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あなた……どちらです?

「……っ、」


目を開けたら、そこは真っ赤な部屋だった。壁も柱もとにかく真っ赤で目がチカチカする。


床にへたり込むように座る私の目の前には、ちょうど目線と同じ高さの棚。棚にはお供え物らしき果物やロウソクや線香なんかが乗っている。

さらにその棚の奥には、金色のでっぷりと大きな仏像が鎮座する。


───え、ここは……お寺?


死んだ?私、死んで仏になったの?



「……ちょっと、あなた」


(なまめ)かしい感じの、でも成人男性特有の低い声が背後から聞こえた。

私は床に座ったまま後ろをふり返る。


こちらもまた真っ赤な壁を背景に、驚いた顔で私を見下ろしていたのは、着物のように古風な衣装を身にまとった3人の青年だった。


「あなた……どちらです?」


さっきと同じ(なまめ)かしい声。

長い髪を後ろで緩く束ねた美人が、ぱっちり二重の大きな瞳を、さらに目玉が飛び出さんばかりに開いている。

衣装は薄い紫色で、顔は女性っぽいが背が高いし声も低いので男だろう。


「……はい?どちらとは」


初対面の相手に“どちら様”ではなく“どちら”とは?どういうことだろうか。


「男か女かどちらか、という意味です」


「……」


おいアンタ、いくら美人だからってそりゃあいきなり失礼すぎやしないか?

むしろそれ、こちらの台詞ですが?あなたこそどちらです?と問いたい。が、グッとこらえる。


「……女、ですが」


しかし目の前にこんな色っぽい美人(男)が現れたら、女としての自信がなくなる。元から無かったはずのプライドも合わせて総崩れ。


けれど私のどこに男に間違われる要素があるのだろう。

身長は160もないし、髪も肩くらいまで伸ばしている。

服だって今日はワンピースだ。まあ目の前の彼らの衣装もロングワンピースっぽいが。

推し現場の為に気合い入れたメイクは……もう崩れてるかもしれない。


「女、どこの国の者だ?」


次は丸眼鏡をかけた青年が口を開く。眼鏡の奥の目は切れ長で、衣装はグレーっぽくくすんだ水色。彼も背は高くて雰囲気は賢そうというか固い。そして偉そうな言葉遣い。正直あんまり好きでないタイプ。


