未来の皿に、香るレシピ
しいなここみさまの華麗なる短編料理企画参加の一品です!
「カレー:素晴らしい香り」
遥か昔のレシピ本から見つけたその記述に、僕は興味を持った。
――ここは、火星。
温暖化の進んだ地球から宇宙船に乗って逃げ出してきたものが住まう地。
これまではいろいろごたごたしていたから手についていなかった物の整理。
それに、とりかかった。
僕らは火星に来てから20世代目の年代だ。
火星では、主に他の天体の監視やこの火星の地殻研究が進んでいる。
本当はもっと前の年代の人がやるべきだった。
でも、思ったより火星の居住環境を整えるのが大変だった――らしい。
それで、僕らの代まで回ってきたというわけだ。
そして見つけたレシピ本は興味深かった。
僕らにとって食事とは、栄養のためのものだ。
優雅に食事している暇なんてないし、栄養がとれればそれでいい。
だが、大昔の人は違ったようだ。
彼らは料理に栄養だけでなく味、見た目、香りを求めていたようだ。
僕らには理解できない。
それでも、「カレー」というものに興味を持った。
幸いこれはレシピ本だ。
僕は、作ってみることにした。
確認すると、移住してきたときの荷物の中に冷凍保存された材料があったようだ。
それをとかす。
何百年、何千年前からの贈り物のように思えた。
それをレシピ通りに調理していく。
料理なんてAIにまかせていたから、野菜とやらを切るのも一苦労だ。
少し指を切ってしまったが、気にしない。
次に、肉というものを出した。
これは、生き物の身体らしい。
大昔の人々はなんて物騒なものを食べていたのだろうか。
さわるとべちょっとしていた。気持ち悪い。
これらを鉄の円柱から一部分をくりぬいたものにぶち込む。
そして火をつけ――ようと思ったが、僕らが住まうこの空間は火気厳禁なのだ。
しかたなくロボットの体内で熱してもらうことにした。
そこに水を入れ、カレールーとかいう大昔の人間がめんどくさがったためにうまれたらしい商品をとかす。
すると、変わった香りがしてきた。
まぁ、なんとなくうまそうだ。
皿に「カレー」を盛り、上から「ライス」を盛る。
これをつくるのには水をばらまかなければいけないそうだ。もったいない。
よく料理本を見ると、「カレー」と「ライス」を盛る順番が逆だったようだ。
味が分かればいいから、別に気にしないのだが。
そして、期待しながら口に運ぶ――
「からっ」
その口の痛さに悶絶した。
大昔の人はよくこんなものを食べたものだと、涙ながらに嘆いた。
どうやら、辛さは僕らの味覚の対象外のようだ。