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18.見えない未来

カーテンの隙間から差し込む朝の光が、眩しさよりも痛みを連れてきた。

陽咲はベッドの上で膝を抱き、窓の外をただ見つめていた。

(このままじゃ、翔汰の未来を奪ってしまう……)


思えば、事故の後からずっと、翔汰は自分のそばにいてくれた。

痛みで動けない日も、言葉にならない不安に泣きそうになった日も。

彼の存在があったから、ここまで来られた。

――だけど。


最近の彼の顔には、ふとした瞬間に影が差している。

夢を語っていたときの輝きが薄れ、彼は迷っている。

それが自分のせいだと分かるからこそ、陽咲は耐えられなかった。

「……いっそ、別れた方がいいんじゃないか。」

思わず声に出してしまい、唇を押さえる。

言った途端、胸が引き裂かれるように痛む。

けれど、それが翔汰を守る方法だとしたら……。


同じ頃、翔汰は図書館の一角に座っていた。

机の上には就職情報誌と、介護関連のパンフレット。

開いたままのページには「介護福祉士養成課程」という文字が並んでいる。

「……俺、プログラマーになるんじゃなかったのか。」

苦笑しながら呟く。

子どもの頃からパソコンが好きで、将来はシステムエンジニアになろうと夢を見てきた。

だが今、陽咲の隣にいるとき、自分にできることは「彼女の助けになること」だけだった。

その思いが、進路を変えようとしている。

(これは、逃げなのか? それとも本当に俺のやりたいことなのか)

頭の中で堂々巡りを続けながらも、心の奥では答えが見え始めていた。

――陽咲を守りたい。彼女と生きたい。

それが夢にすり替わっているのかもしれない。


放課後、二人は約束もないまま、偶然リハビリ施設の帰り道で出会った。

「……やぁ。」

翔汰が声をかけると、陽咲は小さく会釈した。

並んで歩くが、言葉が出てこない。

以前のように笑って話せた日々が、遠い昔のように感じられる。

沈黙に耐えきれず、翔汰は切り出した。

「なあ、陽咲。俺……進路、介護関係にしようかと思ってる。」

その言葉に、陽咲は驚いて足を止める。

「……なんで?」

翔汰は彼女の横顔を見ながら、言葉を選んだ。

「お前の力になりたい。ずっとそばにいて支えたいんだ。」


胸の奥にしまっていた本音。

けれど、それは陽咲にとって刃となった。

「……ダメだよ。」

震える声で、陽咲は首を振った。

「翔汰の夢、私のせいで変えちゃダメ。

 そんなの……私、耐えられない。」

翔汰は思わず言い返す。

「違う!お前のせいじゃない。俺が決めたことなんだ。」

「でも――!」

陽咲は声を詰まらせ、その場で立ち尽くした。

言葉の続きを飲み込み、俯いたまま。

二人の間に、夕暮れの影が伸びていた。

互いを思っているはずなのに、未来の形が見えない。

それぞれの願いが交わるはずなのに、すれ違いばかりが深まっていく。


その夜、陽咲は机に向かい、ノートを開いた。

「翔汰と別れるべきか、続けるべきか。」

書かれた文字が涙でにじむ。

翔汰は翔汰で、自室のベッドでスマホを握りしめていた。

「本当にこれでいいのか……。」

彼の問いもまた、答えを見つけられずに宙を彷徨っていた。


二人は互いに手を伸ばしたいのに、その未来はまだ、霞の向こうにあった。

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