37.ぶつかる想い
足元の影が少しずつ重なり合い、また離れていく。
その繰り返しに、胸がざわついて仕方がなかった。
「……あの時のこと、後悔してるんだろ?」
沈黙を破ったのは翔汰だった。
声は静かだけど、奥に熱があった。
「え……」
「俺の前から、いなくなったこと。
本当は、今でも悔やんでるんじゃないのか。」
不意に心の奥を突かれて、呼吸が乱れる。
図星だった。でも、認めるのが怖かった。
「……後悔なんか、してない。」
必死に言葉を繋ぐ。
「だって、あの時は……それが一番正しいって思ったから。」
自分の声が震えているのが分かる。
否定しても、説得力なんてなかった。
翔汰は立ち止まり、こちらを振り返った。
街灯に照らされた瞳が、真っ直ぐに射抜いてくる。
「それでも……俺は、置いていかれたんだ。」
心臓を鷲掴みにされたような痛みが走った。
何も言えない。
喉の奥がひりついて、言葉にならなかった。
「勝手に背負って、勝手に離れて……。
俺には何も言わずに、全部一人で決めた。」
怒りと悲しみが入り混じった声だった。
抑えてきた感情が、今になって一気にあふれ出しているのが分かる。
「……だって!」
気づけば、私も声を張り上げていた。
「あなたに迷惑かけたくなかったの!
苦しませたくなかったの!
だから……だから私は……」
言葉が涙に変わった。
視界が滲んで、街灯の光がぼやける。
翔汰が拳を握りしめる音が聞こえた。
それが彼の必死さを物語っているようで、胸が締め付けられる。
「迷惑なんかじゃなかった!
むしろ……俺は、お前の隣にいたかったんだ。」
叫ぶような声。
その瞬間、胸に突き刺さるものがあった。
「……でも、私は……」
かすれた声で絞り出す。
「私は、あの頃……自分の弱さすら受け止められなかった。
だから、あなたを巻き込むなんて……」
嗚咽で言葉が途切れる。
両手で顔を覆って、立ち尽くすしかなかった。
翔汰は近づいてきた。
でも、すぐには手を伸ばさなかった。
ただ、目の前で深く息を吐き、静かに言った。
「……それでも、俺は諦めない。」
短い言葉。
でも、その響きは強く、揺るぎなかった。
胸の奥で、何かが崩れ落ちる音がした。
同時に、ずっと閉ざしていた心に小さな灯がともる。
涙に濡れた頬を拭えないまま、私はただ立ち尽くしていた。
隣にいる翔汰の気配を、確かに感じながら。




