表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/37

身代わり人、これが俺らの仕事だよ【4】




顔を出した社長は怖いぐらいの形相だ。

それとは逆に島山は穏やかな表情。


パイプ椅子に縛り付けられている篠原は二人の顔を交互に見ていた。


「え?」


思わず篠原が声を出してしまうほど二人は似ていた。


「お前の存在を消さないことには俺は安心できない」

「弁護士通して全て放棄するって書類作っただろ」

「あんなもの、なんの盾にもならない」


島山は実家と縁を切っていた。

昔から出来のいい弟、島山亜也しまやまあや、そして出来の悪い兄が島山だった。


しかし昔ながらの考えの父親。

そして父親が経営する会社の上層部の人間たちは兄で

ある島山に後を継がせることが当たり前だと考えていた。


兄の咲也は大学の時に藤井哉太に出会い、鏑木大智にも出会った。

二人が島山の身代わり人という仕事への情熱をさらに

燃やしてくれた。


その時にはもう島山は自分にはその仕事しかないと確固たる信念を抱いていたのだった。


「咲也がうつけのフリをして、親父たちに咲也じゃ後継は無理だと判断するように持っていったんだろ」

「うつけのフリなんてしてないって。

マジで俺がバカなのお前が一番知ってんだろ。

賢いヤツが後を継ぐ。

長男とか次男とか関係ないってことだよ」


島山は知っていた。

弟である亜也(あや)が、会社を継ぐことが決まっている兄の

島山を助けていくために小さい頃から一生懸命勉強していたことを。


島山は勉強も経営学も嫌いだったが、亜也は勉強が

楽しいと言っていた。


「人間には向き不向きがある。

俺が会社継いでたら今頃潰れてるぞ?

まあ、まだ親父の代だから大丈夫かもしんないけどな」


島山をにらみつけていた亜也が目を伏せる。

その時筧の声が全員の耳に響いた。


「咲の親父さんの会社のホームページ見たんだけど、

CEOが亜也くんになってる」


島山が目を伏せた亜也を見ると、ふふ、と怪しげな

笑みを浮かべていた。


「何言ってんだろ。咲也は何にも知らないんだな。

そうか。縁を切るってそういうことか…」


会社だけでなく、島山は家の財産なども全て放棄する

ために親と絶縁していた。


元々は仲が悪いわけではなかったが、家を出るために

島山は会社や家督を継ぐ意志のないことを伝え、それを叶えるには絶縁しかなかった。


「親父、がんになって引退したんだよ」

「え、」

「すぐ死ぬとかじゃない。もう二年になるかな。

抗がん剤治療とかで入退院を繰り返してて仕事どころ

じゃないから」


島山の顔が青ざめる。

家を出る時に最後に見た父親は目に涙を浮かべていたが、最高経営責任者としての威厳を保っていた。


島山が知らないところで亜也は父親の後を継ぎ、

最高経営責任者として仕事をしながら父親の病気のことでも動いていた。


ひとりでどれだけ辛かっただろう。

父の代からの上層部の人間たちがいるからとはいえ

苦労ばかりだったはずだ。

真実を知った島山の胸は痛くて苦しかった。


「咲也を戻す、って話が出てる」


完全に島山の気は抜けている。

今襲われたらマズい。

篠原はいつでも島山の盾になれるように自分自身に

気合を入れた。


「俺がそれを阻止する。

なんで今更仕事も何もできない咲也にポジションも

財産も持っていかれなくちゃなんない?

そんなバカな話あるか?」


さっきから何も話さない島山。

亜也とも目を合わせない。

どこか一点を見つめているだけだった。


「咲は島山家の全てを放棄してるんでしょ?

