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03.再起動の瞬間

翌週の放課後。

翔汰は机に向かっていた。目の前にあるのは、久々に立ち上げた開発環境。

キーボードの前に座ると、以前のように自然に指が動く……はずだった。

しかし、キャレットは点滅したまま、空白の画面が彼を見返している。

「……やっぱり、ダメか。」

声に出すと、胸の奥に溜まっていた重苦しさがわずかに漏れ出た。


再びノートを閉じかけたそのとき、机の上のスマホが震えた。

画面に表示された名前を見て、翔汰の手は止まる。


――陽咲。

「もしもし?」

『あ、翔汰? 今、大丈夫?』

「うん。ちょっと休憩中」

『……休憩って、どうせパソコンとにらめっこしてたんでしょ?』

図星を突かれ、翔汰は苦笑した。

「まあ、そうだけど。」

『……ねえ。私、お願いしてもいい?』

電話の向こうの陽咲の声は、少し緊張していた。


『リハビリでね、先生が「生活の中で楽しく続けられる工夫を見つけましょう」って言ってくれたの。

 だから……翔汰の作ったアプリ、使ってみたいなって。』

「アプリ?」

『前に見せてくれたじゃん。簡単に予定を管理できるやつ。

 あれ、すごく便利そうだなって思ってたの。

 私のリハビリ記録とか、毎日の小さな目標とか……あれでまとめられたら続けやすい気がする。』

翔汰の心臓がドクンと跳ねた。

陽咲が、自分の作ったものを必要としてくれている。


「……わかった。ちょっと改良してみるよ。

 リハビリ用にカスタマイズすれば、もっと使いやすくできるはずだ。」

『ほんと!? やった!』

電話越しに弾む声が響く。その笑顔が頭に浮かんで、翔汰の心に再び火がついた。


夜、翔汰は机に向かい直し、コードを書き始めた。

「リハビリ記録の入力フォームは……ボタンを大きめにした方がいいな。

 指が動かしにくいときでも押しやすいように。」

「グラフで変化を見られたら、モチベーションになるかも。」

ひとつひとつ手を動かすたびに、心が軽くなるのを感じる。

――これはただのプログラムじゃない。陽咲の未来に寄り添うためのものだ。

コードが繋がっていく音は、まるで途切れかけていた自分の夢を再起動させるリズムのようだった。


数日後、病院の休憩スペースで、翔汰はタブレットを陽咲に差し出した。

「ほら。試作品だけど、使ってみて。」

「わ……!すごい!ほら、こうやって今日の目標を入力して……」

陽咲は少し不器用に画面をタップする。

すると、色とりどりのアイコンが可愛らしく並び、リハビリの進捗が一目で見られるようになっていた。


「翔汰、これ……本当に私のために?」

「当たり前だろ。お前が頑張れるようにって思って作ったんだから。」

陽咲は目を潤ませ、けれど涙をこらえて笑った。

「ありがとう。翔汰がいてくれるから、私、もっと頑張れる。」


その笑顔を見て、翔汰の心に確信が芽生える。

夢を諦める必要なんてなかった。

自分の夢と、彼女を支えること――その二つは同じ道に繋がっているのだ。


その夜、翔汰は一人で空を見上げた。

星はまばらに瞬いている。

「……もう迷わない。俺は、この道でいく。」

呟きは夜空に吸い込まれていった。

けれど、胸の奥では確かな光となって燃え続けていた。

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