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ストーカーからの殺人予告・新バディ誕生?



篠原が面接を受けた事務所では “代行” とは誰かの代わりに何かをすることではなく、誰かの代わりになることを指すようだった。


そして島山代行事務所では “事務職” が現場に出るみたいだ。


「んなわけねえだろーーーっ!!!」


無意識に篠原の口から出た叫び声に前を走っていた島山が微笑む。

事務所を出てから走りに走って20分。

やっと現場に着いたのか島山の足が止まった。


「はあ!はあ!し、死にそうなんですけど」

「あーもう敬語いいわ。仲良くしようぜ」

「息が切れて、そ、それどころじゃないです」


現場というか現場近くなのだろう。

なにもかもわからない篠原は島山についていくしかなかった。


切れた息を整えて、篠原が顔を上げると少し離れたところに大きな家がある。

家だけではない。その周りを取り囲む庭も広かった。

森のように顔を寄せ合っている木々。

一般人の家ではないことが篠原にも理解できた。


ポケットから携帯を取り出した島山がタップしてすぐに耳に当てる。

きょろきょろと周りを見回すこともなく島山はじっと一点を見つめていた。


「大智?どう?」

「電話してこないでよ。まあ今は大丈夫だけど」


電話の相手は鏑木大智、主にコピーを担っている彼だが、今回はコピーではなくウォッチだ。

島山がその鏑木とやりとりをしてから携帯をまたポケットに放り込む。

数分後、大きな家の方角からひとりの男が歩いてきた。


島山と篠原がいるところは普通の道なので大きな家の方角から歩いてくる男を篠原はただの通行人だと思っていたが、その男は島山と篠原の近くで立ち止まった。


「えーと、篠原さん?」

「あ、はい。初めまして篠原翔毅です」


なぜわかったのだろう、と篠原は一瞬考えたが、面接に来ることぐらい所員なら知っていて当然だ。


鏑木はニコッと笑っている。

その姿は顔を隠すこともなく服装も普段着るような感じのものだった。


「初めまして。鏑木大智です」


鏑木の声は低くて優しい。

心が落ち着くようなその声と微笑みに篠原も少し落ち着いてきた。


「哉太は?」

「今は大丈夫。家の中にいる。

マイクとカメラつけてるから筧が見てるよ」


ストーカーは家の中には入って来ない。

この家に父親である国会議員が警備員を配置させていることぐらい素人でもわかる。


なのでウォッチだが今回は家の中には鏑木は侵入しないことにしていた。


「やっぱり今夜だと思う。

息子がどうしても外せない用で外出するんだよ。

ストーカーは家の近くにいて息子が出てくるのをひたすら待っているから。狙うならその時だよな」

「お前、それを先に言えよ」

「確実ではないから。

予告状を出してるとはいえもしかしたら何らかの理由で中止になることもあるだろ」


普段はコピーの鏑木だがウォッチとしても優秀だった。


そして外せない用とは父親の国会議員がバックにつけている大手企業の社長との会食だった。


こうしていると知り合いの男たちが普通に道端で話しているように見える。

もし近くにストーカーが潜んでいても声の大きな島山の声しか聞こえないだろう。

それを理解しているからなのだろうか島山はバレるようなことを一切言わなかった。


「咲が心配するのもわかるけど、哉太は大丈夫、俺ももちろん一緒に外出するし」

「わかった。また連絡して」


オッケ、と言って鏑木がまた国会議員の家の方へ歩いていく。

小さくなっていく後ろ姿を篠原は目を逸らさずにじっと見ていたのに、フッと手品のように鏑木は消えた。


「あれ?あの、鏑木さんが、」


島山にそう言おうとして篠原は口をつぐむ。

家の近くにストーカーかいるのは確定だ。


国会議員の敷地に入るところを見られるわけにはいかない。

島山に聞こうとする前に鏑木が消えたように見えた理由が篠原にも瞬時に理解できたのだ。


「篠原」

「はい」


ほんの1時間前には出会っていなかったふたりがバディとして現場にいる。

まだバディを組むと返事もしていないのにな、と思いながら篠原は面接の時とは別人みたいに真剣な顔をした島山を見つめた。


「大智には帰れって言われたけど、」

「ここにいるんですね。

胸騒ぎ、まだ取れませんか?」

「はは。ヤバ。お前なにもんなんだよ」


ジーパンのポケットに両手を突っ込んで島山が歩いて行く。

口元で笑った篠原がその後を追いかけた。


“なにもん” と、島山は言ったが、篠原にしたら思っていることを口に出しただけだった。

しかしそれが島山はお気に召したのだろう。


「所長」


今さっきまでいたところと家を挟んで反対側へ島山は向かっている。

反対側へ移動する意味がわからず、篠原は後ろから呼び止めた。


「哉太、いや、息子が出てくるなら車に乗ってだろ。

運転手とおそらくふたり。その時が狙い目じゃね?」

「確かに」

「車って密室なんだよな。

そこに入っちまえば、運転手を脅して息子を殺れる」


息子を乗せた車が家を出てすぐはストーカーにとってもっとも危険だ。

警備員や家の人間が簡単に辿り着ける距離なので取り押さえられたら終わり。


息子を殺す、という目的を達成することが難しい。


さっきいたところから歩いて行くとガレージ側に着いた。

ちょうど反対側から家が見えるところで島山は足を止めた。


「息子や親父はストーカーも車で追ってくると睨んでる」


家をチラリと見てから島山が後ろにいる篠原に振り向くと、篠原は唇に指を当てて何かを考えているようだった。


「クセか?」


島山の声でハッと我に返った篠原が視線を合わせる。

うん、と小さく頷いて島山が歩き出した。


