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絶望ブリー【2】




ベッドに座ったまま宮良(みやら)を見上げていた藤井。

宮良の睨んでくる目と合わせてくくく、と笑った。


「誰に口聞いてる、ってお前以外いねえだろ」

「はあ?なんだお前。ガチで狂ったんか?

お前が俺にそんな口の聞き方、するわけねえもんなあ」


普段の愛想が良くて丁寧な話し方をする宮良しか知らない担任は、にらみあっているふたりから後ずさり、そのまま部屋を出て行った。


「狂ってないよ。なに?狂ってないのにお前にえらそうに言ったらダメなの?」

「忘れたのか藤井。ああそうか。

また便器で顔を洗いたいんだな?」


宮良に髪を掴まれて便器に何度も顔をつけられた藤井。

苦しくて気持ち悪くてむせると、そのまま引きずられてトイレの床に顔を押し付けられた。


「洗いたくもないのにお前にむりやり髪を掴まれて、便器で顔を洗わされたんだったな。

ついでに顔でトイレの床掃除もさせられたわ。

忘れるわけねえだろ。覚えてるよ」

「なんだその口の聞き方は。

なめてんじゃねえぞこのやろう」

「お前には中学の時から死ぬほどいじめられたよな。

階段から蹴って落とされてケガをしたし、金も取られた」

「お前を蹴るとスッキリするんだよ。

お前からカツアゲした金でほしいもんも買えたしな」


親からもらった小遣いは全て宮良に取られた。

少しでも抵抗すると誰もいない校舎裏に連れて行かれて、そこに生えている草を食わされた。


それを藤井が誰に言っても信じてもらえない。


それぐらい宮良は先生たちにも生徒たちにも信頼されていた。

そして挙げ句の果てには藤井は狂っている、被害妄想がすぎると言われる。


それも宮良がまいたのだろう。

そして担任がそれを信じたのだろう。


「ねえ知ってる?

お前が俺にしたことは傷害罪と窃盗罪だよ」

「だろうな」

「ここで俺に土下座して謝ったら、警察には言わないであげるけどどうする?」

「はあ?お前、バカなの?いや、バカだな」


あはは!と宮良が大声を出して笑う。

そして藤井の胸ぐらを掴んで顔を近づけた。


「お前の言うことなんてだーれも信じないよ」

「なんで?」

「こんな優秀な俺と狂ったお前のどっちを信じる?

