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27.小さな秘密

夕暮れの道を並んで歩いた帰り道、その余韻は、陽咲の胸の奥にまだ柔らかく残っていた。

けれど、布団に潜り込んだとき、心の奥にふとした影が差す。

――もし、これ以上迷惑をかけたら?

――翔汰の夢を、私が奪ってしまったら?

言葉にできない不安が、じわりと広がっていく。


「……秘密にしよう。」

誰にも聞こえない声で、陽咲はそうつぶやいた。

その秘密は、笑顔の裏に隠す決意。

「もう大丈夫」「心配ないよ」と言いながら、本当は夜ごと涙が滲むこと。

それを翔汰には絶対に言わないと決めていた。


一方で、翔汰も同じ夜にベッドで天井を見つめていた。

「俺にできること……ほんとにあるのかな。」

リハビリの隣で寄り添っているつもりでも、陽咲が必死に痛みに耐えている姿を見るたび、胸が締めつけられる。

笑って「平気だよ」と言うけれど、本当にそうなのか。

わかっていても、それ以上踏み込めない自分がもどかしかった。


翔汰の秘密は――。

実は、陽咲のために“あること”を調べ始めていることだった。

それは介護やリハビリの専門書を読むこと。

学校帰りに図書館へ寄って、見慣れない医学用語を追いかける。

将来の夢はまだはっきりしない。けれど、陽咲を支えるために動かずにはいられなかった。


翌日、リハビリ室の窓辺で、陽咲は翔汰の横顔を盗み見る。

彼の目が真剣で、優しくて、時折自分を包み込むように細められると、胸がいっぱいになった。

――言いたい。全部、本当の気持ちを。

――でも言えない。

小さな秘密が、二人の間に静かに積もり始めていた。

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