36.歩幅のズレ
夜の街を並んで歩く。
すぐ隣にいるはずなのに、どうしても埋まらない距離があった。
街灯の光が地面に落とす影は、互いに並んでいるのに、ほんのわずかにずれている。
その影を眺めながら、胸の奥がざわついた。
「……こっちに来てたんだ。」
沈黙に耐えかねて、私が口を開く。
「まぁ、ちょっと。」
翔汰の返事は相変わらず素っ気ない。
でも、その声が確かに耳に届くことが、なぜか嬉しかった。
歩幅が合わなくて、時々どちらかが前に出たり、遅れたりする。
その小さなズレが、今の関係そのもののように思えてしまう。
「……あの頃はさ。」
思わず声が震えた。
自分でも何を言いたいのか分からないまま、言葉がこぼれていく。
「もっと……上手くできるって、思ってた。」
翔汰がこちらを見た。
街灯に照らされた横顔は、昔と同じで、それでも少し大人びていた。
「上手くって……?」
問い返されて、言葉に詰まる。
何をどう説明すればいいのか。
自分でも整理できていない想いが、胸の奥で渦を巻く。
「……一緒にいるだけで、全部大丈夫って思ってた。
でも……現実は、全然そんなに甘くなかった。」
吐き出した瞬間、後悔にも似た苦さが、舌の奥に広がっていく。
翔汰はしばらく黙っていた。
足音だけが二人の間を埋める。
やがて、彼が小さく息を吐いた。
「……俺も同じだよ。」
「え……?」
「お前が隣にいるだけで、何とかなるって思ってた。
でも、現実は……お前を支えるつもりが、逆に支えられてばかりで。
結局、あの時、何もできなかった。」
思わず立ち止まる。
振り返った彼の瞳には、苦しさと後悔が混ざっていた。
「……そんなことない。」
反射的に否定する。
「支えられてばかりなんかじゃなかった。
あの時……あなたがいてくれたから、私は……」
そこまで言って、喉が詰まった。
涙がこぼれそうになって、慌てて俯く。
沈黙が再び続く。
でもさっきまでの冷たい静けさとは違った。
痛みを分け合ったような、少しだけ柔らかい沈黙だった。
そして、二人の影が、また少しだけ近づいた気がした。