俺はな、やりたくもねえ勉強をやって、クソみたいな先生たちにヘコヘコして、ストレスがたまってんだよ。

良い子でいるってのはな、ストレスがたまるんだよ」

「それを俺をいじめることで発散させてたってわけか」


藤井が胸ぐらを掴んでいた宮良の手をガシッと掴む。それに宮良はニヤリと笑った。


「お?やんのか?弱いくせに」

「そうだよ。俺は弱いよ。

弱いものばかりいじめてないで強いもんをいじめろよ。

本当に強い人間は弱いものには手を出さない。

ということはお前は弱いってことか。

俺以下なんじゃねえの?」

「…藤井。お前。殺されたいのか?」


藤井の胸ぐらを掴んでいた宮良の手がはがれていく。

宮良の手が藤井によって捻りあげられた。


「いてっ!なにする、」

「土下座しないの?」

「するわけねえだろ。警察に行きたきゃ行けよ。

証拠も何もないのにお前の話なんて警察も信じねえわ!」


パッと藤井が宮良の手を放すと、宮良は後ろに倒れて尻もちをついた。


「あ、そう。じゃあ俺の好きなようにやらせてもらうわ」

「お前ホンモノのバカだな」

「もう帰って。お前の大好きな先生が下で待ってるよ」


ニヤ、と笑った宮良が机の上にあった置き時計を藤井めがけて投げつけ、部屋を出て行く。


藤井に当たった置き時計が、床に落ちて、ガシャン!と派手な音を立てて壊れた。


投げてからすぐに宮良は部屋を出て行った。

バン、とドアが閉まった音を聞いて、藤井は置き時計を受けた枕をそっと顔の前から下ろした。


「こんなもん、まともに当たったら下手したら死ぬぞ」


パラパラになった置き時計の破片をひとつひとつ拾っていると、クローゼットがゆっくりと開いた。


「大丈夫?咲くん」

「大丈夫大丈夫。それより撮れたか?」

「バッチリ」


ベッドに座りながら置き時計の破片を拾っている藤井と、クローゼットから携帯を持って出てきたのも藤井だった。


「咲くんすごいね。宮良も先生も俺だって思って

たよ」

「まだまだなんだけどな。表情とか話し方、仕草とかをコピーすると、見た目が少々違うくても本人に見える。

さっきは立っちゃうとバレそうだから座ってたけど

大丈夫だったみたいだな」


島山の説明に藤井がおもしろい、と食いついてくる。


藤井の身代わりとして宮良と担任と対面したのは島山だった。






「もしかして咲、この時が初コピー?」


話を聞いて胸がスッキリしたのか、筧がうれしそうだ。

筧の言った通り、宮良と担任が藤井の家に来たこの日、島山は藤井をコピーしたのだ。


体格などでバレないようにずっと座っていたが、それ以外もバレなかった。


「録画してたのか。だから今までの罪を宮良自身の口から言わせようとしてたんだな。

自白は立派な証拠になるもんな」


鏑木が腕を組んで頷く。

本人の口から言わせたのだ。

もうこの証拠は動かない。


「で、この録画したヤツどうしたの?」


警察に出したのか、校長にでも報告したのか。


もちろんそのまま持っていただけ、なんてことは島山はしないだろう。

篠原は自分なりにこの動画の行方を考えてみた。


「篠原。お前ならどうする?」

「んー。お前ならってか、咲ならどうしたかはわかるけど」

「え?わかんの?やっぱお前俺のこと、」


島山が自分の髪をワシャワシャとしながらうれしそうに笑っている隣で、篠原は顔を真っ赤にしていた。


「怒んなよ」

「いや。篠は怒ってないだろ」

「え?そうなの?」

「咲ってこういうとこ鈍感だよな」


筧と鏑木にそう言われて島山は首を傾げる。

もういいから、と篠原が顔の前で手を振った。


「校内放送かなんかで流したんだろ」

「うわ。正解。篠原お前すげえな」

「確かに篠の言うとおりだよな。先生たちに見せても

学校の評判とかに関わるからって揉み消されそう」

「警察には持ってかないとだけど、捕まったところで金で解決されたら意味ないもんな」

「そうなんだよ。宮良をどん底に落として尚且つ哉太が嘘をついてないってことを証明しないとだからな。

警察には全て終わってから持ち込めばいいし」


これからの展開を予想している3人が安心したように島山に頷いた。







昼休み。食堂へ行く生徒や教室で弁当を食べる生徒たちがざわざわと動き始める。


友達に囲まれて教室で弁当を広げた宮良の後ろにあった大きなモニターがパッと青い画面を映し出した。


「なにこれ。校内放送?」


宮良の友達のひとりが首を伸ばしてモニターを見る。

その声に集まっていた数人と、宮良もモニターの方へ体を向けた。


【校内放送】と白字で書かれた青い画面がサッと消え、先日藤井の部屋で撮影された動画が流れ始めた。


「え。これ、宮良?」

「…」

「この人って、藤井じゃね?不登校の。

うち知ってる。ねえ宮良、この子同中だったよね?」

「自殺未遂したって子?」


同じ中学から来た生徒たち以外のクラスメイトは、