弁護士とか通してるってことは、それを公正証書に

してるんでしょ?戻るのはどう考えても無理だろ」


篠原が、何も話さない島山の代わりに言うと、

亜也はふふ、と悲しそうにも見える笑い声を出した。


「だから言ってんじゃん。

あんなもん何の盾にもならないって。

本人が生きてる限り何度でも書き直せる。

無効にもできる。

親父も咲也もまだ生きてる。

戻すなんて簡単なことなんだよ」


亜也はやはり悲しそうな笑顔だ。

この表情にはどんな思いが編み込まれているのか。


篠原が考えていると亜也の携帯が鳴った。


「出ていいよ。俺たち逃げないから」


篠原がそう言うと、亜也は拳銃を構えていない方の

手で携帯を取り出してタップした。


「はい島山です。はい、はい、わかりました。

すぐに行きます。よろしくお願いします」


しんとした部屋で亜也の携帯から漏れ聞こえた声。

お父様の血圧が下がってきました、と看護師が言って

いた。


どうやら入院していた父親の容態が悪くなったようだ。


携帯を切った亜也は唯一動ける上川に、隣の部屋にいる右近と鏑木をまず外へ出すように、と指示を出した。


島山と篠原を人質に取られている。


鏑木は右近を人質にしているので、外へ出ることを拒否しようとしたが、

隣の部屋の危険性は低いと判断して、大人しく右近とともに外へ出た。


続いて亜也は上川に丹下を起こして二人で外へ出る

ように指示を出す。


奥の部屋は島山、篠原、亜也の3人だけになった。


「行く?一緒に。親父のとこ」


上川、丹下、右近を外へ出したのは、島山を誘うところを聞かれないためだった。


右近たちは絶対に会社に島山を戻さないために動いている。

たとえ父親が危篤だとはいえ、島山を父親に会わせる

ような言動を聞かれると裏切りだと思われるのだ。


拳銃を向けながら亜也は島山にもう一度聞いた。


「どうする?最期かもしれないよ」

「行かない」

「咲也、」

「あの人はもう俺の親父じゃないから」


島山がニコッと笑う。

うん、とだけ頷いた亜也は部屋を出て行った。


父親が危篤というイレギュラーなことが起こり、

一旦中断のようなカタチになったみたいだ。


篠原が、さっき島山が散歩のように後ろを歩いた時に

外してくれていたロープを床に落として、縛られていた手首のネクタイを器用に外した。


「ホントに良かったの?」

「うん。行った方が辛いから」


島山をギュッと抱きしめてから、篠原は奥の部屋を

出た。


残された島山はひとり窓の外を見上げる。

昼を過ぎた眩しい太陽がその瞳を白く彩った。


「咲」


また奥の部屋に戻ってきた篠原に島山が振り向くと、

篠原が首を横に振っていた。


「なるほど。おーい。筧ー?」

「はいよ。この部屋の鍵はアホみたいヤツだったけど、入り口の鍵はテンキーだわ。

中にもテンキーがついてただろ。

大智も外からは開けられないみたいだから、今、哉太と合流して外にいる。

右近たちは亜也くんについて一旦戻ったみたい」


鏑木と藤井が入り口のドアの外でテンキーと格闘して

いたが、3回間違えたので一定時間ロックが掛かって

しまったらしい。


「咲くん?篠くん?」

「おう哉太。ダメか?」

「やみくもに入れてもダメだろうね。ロックがいつ外れるかわかんないけど、亜也くんが戻るまで無理そう」

「仕方ない。ありがとな。こっちも中からやってみるわ」


亜也がいつ帰ってくるのかわからないので、藤井と鏑木は入り口のドアが見えるところで待機。


部屋の中には島山と篠原が閉じ込められている。

入り口のドアの前に立った島山がテンキーに4桁の

番号を打ち込んだ。


【Wrong PIN】


小さな長方形のモニターに番号間違いを示す文字が出てくる。

亜也の誕生日を入れたが違ったみたいだ。


「亜也くんが設定したんじゃないかも」

「ここの元々の、ってこと?マジかー。そんなの永遠に無理じゃん」


一回で諦めた島山が机に座る。


右近が使用していたパソコンの画面ではトランプが

華やかに並んでいた。

その後篠原も失敗してロックが掛かる。


島山が座った右近の机に一番近い鏑木が座っていた机に篠原が座った。


「亜也くんの目的は咲を殺すこと…なんだよな」


島山の過去を篠原は知らなかった。

他のメンバーも知らなかったのかもしれない。


それは島山が完全に過去を捨てた証でもあるのだ。

島山がそれほどまでにしている覚悟が、弟である亜也に伝わっていなかったということなのか。


それも篠原にはなんだか変な気がしていた。


「俺の存在が亜也をおびやかしている。

いつかまた親父の会社、いや、亜也の会社に俺が戻ってなにもかも奪うってな。

親父がもし亡くなれば亜也の不安はもっと大きくなる」

「うーん」

「と、まあ、表向きはこんな感じだ」


目を細めて島山が笑う。

片手で頬杖をついて篠原の方を見ると篠原も同じように微笑んでいた。


「見つめ合うのはいいけどお二人さん、カメラあるの

忘れてない?」

「ロック外れるまで俺らもヒマなのよ。

混ぜてよ。ほら、大智くん昼寝しそう」


篠原の顔が真っ赤になる。

その顔を見た島山がさらに目を細めて微笑んだ。


「もう〜邪魔しないでくれるー?」

「違っ!そんなんじゃない!」


マイクをつけていない篠原の声を島山のマイクが拾う。それを聞いてみんなで笑った。


「で?表向きはそうだけど裏向きは?」


「で?表向きはそうだけど裏向きは?大智ー?

起きろー。咲が今からいい話するぞー」

「マジ眠い」

「こんな時に眠くなるなんてさすが大智!」


まだ顔の赤い篠原と島山が、眠そうな鏑木の声を聞いて笑った。


「裏向きは…俺のためだよ」

「咲の?」

「俺に背負わせないため。俺を自由にするために亜也はあんなこと言ってるんだ。

右近をはじめ会社の人間にはそんなこと言えねえよ?