「私は……日本人です」


「ニホン?どこかで聞いたことが……」


「そのような国、私は知りませんね」


「ニホン……イッポンという国の属国だったか?」


最後に小さな声で呟いたのは、真ん中に立ち、両隣の2人に比べ頭ひとつ小さい少年っぽい少年。


彼は右手の人差し指と中指を出して小さくピースをつくって見せた。うん、それ日本じゃなくて二本ね。


彼は前髪がすこし目にかかるくらい長い。無地だが上質そうな白い衣を着ていて、前髪の隙間から覗く目は少しつり目気味。

大人しそうというか地味。しかしそれは両隣の印象が強いせいだろう。

彼単体で見れば薄幸の美青年に見えなくもない。



「……異国人のくせに、なぜ我々の言葉が分かる?」


「さあ、なぜでしょう?」


高圧的な丸眼鏡の物言いから逃れるように私は視線をそらす。


「女、これを読んでみろ」


外した視線を(さえぎ)るように、私の目の前に白い半紙を掲げる丸眼鏡。半紙には黒い墨で文字が書かれていた。


「は……ハヨウコク、国史(こくし)。ここに(しる)せり」


「こちらは?」


入れ替えるようにまた別の半紙を掲げる丸眼鏡。彼は実に動きが俊敏だ。


「……さっきと同じですよ。ハヨウコク、国史…」


「何と!古語も読めるのですか?」


驚きの声を上げたのは長髪美人さん。


どうやら後から見せられた文字は、今では読める者のほぼいない古語らしい。

不思議なことに私の目には、どちらの文字を見ても一瞬で日本語へ変換されてしまう。


───これ、多分あれだよね。


転生した人にありがちな設定「言語能力」。あ、私の場合は転移か。死んでないし。

異国のはずなのに言葉がなぜか読めるし、書ける。話も通じるってやつだ。

召喚されたはいいものの、言葉が通じなかったら話進まないしね。


「───これが、聖人の力なのか?」


高圧的だった丸眼鏡が、とたんに畏怖のまじった声を漏らす。


「……はい?セイジン?」


いや、これ力じゃなくて設定ね。

初期設定。召喚者はみーんな持ってるやつ。


「あのー…たぶんこれは力とかではなくて」


「どうやら聖人の召喚は成功のようですね」


美人さんが手を胸にあててほっと息を吐く。その手には大振りな数珠が握られており、何となく彼が私を召喚したのだろうと思った。


丸眼鏡は両腕を組み、まだ信じられないという視線を私によこす。


2人に挟まれた地味な青年は、はなから私に興味がないのか背後の大仏さまをぼーっと見上げている。



「あの皆さん……私の言葉、本当に通じてます?」




*  *  *




────それから1時間弱。

あらかた聞いた情報を整理しよう。


私がやってきたのは【覇葉国(はようこく)】という国のお城、通称【覇葉城】。

赤を基調とした建物や、青年らの服装から見てここはドラマで見た古代中国の宮廷にとても似ている。

その最奥部にある後宮の、さらにその中にある仏殿(小さなお寺)で私は召喚された。


最初に声をかけてきた長髪美人は紫雲(シウン)さん。彼は派手な見た目にそぐわず法師、つまりお坊さんだという。


「私の仕事は主にこの仏殿で、後宮の妃たちへ説法を説いたり、悩み相談に乗ったり、揉め事解決のため日々奔走すること。じっさい仕事の大半は後者ですけどね」


薄紫の袖で口元を隠して微笑む紫雲さん。

その姿はまるで女優さんのように妖艶で、人当たりが良さそう。

年齢は20代後半~30くらい(詳細不明)だそう。


───BLで言えばまあ、攻めか淫乱誘い受けかな。後者の方が私は好み。


……実は私、中学時代から筋金入りの腐女子でもある。イケメンを見るとつい攻受を推測してしまうのだ。

これはちょっとした癖なので、気に入らなければ読み飛ばしてもらって構わない。


そして丸眼鏡の偉そうなのは、国王の側近である青藍(セイラン)さん。

彼は宰相の息子で、政治の表舞台では父が国王の右腕となっている。


「いずれ父の後を継ぐために、表では父の補佐、後宮では陛下の側近として行動を共にしている」


いかにも仕事できそうなスラッとしたイケメンなのだけど、固くて偉そうな喋り方のせいで冷たい感じがする。

年齢は23歳だそうだ。


───コイツはド受け。受け一択。顔真っ赤にしてメガネすぐ割られるわ。



そして最後は白い衣の地味で寡黙な少年、彼がこの覇葉国の国王である憂炎(ユーエン)陛下。

現在18歳で、13歳の時に即位。しばらくは母親(太后)の摂政だったけど、今年から正式に政治の実権を握ったという。


「太后である母上が先月亡くなって、今も喪に服している」


うつむき加減にそう呟く彼が国王というのは驚きだ。

顔は何というか、整ってるけど全体的に特徴がなくて印象が薄い。

でもよくよく眺めればイマドキの少年マンガの主人公ってこんな感じかも。後に意外な才能が開花するみたいな。

角度によっては中村明日美子先生の描く黒髪美少年の雰囲気も。


───やばい。今のところ圧倒的攻め不足だ。


「貴様、陛下のご尊顔をジロジロ見るんじゃない」


「あ、すみません」


さっそく丸眼鏡に睨まれた。


後宮ドラマなんかでは、国王の前では皆腕を前に組んで頭を下げていた。

国王の尊顔というのは本来許可がなければ見ることもできないらしい。



まぁそれはさておき。

今私達がいる後宮には、この憂炎陛下のために国内外から集められた美女が何百人も住んでいるというから驚きだ。陛下には既に子供も1人いるらしい。


───んでもって、そんな美女の園に、何のスキルも持たない喪女(しかも腐女子)がなぜ召喚された?



疑問はいっこうに解決しない。


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