「クセってなにがですか?」

「考える時に口元とか唇に触れるの」

「え。俺、そんなことしてました?」


二人で話しながら歩く。

1分ほど歩いた先にオートロックではないマンションがあった。

島山がスタスタとその中へ入り、三階まで階段を上がっていった。


「なんか気づいたのか?」


マンションの三階の廊下に出ると国会議員の家が一望できる。

目当てのガレージも丸見えだった。


いくら一般人に見えたところで島山と篠原が家の近くにずっといてはストーカーに怪しまれる。

慣れているのか、本能なのか。どちらにしても島山の瞬時の判断はすごいことだと篠原は感心していた。


「息子の車を、ストーカーが車で尾ける意味あります?」

「なんでそう思う?」

「車で尾けたとしても車同士じゃなにもできない。

確実に仕留められないし、自分も簡単に捕まるから体当たりはしないでしょ」

「そうだな」

「息子が次に降りるのは目的地。

そこに着いてしまったら何もできない。

ストーカーは車の中での犯行を考えている。

ということは車で尾けても意味がない」


マンションの手すりに腕を置いて、家ではなく空を見上げて島山がふっ、と笑う。

その笑みに篠原は怪訝そうな顔をした。


そろそろ落ちてきた太陽が街全部に影を作り、伸ばしていく。

一つの命が消されてしまうかもしれない夜が始まろうとしていた。


「お前マジですげえな。推理小説とか好きなの?」

「はあ?」


確かに篠原は本を読むのを趣味としている。

しかし島山が “すごい” の理由をただの推理小説好きだと表現したのが癇に障った。


「だったらなんなんですか」

「怒んなよ。いい線ついてるってこと。褒めてんの」


今ところ国会議員の家に動きはない。

木々で囲まれた家には目もくれず島山は空から直接篠原の方を向いた。


「篠原の言う通りだよ。

息子を車で尾けても無意味だ」

「じゃあ早く大智さんに連絡して、」

「ごめんな。お前のことバカにしてるとかではなくそんなことは大智もわかってんだよ」


ニコッと笑った島山が本当にバカにして言っているのではないことが篠原にはわかった。

素人なりにいい線をついていると素直に褒めているのだ。


はい、と短く返事をした篠原が今度は藍色とオレンジ色に分かれてきた空を見上げた。


ストーカーが車で来ると思っている息子と父親はある意味安心しているのだ。


自分がストーカーならどうする、と篠原は考える。

車で出発した息子。車内には運転手と息子の二人だけ。

車内に突入したいところだが、どうやって。


「あ、」

「そう!その通り!」

「まだ何も言ってません」

「あ、そう?ごめんごめん」


島山の笑顔に篠原もぷっ、と吹き出す。

島山が所長だからこそみんながついてきている、そんな気がした。


「どこかで待ち伏せする、ですか?」

「うん」


例えばここからも見える家を出て最初の曲がり角。

それなら息子が乗った車が進むルートを知らなくてもそこを車が通るのは確定だ。


しかも家から離れているからストーカーが相手をするのは計画通り運転手と息子の二人だけ。


「なんらかの手を使って車を止める。で、中に入る」

「うん。俺もストーカーならそうするな」


鏑木と藤井はそれも読んでいるだろう。

ということは運転手は鏑木だ。


鏑木と藤井の乗った車にストーカーは突入するということになる。


「日が暮れたら三叉路に行くぞ」

「はい」


マンションから見える最初の曲がり角、三叉路を島山が指さす。篠原はその指先を見て強く頷いた。


だんだんと藍色が広がっていく。

遠くに見えるビルにわずかに残ったオレンジがしがみついているようだ。


篠原が空を見上げると一番星が光っていて、その周りの星たちが次々と顔を出してきた。

夜が訪れて少し冷たくなってきた空気が身を引き締めてくれる。

さっきから何も話さなくなっていた島山が篠原の方を向いた。


「そろそろ行くか」


こんな時なのにどうしても外せない会食に出掛ける息子が出発する時間が迫っている。

息子をコピーした藤井哉太は今頃家の一室で警備員に囲まれているだろう。


「大丈夫なんですかね。藤井さん」


鏑木には先ほど会ったが、息子の身代わりとして家にいる藤井にはまだ篠原は会っていない。


しかも普段はウォッチの藤井を島山が心配してここにいることを考えると、会ったことのない篠原でも不安を感じるところだ。


「大丈夫だとは思うんだけどさ。

あいつまだこの事務所に入って2年経たねえからな」

「え。2年経ってないのにもうウォッチとかコピーとかやらされてるんですか?」

「バカやろ。入ってすぐにやるんだよ」


篠原が目を見開く。

島山が大きな口を開けてははは、と笑った。


「なんだお前、その鉄砲食らった鳩みたいな顔は!」

「鉄砲食らったら鳩死にますよ。豆鉄砲です」

「なんでもいいよ。

俺は一応両方できるけど基本ウォッチなんだよ。

だから篠原、お前はまずコピーからな」

「そんなむちゃくちゃな。

そりゃ豆鉄砲喰らった顔になりますって」


面接にやってきてその場で採用と言われてから普通の職場ではないことはわかっていたが。


はあ、とため息をついて篠原が天を仰ぐ。

いつのまにか藍色の空は星でいっぱいになっていた。


「行くぞ!篠原!」


静かな夜を切り裂くように島山のデカい声が響く。

背は高いが、細身の島山の背中が見えたくもないのに篠原には大きく見えた。


「ヤダヤダヤダ」


そう言いつつも大きく見えてしまった背中を追いかける。

ここまで来たら篠原はもう島山に着いていくしかなかった。






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