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今日も王太子は毒を喰む  作者: 掃除
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毒の粥

 どうやら、あの日から目が覚めるまで3日も経っていた。この3日間、私は意識が戻らなかったらしく、医者の話では途中何度か脈や呼吸がとまりかけ、油断を許さない状況だったとの事。何かあった際に備え部屋には必ず複数人が待機し、弟や妹達も頻繁に訪れてくれていたらしい。母上に関してはこの3日間に必要最低限の公務中以外はずっと部屋に泊まり込んでいたようだ。有り難いが流石にそれはどうなのだろうか。すこし苦笑いをしてしまった。


 そして、意識を取り戻したあの日から一週間が経過した。ここしばらくは不思議と体調が良くなってきており、視力も僅かに回復したため、書斎から取ってきてもらった本を読んで過ごしている。ゆったりと、また発作などいつ症状が悪化するかわからないが、落ち着いた日々を過ごしていた。


「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました」


 控えてる従者に扉を開けるよう指示を出す。従者の一人がすぐに動いて扉を開ける。食事を配膳してきたものは配膳用の押し車を引き渡すと恭しく頭を下げ立ち去る。


 読みかけの本の栞を挟み本をそばに置くと、従者の一人が寝台の上にまたがる形でテーブルを設置。素早くテーブルを綺麗に拭き、料理を受け取った従者がテーブルへと並べる。


「いつも悪いね二人共」


 私には幼少より3人の従者が与えられている。

料理を受け取ったのがルーク。テーブルを設置してくれたのがエル。二人は双子で私とは乳母兄弟に当たる。二人とも黒髪で全く同じに見えるが、特徴は二人の利き手だ。帯剣している剣の場所で見分ける人が多い。右利きのルーク、左利きのエルで覚えると覚えやすい。まぁ、たまに意図して帯剣している位置を交換し騙そうとしてくるいい性格もしているけど。


 主にこの二人は護衛の任についてくれている。そして私の身の回りの世話をしてくれている従者がいるのだが、今は別の仕事をしているので機会があればまた話そう。


 さて、取り敢えずは眼の前の食事といこう。雑穀米のおかゆだ。目が覚めてからほぼ毎回の食事でコレが出る。どうやら東方の交易品に衰弱時に食べるといいものとして父上が取り寄せてくれたもののようだ。この一週間おいしく食べさせめ貰っているが……あの夜、白い仮面の何者かの言葉。「毒のプレゼント」ここしばらくは口にいれるもの全てに注意してきたが、毒見役をしていたものは今も元気に毒見を実施している。


 小分けにした粥を嚥下し、毒見役が問題ないと判断を下す。王族に盛るとしたら証拠の残りやすく、特定しやすい即効性の物じゃなく、遅効性の毒が多いので、この毒味の儀式自体、形式的なものではあるのだが。


 毒見役が退出したのを見送り、私はスプーンを手に取る。粥自体には味があまりないので、小皿に入った干した魚の身をほぐした物を入れる。若干冷めかけの粥を口へと含んだ。


 干した魚には塩が使われており、少量の身であってもハッキリとした味が口に広がる。その若干濃ゆい身の味を粥が程よく薄め、しつこく無い。粥を食す手が止まらないほど美味しく、あっという間に出されていた粥は完食された。


「ふぅ……今日もとても美味しかったよ。料理長には後でお礼を言わないと」


「それは、とても宜しいことかと。料理長もアレク様の食事については何時も悩まれておりましたから」


 エルが食器を下げながら珍しく笑うと、控えているルークもつられて微笑んでいる。ここしばらくは、症状もなく平穏な日々だったとはいえ、こんなに穏やかに過ごせたのはいつぶりだろうか。体調は順調に回復しているし、また皆で外に行けるようになりたいものだ。


 穏やかな空気が部屋いっぱいに広がり、開いた窓の心地よい風を受けウトウトしていたその時だった。廊下の方から複数人の走る音が聞こえ、部屋の扉が乱暴に開かれる。ルークとエルが直ぐ様剣に手を掛け警戒する。


「無礼な! 許しもなく我が主の寝室へ踏み込むなど!それ相応の覚悟はできているんだろうな!」


 乱暴に開けられた扉から3人の兵士が部屋へ入り込み、とうとう剣を抜いたルークとエルが睨みつける。兵士の方も2人の気迫に押され帯剣している剣へと手を掛ける。


「鎮まりなさい!!」


 まさに一触即発の状況下で、凛とした声が響き渡る。


「アレク様の御前です。双方剣を収めなさい。」


「ティファか」


 兵士3人を掻き分け、メイド服を着た白髮の女性と、いつも見る医者の男が現れる。白髪の女性ティファは私の筆頭従者であり、私の代理としてあらゆる式典などに参加してもらっている。今日も交易関係の代理として出てもらっていたはずなのだが?


 ティファはエルの側に空となり片付けられた食器を見ると、苦虫を潰したような顔をし、私の側へと早足で近づいてきた。医者の男も手に大きめの桶を持ちあとに続く。


「アレク様」


「どうし──グァ!?」


 ティファは有無も言わせず私の上顎と下顎の間を押し無理やり口を開かせ、手に力を入れ上を向かせる。突然のことで困惑している私に「失礼します」と声をかけ、懐から見たことない色をした液体の入った瓶を取り出す。


 突然の筆頭従者の奇行にルークとエルが動こうとするが、その間に兵士3人が割って入る。


「何をしている!?」「そこをどけ!!」


 ティファは2人に構わず、器用に片手で瓶の蓋を外すと、内容物を私の開いた口の中に流し込む。抵抗を試みるも空となった便を放り投げ、空いた手で鼻をつままれ、口に含んだ液体を飲んでしまう。嚥下を確認したのか、ティファは私から手を離すと、医者の男から樽桶を取り上げる。


「ティファ……一体何の──っ!?」


 身体への異常はすぐに現れる。全身から立ち込める嘔吐感に抵抗できず、ティファが構えていた桶の中に、嘔吐物を盛大に吐き出す。医者の男が吐瀉物へと懐から取り出した液体を掛け暫くすると


「──っ! ありました! 黄変米です!」


 医者の男が声を上げ、ティファは私の背を擦り始める。医者の男が桶から取り出したのは黒に変色した米の粒。それもポツポツと桶の中にあるのではなく、桶の米と思われる全てが黒く染まっていた


「なにが……ウッ」


 更に樽の中に嘔吐を繰り返す。私が落ち着いた頃ゆっくりと話し始めた。


「アレク様。あなたはこの一週間。毎日、毒を盛られていました」

 

 


 

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