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絶望ブリー【6】






「よーし。宮良(みやら)の机から探すか」


島山がそう言って北野(きたの)の机から立ち上がる。

頷いた鏑木も西(にし)の机から宮良の机に移動した。


「持ち歩いてたら最悪だな」

「その可能性あるよね。

アイツ、バカのくせに用心深いから」

「あはは。大智言うねえ」


話しながらふたりで宮良の机の引き出しを開けていく。

中を崩さないように全ての引き出しを探したが出てこなかった。


持ち歩いているとすれば上着の内ポケット。

ぶつかったフリでもしてスるしかない。


「あれ」


鏑木の声に机の上を確認していた島山が足元を見る。

しゃがみ込んで小さくなっていた鏑木が一番下の薄い引き出しを引いていた。


「すげえとこに引き出しあんだな」

「隠し引き出しかな。でも開かないわ」


鏑木がまたその引き出しを引くとコンコン、と引っかかる音がする。

さらに頭を下げてのぞき込むと鍵が閉まっていた。


「鍵は…宮良が持ってるだろな」

「大智、開きそうか?」


鏑木がうん、と頷いて胸ポケットから細く小さな針金を取り出す。

指先でそれをつまんで鍵穴に差し込んだ。


「いけるわ。単純なヤツだ」


差し込んだ針金を少し動かすと抵抗してくるものに当たる。

さらに針金を動かすとカチャ、と音がした。


「机の鍵だもんな。単純だろ。開いたか?」

「開いた」


針金を抜いた鏑木がその手で引き出しを開ける。

薄い隠し引き出しは厚みが3センチほどしかない。

それなのにその中は結構な量のものが詰め込まれていた。


鍵がかけてあるので宮良は安心している。

宮良がこの引き出しの中身を確認することは、

この一件が終わるまでないだろう。


モニタリングをしていた時もひとりになった宮良は椅子を蹴ったりするだけで、この引き出しを確認している様子はなかった。


触れない方が安全だと思っているみたいだ。

ガサガサと音を立てて島山と鏑木は本物の予告の手紙を探した。


「これじゃね?」


下の方から先日宮良が島山代行事務所に持ってきた封筒と全く同じ真っ白の封筒がでてきた。


うん、と頷いた鏑木に頷き返して、島山は封筒を開けた。



宮良惟久(みやらいく)殿】


数行印刷された文字の一番上に丁寧に宮良の名前が書かれている。


スッと立ち上がり、島山と鏑木はふたりでその真っ白な手紙に顔を近づけた。


「お前にばら撒かれたあの写真のせいで、俺は家から一歩も出られなくなった。

学校も辞め、生きてる意味もわからない生活を送っていた」

「あの写真…ね」


おそらくこれを書いた犯人が外へ出られないぐらいの写真を、宮良がSNSか何かで撒いたのだろう。


それが原因で犯人は引きこもりになり、学校も辞めざるを得なくなった、ということらしい。


「お前に奪われた人生の時間はもう帰ってこない。

だから今度はお前の残りの命の時間を俺が奪う、か」


手紙を持っている鏑木が唇を噛む。

顔を近づけていた島山も怒りを露わにしていた。


「奪われた人生の時間…。

宮良はそんなことなんにも考えずに、

ただ楽しいからとか、暇だからとかいう理由でやったんだろな」


藤井のイジメの件を目の当たりにしていた島山が

ドン!と宮良の机に手を置く。

それはまるで宮良を押し潰しているみたいだ。


島山と鏑木は荒くなった呼吸を必死で整える。

来客の元に行かせた宮良がいつ帰ってくるかもわからないので、鏑木は自分を落ち着かせて

引き出しを閉め、また小さな針金で鍵をかけた。


「咲ー?大智ー?」


筧の声だ。なにか進展があったかもしれない。


島山と鏑木は北野と西の机にそれぞれついて耳の奥に入れたイヤホンに集中した。


「筧、どうした?」

「哉太カメラが裏口からの侵入者を捉えたよ。

昼休みが終わってるから出入りする社員は少ないし、しかもフードを被ってるから社員じゃない」


宮良が支店長を務めるこの千葉支店は男性社員は抑えた色味のスーツ。

女性社員はベストとブラウスの制服を着用している。

フードを被った社員などいない。


裏口は社員なら誰でも出入りできるように営業時間中は施錠されていないが、社員証を提示するなどのシステムはなかった。


「犯人かも」


筧の声にコピーの島山と鏑木はもちろん、ウォッチの藤井、篠原も強く頷いた。


筧がフードを被った男を尾行するように、と裏口を撮っていた藤井に指示を出し、社内に普通に入っていく様子をモニタリングした。


「あ、そうだ。本物の予告の手紙、持ってるから」

