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40.夢のかたち

夜の薄暗い部屋に、パソコンの冷たい光が広がっていた。

コードを書き連ねる指先が途中で止まり、翔汰は小さく息を吐く。

「……集中できねぇ。」

画面には中途半端に並んだプログラムの文字列。

以前なら徹夜してでも完成させていた。

でも今は、頭の片隅にいつも陽咲の姿がある。

リハビリで苦しむ顔、無理に笑う顔、時々見せる弱さ。

あの事故以来、目指していた“夢”が揺らいでいる。

本当に自分は、このままプログラマーを目指していいのか。

彼女の隣に立ちながら、それでいいのか。


翌日の病院、待合室で肩を並べて座る二人。

昨日より少しだけ柔らかい沈黙がそこにあった。

「……なぁ。」

翔汰は迷った末に、声を低く落とす。

「もし俺がさ、今の夢を諦めて……別の道に進んだら、変だと思う?」

陽咲は一瞬、言葉を失ったように翔汰を見つめた。

彼がそんなことを口にするなんて、想像したこともなかった。

「どうして、そんなこと……」

「お前を見てるとさ、俺、プログラム書いてるだけじゃ何も守れねえんじゃないかって思うんだ。」

彼の拳が膝の上で強く握られる。

普段の飄々とした翔汰からは考えられないほどの必死さだった。

「リハビリして、苦しそうにしてるのに、俺はただ横で見てるだけで……。

 それならいっそ、介護とかリハビリとか、そういう仕事を選んで……直接、お前みたいに困ってる人を支えられる人間になれたらって。」


陽咲の胸がきゅっと締め付けられる。

自分が迷惑をかけていると感じていたのに、彼はそのせいで夢を変えようとしている。

「……やめて。」

気づけば声が震えていた。

「翔汰が本当にやりたいこと、なくさないで。

 私のせいで、変えないで。」

彼女の目が真っ直ぐに翔汰を射抜く。

そこにあるのは、自分を守ろうとする必死さと、彼の未来を願う真摯さだった。


翔汰は目を伏せ、しばらく黙り込んだ。

胸の中で渦巻く葛藤は、簡単に答えを出せるものじゃない。

でも――。

陽咲がそこまで言ってくれるのなら、まだ立ち止まるわけにはいかない。

「……分かった。すぐに答えは出さねぇよ。」

苦笑を浮かべながらも、心の奥では少しだけ安堵していた。


その帰り道、夕焼けに染まる歩道を並んで歩きながら、翔汰は小さく呟いた。

「なあ……俺、やっぱりお前がいるから揺らぐんだと思う。」

「え?」

「悪い意味じゃねぇ。

 むしろ……お前がいるから、俺の夢に意味を持たせたいって思うんだ。」

陽咲は驚きと共に、胸がじんわり温かくなるのを感じた。

彼の夢が変わるのではなく、彼女の存在が夢の輪郭を変え始めている――。


二人の未来はまだぼんやりしている。

けれど、確かにその曖昧さの中に、新しい光が生まれようとしていた。

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