藤井のことを写真でしか知らない。


真っ青になっている宮良に気づかずに、教室にいた

クラスメイトはみんな、モニターの近くに集まっていた。


「え。ヤバくね?宮良くんてこんなんなの?」

「サイコ?キモいんだけど」


画面の中の宮良は藤井を罵倒し、今までのいじめを自分の口で証言していく。


モニターの近くにいるクラスメイトたちがゆっくりと宮良に振り向いた。


一方その頃、職員室ではモニターの前に集まっていた先生たちの中に、宮良と同じく顔を真っ青にした担任がいた。


「先生、なんで逃げたんですか?」


ストレートに聞いてきた教師の声が聞こえていないかのように、担任はモニターを必死で見ている。


宮良を信じて藤井のことを頭がおかしい、と言い回っていた自分を担任自身はどう思っているのか。


「てか宮良ってこんなだったんだ。

先生確か、不登校の藤井がいじめられてるって嘘ついてるとか言ってませんでした?」

「こりゃ問題ですね。外にバレたら警察沙汰っすよ」

「う、うわああああ!」


担任が走って職員室を出て行く。

他の教師たちはその背中を冷めた目で見ていた。



「宮良、これマジなの?」


友達のひとりが汚いものを見るような目で宮良を見る。


動画が終わってシーンとなった部屋。

教室にいる全員がその目をしていた。


「こ、こんなの嘘だ」


宮良は反論したが誰ひとりとして味方につこうとするものはいなかった。


「嘘じゃないよ」

「…藤井」


一度消えたモニターに放送室の机の前に座った藤井が映っている。


それを見た宮良は、なぜかモニターに向かってニヤリと笑った。


「さっきの動画は僕が宮良に中学の時からいじめられていたと言ったことを撤回させるために、担任が宮良を連れてウチに来た時の映像です」


藤井の説明に教室がざわめく。

宮良はそんなクラスメイトたちにニコッと笑った。


「みんな待ってよ。俺がこんなこと言うはずない

じゃん。こいつがこの嘘の動画を作ったんだよ」

「どうやって?こんなもん作れないでしょ」


モニターの中の藤井は真剣な顔。

クラスメイトたちが自分の方を信じてくれるとたかをくくっていた宮良は目を泳がせた。


「これは真実です。

校内全部に流してるから担任も今頃ビックリしてるよ。

宮良の方を信じてたんだからね」


その時バタバタと走る音がして担任が教室に飛び込んできた。


「宮良っ!こ、これはどういうことだ!」

「先生。この動画は藤井が作ったんですよ。

俺はこんなこと言ってません」

「だから、どうやって作るの?動画を切り貼りしてるならわかるけど、違うでしょ?」


もうクラスメイトたちは怒りの表情で宮良を見ていた。


「じゃあ盗撮だ!俺は盗撮されたんだ!警察に、」

「いいよ。警察呼びたきゃ呼べよ。

呼ばれて困るのは宮良だろ」


うっ、と声を出して宮良が黙り込む。

担任は宮良から少しずつ離れていった。


「俺から金を取った窃盗罪、殴って蹴った傷害罪。

自殺未遂させたのも傷害罪に値するらしいよ。

そうだ。脅されもしたからそれも罪になるんじゃない?」

「お前も盗撮、」

「盗撮?盗撮の意味わかってる?

母親が自殺未遂した俺を心配して部屋にカメラをつけてた。

それにこれは俺の部屋。撮影にお前の許可なんかいらないんだよ。

お前が勝手に映り込んできたんだから」


ぐうの音も出ないほど藤井が宮良を詰める。

静かに聞いていたクラスメイトたちが口々に宮良のことを言い始めた。


「サイテー」

「宮良クソじゃん」

「宮良が死ねばいいのに」


途切れることなく聞こえるクラスメイトたちのつぶやきが宮良の体を刺しているのか、

宮良はその場にペタリと座り込んだ。


「宮良。お前、俺に嘘ついてたんだな?信用した俺がバカだった」


悔しそうにしているフリをして自分を悪者にしないようにもっていこうとした担任を、モニターの中の藤井が呼んだ。


「先生も同罪ですよ。

宮良を信じるように、なんで僕を信じてくれなかったんですか?」

「お、俺は、宮良に騙されて、」

「この期に及んでまだ逃げるんですか?

僕じゃなくて宮良を信じることを選択したのは先生ですよ。まあいいです」


まあいい、と言った藤井が許してくれたと思った担任が、生徒たちをかき分けてうれしそうにモニターに近づいた。


「藤井。お前はわかってくれると思ってたよ」

「まあいいです、ってのはそういう意味じゃないです。

クズ同士仲良く罪のなすり合いをしてくださいってこと。

俺はあなたたちを一生許さない」

「藤井っ!悪かった。悪かったから…」


藤井のこれからの行動で担任の首が飛ぶのだ。


そうさせないために担任は必死で謝った。

誰も気づいていなかったが、いつのまにか教室の後ろに校長はじめ教師たちが集まってきていた。


「いいえ。信じません。

信じてもらえないものの気持ち、これで少しでもわかりましたか?

