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今日も王太子は毒を喰む  作者: 掃除
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一針の毒

久しぶりの執筆になります。仕事もだいぶ落ち着いたし暇な時間にちょこちょこ書いていく所存でございます

  ベットに横たわる細くやせ細った青年を医者とその家族らしき人物達が取り囲む。

「ゼーはぁー、……ハァー……ゼー…ゴホッゴホッ」


「残念ですが、今夜は山場かと……」

 

 白衣を着た医者が一人の身なりの良い男へとそう話す。男は「そうか……」と呟くと、ベットの青年を優しく撫でる。その横では妙齢の女性がベットに倒れ込み項垂れる。


「皆を集めてきてくれ……これが最後の別れかも知れんからな」


「畏まりました。」


 男がそう言うと、部屋の壁際で待機していた初老の男性が恭しく頭を下げ、部屋から退出していく。それに続き、青年のベットの側にいる一人の女性を除いて他の者も同じ様に頭を下げ退出していく


「うっ、あああ! ごめんなさい。ごめんなさい……貴方を、貴方をこんなふうにしか産めなかった母をどうか、恨んで頂戴! あぁ、神よ、大いなる神メザイア様よ、息子を! 我が子をお助け下さい! 如何なる代償でも私の、私の持ち得る全てをお支払いいたします! だから、どうか──」


 今までの我慢が決壊したのか、耐えきれず、青年にしがみつきながら喚き出した女性へと細く、やさしい手が触れる。


「お…やめ、ください……母上。わ…たし、は。いえ、ぼくは、母上の、こと……を、恨んで、なん、て、いま、せん。」


 ボソボソと、今にも途絶えそうな声で青年は母と呼んだ女をゆっくりとだが、弱々しく撫でる。


 目は失明しかけでほぼほぼ見えておらず、青年は悲しそうな顔をする。


「アレク。無理に声を出さずとも良い。最後になるやもしれん。いつもどおりで良い」


 男が合図するとベットの側にいた女性は「失礼します」と一言断りをいれると空いている青年の右手を両手で優しく積み込む。昔から簡単な会話は、手を握り込む回数で簡単にすませるようにしていた。


「何もしてやれなかった……」


ギュ「一回です」


「余は、立派な父親ではなかった」


ギュ「一回です」


「遠慮しなくとも良い。息子の死に際に最後まで立ち会えぬ親など、立派なものか。余は親としてではなく、王としてお前に接してきた。……お前との時間も親として接した時間はあまりにも少ない。こんな時でも、余はお前の優しさに漬け込むことしかできぬだめな親だ。」


ギュ「一回です」


「……そうか。すまんな。余は…ここまでだ。メアリーも気を失っておる。後に他の者も来るやも知れん。最後まで駄目な親であった。先に行って待っておれ。余もそちらに時期逝こう。その時は、お前の恨み言もいくらでも聞こうぞ」


ギュギュ「2回です」


 男は目をつむり頷くと一度手を鳴らす。外で待機してた女性達が入って来る。女性達は気を失った女を優しく担架に乗せゆっくりと退出していく。そして、男もその後に続くべく踵を返す。


「は……やく、き、たら。お……こり、ます……から」


 絞り出した青年の声に「わかっている」と答え、男は部屋を後にした。


 部屋に残された女性に青年は何かを呟くと、女性は名残惜しそうに包んでいた手を離し、急ぎ足で部屋を出ていった。


 誰も居なくなった部屋で、青年はゆっくりと目を閉じる。いや、もう。瞼を開けるだけの力すら青年には残っていなかった。


 もう意識も消失しかけたときだった。ふわっとした風が肌に当たる感触。そして、窓から物音が聞こえる。


 音はベットの横で止まり何者かに顔を覗き込まれる


「あーあ、美形の顔もここまで痩せほったら見るに耐えないね。まったく、死にかけの奴にとどめを刺して来いなんて、怖いやつもいるもんだね」


 目を開けようと最後の力を振り絞って瞼を開ける。病でハッキリとは見えないが、そこに居たのは全身黒ずくめの白い仮面を被った何者か。


「おっと、まだ生きてやがったか。まぁ、今まで何度も死にかけてその度に死の淵から帰ってきた王子様だ。耐性でも付いたか?」


 仮面の何者かは懐から針のようなものを取り出す。


「ま、安心してくれ。今度は帰ってこれないよう未練なく苦しまずに送ってやるからよ」


 針に懐から出した瓶の中身を塗りながら青年の腕を持ち上げる。


「これも仕事なもんでね。悪いね王子様。黄泉の土産に伝言をくれてやるよ。誕生日おめでとう何時もよりとびきりの毒をプレゼント」


 腕に針を刺され青年へと抗いきれぬ眠気が襲う。


 青年は歯を食いしばる。何時も……それはつまり自分は毒を盛られていた。医者に見つからない毒。どこで!? 


 だが、青年は毒の効力に抗えず意識を手放す。


 最後に見えた光景は金色の光が暗闇を照らす瞬間だった。


 



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