「腹立つ内容だったよな」


読み上げてくれたおかげで、メンバー全員が本物の予告の手紙の内容を知ることができた。


「人の人生の時間を奪ったヤツは、自分の人生の時間で返すしかない」


震えたような筧の声。

犯人のためにも宮良にこのことをわからせないとならないのだ。


「差出人の名前はなかったけど、宮良は誰かわかってるはずだ」


島山が机の下に先ほどの予告の手紙を広げ、筧にも見えるように自身が持っていたカメラで記録のために撮影した。


「なんらかで破棄されるかもしれねえから。

筧、保存頼むわ」

「はいよ。あ、侵入者が来る前に宮良が戻ってきた」


ウォッチの篠原が支店長室に入る前に、入り口に仕掛けたカメラが、戻ってきた宮良の姿をとらえていた。


北野と西をコピーしている島山と鏑木が素知らぬ顔で仕事をしているフリをする。


ドアを開けて戻ってきた宮良はふたりに聞こえない

小さなため息をついた。


「奥多摩の土地の値段交渉でした」

「上げろってことですか?」


ムカついた顔の宮良に西をコピーした鏑木がパソコンに視線を置いたまま聞く。


はい、と言って宮良は自分の机に座った。


コピーの二人は視線の端で宮良を観察する。

どうやら引き出しを開けられたことに全く気づいていないようだ。


「プール、ジム付きのマンションなんて今時珍しくもないのに、分譲価格を高く設定するつもりならもう少し値段を上げないと売らないとか言い出しまして」

「で、交渉はどうなりました?」


北野をコピーした島山が聞くと、とりあえず保留してきたと宮良が小さな声で言う。

仕事のことをあまり話すとコピーしていることが宮良にバレてしまうおそれがあるので、宮良の返事には答えなかった。


「フードの侵入者。やっぱ犯人みたいだよ。

今、支店長室の前にいて辺りをうかがってる」


筧からの報告にコピーしている島山と鏑木は宮良にわからないように目を合わせて頷く。


犯人が入ってくると同時に藤井もまぎれて入ってくるようだ。

これで元々いるウォッチの篠原を含め全員が支店長室に揃うことになる。


コンコン、とノックが聞こえた。


「犯人だから気をつけて」


筧の声に北野をコピーした島山が小さく頷き、ドアの方へ歩いて行った。

社員だと思っている風を装って名前も聞かずに普通にドアを開ける。


宮良は何も考えずにパソコンに向かって先ほどの商談の資料を見ていた。


ドアを開けた島山が突き飛ばされて、ドン!と派手な音とともに床に尻もちをついた。

その音に鏑木が瞬時に立ち上がって島山のところへ駆けつける。


宮良はビックリした顔でその光景を見ているだけだった。


フードを被った男は後ろ手にドアを閉め、鍵をかける。

簡単な鍵だが外からはもちろん開かない。


密室になったことに気づいた宮良が大声を上げた。


「誰だ!」


床にぺちゃん、と座っている島山の横で鏑木がしゃがんでフードの男を見上げている。

宮良は自分の机から後ずさって壁に背中をつけていた。


男はゆっくりとフードを脱いで宮良を見つめた。


「宮良。久しぶりだな」

「お、お前なんか知らん!出て行け!」


北野と西をコピーしている二人は立ち上がりながら、宮良とその男を交互に見た。


「支店長のお知り合いですか?」

「知りません!知らないって言ってるだろ!

出て行け!」

「手紙は読んでくれたか?宮良」


壁にくっついている宮良の方へ男が歩いていく。

北野と西に知られるわけにはいかない宮良はとぼけるしかなかった。


「手紙なんか知らん!ち、近寄るな!」

「支店長、手紙というのは…」

「俺は何も知りません!

け、警察を、警察を呼んで!」


島山が男に近づくと、男は服をめくってズボンに差していたなにかを抜いて島山に向けた。


「ひぃっ!!」


宮良の金切り声が部屋に響く。


男が手にしていた黒いかたまりは拳銃だった。

島山が一歩後ろに退がると、男は拳銃を宮良に向けた。


「や、やめ、お前らっ!こっちに来い!

盾になれ!」


今の今まで北野と西に敬語を使っていた宮良が人差し指を立てた手を激しく振って命令する。


しかし北野と西をコピーした二人は盾になることなどもちろんせずに、取り乱している宮良を険しい表情で見つめていた。


「犯人に吐かせて。偽物かもしれないけど、

飛び道具を持ってるから長時間は危険」


筧からの指示に西をコピーしている鏑木が宮良の方を向いて、自分たちに背中を向けている男に後ろから話しかけた。


「私たちは宮良さんの指導係です。事情を話して

いただけませんか?」

「バカヤロウ!!事情なんてない!!西っ!

いいから早くこっちに来い!俺の前に立てっ!