自分のことしか考えてない先生には理解できないでしょうね」


モニターの中の藤井は一切笑顔を見せない。

どちらかといえば悲しそうなその表情は真実味を高まらせた。


「宮良。僕をいじめて楽しかった?」

「…」

「お前はただのストレス発散だったかもしれない。

でもな、俺はお前にこの何年間無駄にさせられたんだ。

死にたくなるぐらい辛くて、楽しいことなんてなにひとつなくて」

「許しれくれ…」


教室の後ろにいた教師たちの中で涙ぐんでいるものもいる。

なぜ気づいてやれなかったのか。

なぜ担任ひとりに任せてしまったのか

全員が後悔しているのだろう。


それなのに担任はまだモニターの中の藤井に、このことは誰にも言わないでくれ、と叫んでいた。


「宮良は成績もいいよね。

いい大学に入れるんだろうね」

「ゆ、許してくれ、」

「でも、そんな未来は…お前には来ないよ」


ぎゃー!と大きな声を上げて宮良が泣き叫ぶ。

床をドンドン!と叩いて狂ったように頭を振っていた。


「さっき流した動画と今撮影している動画を警察に

提出させてもらう」

「やめてくれ!藤井!悪いのは宮良だろ!俺は、」

「先生。頭悪いな。

同罪だってさっき言っただろ?

いじめられている生徒の声に耳を傾けずに保身だけのためにあんたは行動してしてたんだ」

「俺は!クビになるわけにはいかないんだ!」


担任がモニターにすがりつく。

それが見えているように藤井が目を閉じた。


「そんなの知りませんよ」


藤井の返事に担任が見開いた目から涙がこぼれた。

泣き叫んで暴れ出した宮良を、後ろにいた教師が押さえる。


そこで校長まで来ていることに担任はようやく気づいた。


「藤井くん。聞こえますか?校長です」

「はい。聞こえてます」

「謝っても謝りきれないけど、ごめんなさい。

気づいてあげられなくて…ごめんね」


深々とモニターに向かって頭を下げた校長がゆっくりと顔を上げる。

その目は怯えて泣いている担任に向けられた。


「先生。理事長の方に処分をお願いしますね」

「や、やめてください」

「全校生徒、並びに全教員が知ってしまった事実です。それでも隠そうとするんですか?

藤井くんが言ったようにあなたは自分のことしか考えてないんですね。

藤井くんが…ここまでやった気持ちがわからないんですね」


校長にそう言われた担任はもう反論の言葉もなく項垂れる。

押さえつけられた宮良も同じだ。

藤井の気持ちや、無駄にしてきた数年間のことなど考えもしなかった。


フッとモニターが消える。宮良と担任は狂ったように藤井の名前を呼んでいた。




持ってきたものを全て素早く回収して放送室を後にする。

走って校門を出て、藤井の家に向かって島山と藤井はさらに走った。


「ありがとう。咲くん」

「やるからには徹底的にならないとな。

哉太の本意じゃないけどさ。

俺は、どうしても許せなかったから」


放送室を閉め切って藤井をコピーしていた島山が、カメラの前で担任や宮良と話している間、藤井は隣に座ってそれを見ていた。


実行する前に藤井は謝ってくれるだけでいいからと言ったが、


「謝るだけじゃダメだ。

宮良と担任の未来を叩き潰す。

哉太が叩き潰されてきた大切な時間はそれでも戻らないけど、同じめに、いや、それ以上のめに合わさないとあいつらはまた同じことをする」


島山は許さなかった。

藤井は自分の気持ちの奥の奥まで島山がわかってくれたようでうれしかった。


警察に提出した動画は動かぬ証拠となった。

担任は辞職し、宮良は警察の取り調べを受け家庭裁判所に送られた。


ことがことだけに高校は退学処分となる。

家庭裁判所では少年院へ送る代わりに、今後宮良は藤井の住んでいる東京都に住むことを禁止された。


そして藤井も復学することなく退学した。








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