
「じゅ……十歩!」
最後の一歩を踏み出したとき、陽咲は力尽きるように俺の胸に倒れ込んだ。
「わっ……! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫……ちょっと疲れただけ。」
顔を上げた陽咲の頬は赤く染まっていて、けれどその瞳は誇らしげに輝いていた。
「できた……翔汰と一緒に、十歩。」
その言葉に胸が熱くなる。
昨日は一人で挑んで泣いていた陽咲が、今日は俺と一緒に笑っている。
――その変化が、ただただ嬉しかった。
休憩のベンチで並んで座る。
陽咲が少し照れたように口を開いた。
「一人じゃ無理だったけど……翔汰と一緒なら、できた。」
「そりゃそうだ。俺たち、二人で一つだろ?」
その瞬間、陽咲の表情が柔らかくほころんだ。
その笑顔を見て、俺は心の中で固く誓う。
――これからも、どんな困難でも一緒に乗り越えていこう。
たとえ遠回りになっても、ふたりで進む一歩なら、必ず未来へ繋がっていく。
その日のリハビリ記録には、陽咲が自分でこう書き込んだ。
「今日の一歩:翔汰と一緒に」
赤字の失敗ではなく、眩しいくらいの笑顔が、そこに確かに刻まれていた。