アニキには好きなことやらせてやってください、

しんどいのは俺だけでじゅうぶんです、なんてさ」


亜也はそんなことは何ひとつ言ってはいない。


しかしこれを聞いていたメンバーは誰ひとりとして

島山の想像だとは思わなかった。 


縁を切っても切っても繋がっている。

それは島山と亜也にしか見えない光なのだ。


「兄弟っていいな。うらやましい。

ほら、大智のパートナーのしずかさんと弟のひなたくんも、良い兄弟だもんな」

「篠原…ひとりっ子か?」

「ううん。4人兄弟」


島山が椅子からズルッとすべり落ちる。

ははは!と筧と藤井の笑い声がイヤホンから聞こえた。


「めちゃめちゃいるじゃん」

「俺以外みんな女なんだよ。兄とか弟欲しかったな、

って思って」


姉か妹かわからないが、篠原以外全員女だと聞いて、

島山はきっと美人であろうその姉妹を想像してニヤニヤした。


「でもさ、何も殺すマネまでしなくてもいいんじゃないの?

咲の言うことが本当なら」


篠原の言うことは一理ある。

いくら書き直せるとはいえ公正証書まで上げているのだ。


島山が戻ることを拒否すればそれで終わる話。

それなのになぜ亜也はこんな手段を取ってまでも島山がこの世にもういないという絵を描こうとしたのだろうか。


「そこがわっかんねえんだよなあ」


あはは、と島山が大きな口で笑う。

いつも通りに振る舞ってはいるが、島山が父親のことで頭がいっぱいなのが篠原にはわかった。


「あ、お父さん大丈夫みたいだよ」


ホッとしたような鏑木の声がみんなのイヤホンから

聞こえる。

島山と篠原が顔を見合わせた。


「亜也くんに盗聴器を持って行ってもらったんだよ」

「大智いつのまに!やるじゃん」


筧がうれしそうに手を叩く。

大丈夫みたい、というのを聞いて島山が一瞬泣きそうな顔になった。


「血圧が下がったって連絡もらってたみたいなんだけど、昨日から飲んでる血圧の薬が効き過ぎてただけだって。

もう少し量を減らして調整する、って先生が今話してるわ」

「マジかー。もう、騒がせやがって」


力が抜けてしまった島山がまた椅子から落ちそうになる。

篠原があわてて支えて二人で笑った。


「亜也くんも最近仕事が忙しくてなかなかお父さんの

病状が掴めてなかったんだろな。

お父さん今落ち着いてるみたいだよ。

先生が薬の調整ができたら退院しましょう、って

言ってる」

「そっか…大智ありがと。

ということはもうすぐ亜也がまた戻ってくるな。

筧、篠原だけでも出したいんだけどなんかいい方法

ねえか?」


島山の体に手を添えていた篠原が目を丸くする。

そしてぶんぶん、と激しく首を横に振った。


「何言ってんの。いくら殺す気はないとはいえ咲ひとりなんて危険だよ」

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないよ。咲のことまだ完全に信じてない

からここに俺を残したんだろ」


篠原のいうことはもっともだった。

それは島山も同じでまだ完全に亜也のことを信用していない。


しかしそれよりも篠原が自分のことで危険な目に遭うことの方が島山には辛かった。


「亜也くんたちが戻ってきて、ドアが開けたと同時に

篠が強行突破するしかないけど…

亜也くんひとりならなんとななりそうだけどあとの

3人がいたらその場で捕まるよな」

「ねえ、篠くんがどこかに隠れてて後でこっそり

出るってのは?俺と大智くんでロックナンバー読む

からさ」


藤井の提案に島山はうんうん、と頷く。

そのすぐそばで篠原はずっと首を横に振っていた。


「哉太の作戦でいくか。おい篠原、」

「やだやだ。咲ひとり置いてけない」


膝に力が入っていない篠原を島山が床に座らせる。

島山も一緒に床に座り、篠原の肩に手を置いた。


「逆だったらどうだ?」

「いやもうそんなのいいから」 

「いいから答えろ」

「…咲を、逃す」


篠原が唇をギュッと噛む。

色の白い篠原の顔が上気してピンクに染まっていた。


「おんなじ気持ちなんだよ」

「…でも」

「お前のことが大事だから。頼む篠原。逃げてくれ」

「…」


島山が指で触れた篠原の頬が熱い。

伏せた長いまつ毛が揺れて、篠原がこくん、と頷いた。


「その代わり、絶対死なないでよ」

「当たり前だろ?デートが待ってんだから」

「え?」

「え?じゃねえよ。忘れたとは言わせねえぜ?」


そしてみんなで帰ろう。


昨日の夜、そう約束したことを島山と篠原は思い

出して、またそれをあらたに誓った。


「もう、こっちに向かってる。

今タクシーに乗ってるのは亜也くんひとりみたいだけど、会社に寄って3人を拾うみたい。

先に会社に行ってからここへ回るように運転手に

言ってる」

「オッケ。じゃあ篠はどこか隠れるところ探して、

大智と哉太はロックナンバー読んでからすぐに連絡。

咲は…その辺に適当に」

「おいおい筧。なんか俺だけ雑じゃね?

今回の主役なんだけど」


やっと笑った篠原に島山が頬を合わせる。

そして二人で篠原が隠れるところを探した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