俺を守れっ!」


足をガクガク、と震わせている宮良が手をブンブンと振って叫びながら唾を撒き散らしている。


男は宮良の方を向き、拳銃を構えたままだった。


「宮良と俺は中学の同級生でした」


西をコピーした鏑木の丁寧な物腰に男も穏やかに答える。

叫んで騒いでいる宮良が黙るように、男はさらに近づいた。


「ひぃっ!!」


口をパクパクとさせて宮良がとうとう膝から崩れて床に手をついて座った。


「こいつに陰湿なイジメをされました。

立ち直るまで、いや、今もまだ普通の人生は送れてません」

「イジメ?支店長、本当ですか?」


北野をコピーした島山が男越しに宮良を見ると、

声も出せずにただ首を横に振っている。


男が厳しい視線を宮良に送ったが目は合わなかった。


「誰もこない校舎裏や…使用禁止のトイレに呼び出されて…」


内容を言うのは男には辛く苦しいことなのだろう。

拳銃を構えたまま男はグッと唇を噛んで下を向く。


藤井のことを思い出した島山はそんな男を見て目の奥が熱くなった。


「…ズボンや、下着を下げられて写真を撮られました。

そしてその写真を…俺の名前で作ったアカウントで晒されて」


削除されないように局所にはスタンプが押されていたが、自分でこういう写真を撮るのが趣味です、と書かれ、いかにもこの男が自分で投稿しているようにされた。


何度も呼び出されて写真を撮られ、宮良はSNSで投稿するばかりか、男が見られたら興奮するらしいと噂を広め、印刷した写真をさも男がやったように見せかけて学校中にばら撒いた。


辛そうに、時折言葉を詰まらせながら男は全てを話す。

宮良は何も言わずに聞いている、というよりは怖さのあまり声が出ないのだ。


ここまでがんばって告白してくれた男のためにも、

後は宮良にやった、と吐かせるだけだった。


「なんてひどい。支店長がそんなことを…」

「これは社長に報告、」

「やめろっ!」


項垂れていた宮良がバッ!と顔を上げる。

驚いた男が拳銃を両手で強く握った。


「こいつの言ってることは全部嘘だ!俺は知らん!」

「宮良。お前のせいで俺はなんにもない空っぽの長い時間を過ごしてきたんだ。手紙にも書いただろ?

お前の人生の残りの時間は俺がもらう」

「おいっ!!」


男を無視して、宮良は北野と西に向かって大声を出した。


「俺はなんの関係もない。そいつを追い出せ」

「しかし、」

「そいつをこの部屋から追い出してから警察へ突き出せ。

お前ら二人いるんだからできるだろ」


宮良がズリズリと壁に背中を擦り付けて移動する。

そして北野の机を盾にしてしゃがみ込んだ。


それでも男は銃口は宮良が隠れている方へ向けていた。


「支店長を恨まれるお気持ち、わかります。

しかし支店長を殺したら、あなたのこれからの時間も奪われますよ」


あんなヤツ殺しても仕方ない、と言いそうになって

西をコピーした鏑木は口を押さえる。


宮良に吐かせる方へ持っていかないとならない。

それにはまず男に寄り添うことだった。


「俺は…もう、人生終わったみたいなものです。

友達も失い、先生たちにも信じてもらえず、高校にすら行ってません。

最近家からやっと少し出られるようになりましたが、まだ働くこともできません。だから今日は…」


北野のデスクの向こうでしゃがんでいた宮良が少し顔を出す。

目があった北野と西をコピーした二人に、宮良は顎をしゃくって、そいつを追い出せ、と無言で指示を出した。


「だから今日は宮良を道連れに死ぬ気で来たんです」


自分の人生をめちゃくちゃにした宮良。

いつ死んでもいいと思っているこの男は宮良を殺して自分も死のう、と覚悟を決めてやってきたのだ。


その覚悟を聞いた宮良の、机から少しだけ出ている顔がみるみる青ざめていった。


「支店長」


眉間にシワを寄せた北野をコピーした島山が、目が血走っている宮良に近づく。


今、ウォッチとしてこの部屋にいる藤井のことも重なって島山の胸はいっぱいだった。


「罪を認めて、この方に謝罪してください」

「は、はあ?なんで俺が。バカかお前は。

やってねえっつってんだろ!」

「その、アカウントが支店長の作ったものなら

調べればわかります。

たとえ今、アカウントを削除していたとしても事情が事情なので問い合わせればすぐに確認できます」


宮良の顔がさらに青くなる。

中学生だった宮良はそんな先のことや、身バレすることなど考えてもなかったのだろう。


血走った目は必死に次の一手を考えているみたいに見えた。


それこそ警察から運営に確認すれば浮上してくるだろう。それは動かぬ証拠となるのだ。


「そうなると警察に協力してもらわねばなりませんから、社長にも言うしかありませんよ」

「父さ、い、いや、社長には言うな!」

「では罪を認めて、この方に謝罪するしかありませんよ」


追い詰めた。これでもう宮良は逃げられない。

あとは男を逃して、今撮っている動画をばら撒くだけだ。


コピーの二人に詰められて、再び項垂れていた宮良がゆっくりと顔を上げる。


その顔がニヤリ、と不気味に笑っていた。






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