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今日も王太子は毒を喰む  作者: 掃除
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成人の奇跡

 金色の光が波となり身体を揺らす。波に浮かぶ身体は心地よく揺れ、フワリとし感触とともに優しく包み込んでくれる。

 ─に───あ───

 何処かから声が聞こえる。じんわりと身体の奥から優しい熱が溢れてくる。ここが死後の世界か。暖かくて、優しくて、そしてどこか懐かしい。

 あ──に──あ──さま

 今までの苦痛が嘘のように無くなっている。麻痺していた半身に、呼吸しづらかった喉。木のようになっていた足、他にも異常を見せていた体の部位は見たところ元通りだ。

 おに──うえ──あ

 この微睡みの中で父上を待つのも一興かな。この姿見たら父上も母上も驚きそうだ。なんてったって、細い枯れ木のような腕も肉が付き、腕だけじゃない見渡す限り以前の身体とは違いまるで健康体のようだ。いまなら王都を一周どころか五周もできそうだ。 

 ア──ク───アレ──ク

 以前の身体で走ろうもんなら転んだけで骨折……いや、まず、部屋から出るだけでダウンだったからな。……それにしても、何故か皆の声が聞こえる。

 おき───さい───おきて──アレク様!!

 ティファの声もだ、死んだというのに私もまだ未練タラタラじゃないか。

 自嘲しながら、波に任せ流される感覚に身を預ける。声は段々と遠くなり、暫くすると波の囁く音だけが聞こえる。


 波に揺られ暫く経つと波の終着点らしき場所で降ろされる。ゆっくりと、寝転んだ身体を起こす。金色の波は粒子となりばらけ、やがて一箇所に集まり伸縮を繰り返し人の形を取り始める。


 人の形をしたそれを前に思わず片膝をつき私は無意識に最上の祈りを捧げる。ソレが当然であるかのように

 

「大いなる神メザイアよ御身自御降臨頂き光栄に思います。我が名はアレク。イグニス王国国王ラドルフ・フォン・イグニス及び同国王妃メアリー・ヒル・イグニスが一子、アレク・フォン・イグニス──


 大いなる神へ奏上の途中、粒子でできたその手でゆっくりと頭を撫でられる。


 優しく、慈愛に満ちたその手は母が子にするかのように、ゆっくりとどこか心地よくさえ感じる。


 しばらく撫で、満足したのか神は立ち上がると着いてこいというように歩き出す。


 ──あ───さま──


 慌てて後を追いかけると、遠くなっていた聞き覚えのある声が大きく鳴っていく。これは……この声は家族の呼び声。自分を呼んでいる声が徐々に聞こえてくる。


 おもむろに神は立ち止まると、まっすぐに声のする方を指差す。まるで、勧めと言わんばかりに。帰りなさいと言わんばかりに。


 アレク 兄様 兄上 アレク様


 ──目を覚ましなさいアレク!!


 母上の声も聞こえた。


 神の指差す方へ一歩、足が前へ出る。


 それを見て光の粒子でしかないはずの神の顔が、どこか優しく、微笑んだように感じた。いや、コレはきっと気の所為ではないのだろう。大いなる神メザイアは子供を守護する神であり。そして、人を優しく導く神でもある。


 また、膝をつき最上の祈りを上へ捧げる。


「不詳なる我が身を導いてくださり誠に感謝致します。御身の慈悲に導かれ、私は──」


 目から何故か涙が溢れた。祈りの途中で無作法をした私を、神は優しく頷く。


「──っ!! この慈悲は生涯に至り忘れることはありません!」


 立ち上がり、神の指す方へ歩みだす。ベットで横になっていた頃とは違い、自分の脚で。金色の空間を踏みしめ、家族の声が聞こえる方へ。背後は振り返らない。それが道を示してくれた神への礼儀である。あの夜、最後に見た金色の明かりが暗闇を照らすときのように、視界を真っ白な光が埋め尽くす。


「アレク!  アレク!!」


 ゆっくりと、重い瞼が開かれる。肩を揺さぶられ両手はどちらも握り込まれている。


「はは……うえ」


 失明し掛けていたはず眼がピント合わせのようにゆっくりと焦点を合わせる。「誰か! 医者を呼んでこい!!」「国王様にも連絡入れろ」「水と食事もだ急げ!!」久々に見えた母上の顔は涙で顔を濡らしながらも安堵し、優しく微笑んでくれた。それは、幼い頃より私が一番好きな母上の笑顔だった。


 


 

 

 

 

 

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