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41.寄り添う夢

夕焼けの空を見上げながら、私は胸の奥がまだざわついているのを感じていた。

さっき、翔汰が口にした言葉。


――プログラマーをやめて、介護やリハビリの道に進むかもしれない。

その一言が、頭から離れなかった。


彼は本気だった。

ただの思いつきなんかじゃなく、私の隣で必死に考え続けた末の言葉だと分かってしまった。

「……やめて。」

あの時、思わずそう返した。だって、怖かったのだ。

自分が足を引っ張って、翔汰の未来を奪ってしまうことが。


帰宅してからも、私はベッドに座ったままスマホを握りしめていた。

――私は、何を望んでいるんだろう。

私のせいで、翔汰に夢を変えてほしくない。

でも同時に、私を想って揺らいでくれたことが、どこか嬉しくもあった。

矛盾している。どちらが本当の気持ちなのか、自分でも分からない。


「……弱いな、私。」

ぽつりと呟くと、目尻が熱くなる。

事故に遭ってから、ずっと「迷惑をかけないこと」ばかり考えてきた。

けれど翔汰は、そんな私を迷惑だなんて一度も言わなかった。

むしろ「意味を持たせたい」なんて言ってくれた。

その言葉が、私の心を少しずつ解かしていく。


翌日のリハビリ後、休憩室で水を飲みながら、私は意を決して翔汰に言った。

「ねえ……昨日の話、だけど。」

彼は少し驚いたように私を見て、すぐに笑った。

「まだ引きずってんのか。」

「引きずるよ。だって……翔汰の夢だもん。」

視線を逸らさずに続ける。

「私は、翔汰に好きなことをしてほしい。

 私に合わせて道を変えるんじゃなくて、翔汰自身のために選んでほしいの。」

翔汰は少し黙り込み、やがて深く息を吐いた。

「……そう言うと思った。」

その声に、どこか安心が混じっていた。

「でもな、陽咲。お前がいるから俺は考えられるんだ。

 お前を無視して“自分の夢”なんて言い張るのは、それこそ俺らしくねぇんだ。」

不意に胸が熱くなる。

彼は夢と私を、切り離して考えていない。

一緒に背負おうとしてくれている。


――なら、私も。

「……私も頑張るね。」

気づけば、自然にそう言葉がこぼれていた。

「リハビリも、これからのことも。

 翔汰に寄りかかるだけじゃなくて……一緒に立てるように。」

翔汰が少し目を丸くして、やがて照れくさそうに笑った。

「おう、期待してる。」

その笑顔を見た瞬間、心の中の迷いが少しだけ晴れていくのを感じた。


私たちの未来は、まだ形を持たない。

でも、彼が夢を揺らすほどに私を想ってくれている。

そして私もまた、その夢に並んで歩きたいと願っている。


――きっと、これからだ。

そんな確信だけが、胸の奥で小さく灯り始めていた。

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