42.すれ違いの予感
「一緒に立ちたい。」
そう言葉にした時、私は翔汰の笑顔を見て、少し救われた気がした。
けれどその夜。
自室に戻ってベッドに横たわると、胸の奥にまた別の不安が芽生えてしまう。
――私の決意なんて、本当に翔汰の支えになっているのだろうか。
――結局、彼の夢を変えようとさせてしまっただけじゃないのか。
昼間は強がれた。
でも、夜になると心は揺れ、答えのない問いが頭の中を渦巻いてしまう。
ベッドに横たわり、翔汰の事を考える。
ただそれだけで、胸がきゅっと締めつけられた。
「……ごめんね。」
声にならない言葉が、静かな部屋に消えていく。
一方の翔汰も、机に向かいながら心がざわついていた。
昼間、陽咲に言われたこと――「自分のために選んでほしい」
あの時は笑って返したけれど、本当は少し怖くなっていた。
――もし本当に俺が夢を選んで、彼女から離れてしまったら?
――その時、陽咲はどうなる?
「……考えすぎだろ、俺。」
ため息と共に頭を掻きむしる。
けれど、不安は消えない。
夢と陽咲、どちらも大切だからこそ、その二つを天秤にかけること自体が、息苦しくてたまらなかった。
翌日のリハビリの帰り道、私たちは歩幅を合わせられずにいた。
「……今日は疲れてないか?」
翔汰が気を遣うように声をかけてくれる。
「うん、大丈夫。」
私はそう答えながらも、うまく笑えなかった。
沈黙が続く。
以前なら、何でもない会話が自然に続いたのに。
今は、お互いの胸の内にある「言えないこと」が重くのしかかっている気がした。
――これ以上、すれ違いたくない。
でも、どう言葉にすればいいのか分からない。
私の指先は、隣を歩く翔汰の手に伸びかけて、途中で止まった。
握ってしまえば安心できるかもしれない。
でも、彼の未来を縛ってしまうような気がして、できなかった。
その日の夜、二人は同じようにため息をついていた。
――話したいのに、言えない。
――伝えたいのに、届かない。
そんなもどかしさが、心に小さな空洞を作っていく。
けれど、その空洞を埋めるような出来事が、すぐそこまで迫っていることを、まだ誰も知らなかった。




