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8:ヤンキー令嬢は除霊(物理)をおぼえた!

 ヘザーの直感は残念ながら、大当たりであった。

 自室に案内され、一人になって早々に幽霊と遭遇したのだ。


 彼女が案内されたのは二階の南側に位置する、日当たりがよくだだっ広い部屋だった。

 日本の首都暮らしだった身としては、この四分の一程度の広さの方が落ち着くのだが……引き取ってもらった手前、そう贅沢(?)も言っていられない。


 部屋の壁紙はごくごく淡いベビーピンクで、絨毯もフラミンゴの羽のような明るい赤色だ。

 そして真っ白な家具や調度品――ヘザーの中身も乙女であれば、一目で(とりこ)になるような、愛らしくも高級感漂う内装だった。


 しかし現在の中身はアラサーのオッサンであるため、第一印象は

「ソファーまで白いと、信玄餅とか絶対食えねぇな」

であった。これはひどい。


 なお劇中でのヘザーは、もちろん部屋の様子に目を輝かせて、ソワソワとあちこちを開けたり閉じたり――クローゼットに入った大量のドレスに目を剥いたりしつつ、これからの生活にめいっぱいの夢や希望を抱いていた。

 むしろ部屋に案内されたこの瞬間こそが、彼女の人生のピークだったりするのだが。


 そうとは知らずに浮かれる彼女の背後で、壁際の本棚から突然本が飛び出して、次々と床に落ちて行く。

 しかし部屋にはヘザー以外に誰もいない。

 もちろんヘザーも、本には触れていない。前述の通り、その時はクローゼットの中に夢中だったので、本棚には背を向けていた。近付いてすらいなかったのだ。


 結局原因が分からぬまま、彼女は恐怖と怪訝がない交ぜになった表情で、おそるおそる本を拾い上げるのだった。

 そして、それが彼女の幸せの終焉(しゅうえん)および、不幸の始まりであった。


 という流れが、本来のものなのだが。

 さして熱意もなく室内を見渡していたヘザーには、本棚の前に佇む黒い影がばっちり見えていた。

 影の身長や体型から察するに、おそらく女性であろうか。


 目を細めて、しばし無言で影を見つめていたヘザーだったが。

 一つ息を吸うと、ふかふか絨毯の敷かれた木床を蹴って飛んだ。

 猛ダッシュで影に近寄ったヘザーは、腰のひねりを加えながら右腕を振りかぶった。

「オラァッ!」


 気合の咆哮に、女?の影がぎくりとのけぞる。

「なんで見えているんだ、なんで殴りかかろうとしてるんだ」

という戸惑いが、聞こえるような挙動である。

 しかし彼女(仮)が慌てふためく内に、振りかぶられた腕が躊躇なく女らしきものの頬を打ち抜いた。

 途端、影はパンッと弾けて消えた。


「けっ、ザコが余計なことすんじゃねぇよ」

 振り切った腕を戻しながら、ヘザーが悪辣(あくらつ)に笑った。


 そう。魂も肉体も、どちらも一度死を経験しているためか。

 はたまた高田がパイルダーオンしたことで、ヘザーの内に眠っていた才能が目覚めたのか。


 真実がどちらかは分からないが、現在の彼女には霊を視る・(はら)える力が備わっていたのだ。


 この能力にヘザーが気付いたのは、フリーリング邸への道中で立ち寄ったレストランにて、とある出来事に遭遇したため。

 そこで一体の幽霊を見かけたのだ。


 先ほどの影よりも、もっと形が曖昧な、もやに毛が生えたような程度の存在感の幽霊だった。

 それは客席に向かう途中の通路を、うろうろと徘徊していた。


(なんだこれ? オバケか? にしても邪魔だな)

 恐怖でも驚きでもなく、シンプルにうっとうしがったヘザーは、躊躇なくそれに触れる。

 そして押しのけようと、力を込めた途端に、先ほどと同じく霧散(むさん)したのだ。さすがにこの時は、目を丸くしてしまった。


 もやモドキの幽霊が、実際悪霊だったのかは今もって分からない。

 なので、悪いことをしたな、と罪悪感を覚えなくもない。

 だがこの気付きは、思わぬめっけもんだった。


 ヘザーに除霊能力という名の暴力性があるのなら、必死こいて逃げる必要がないかもしれない。

 逃げるのではなく、立ち向かえる可能性があるのだ。ひょっとすると、悪魔だって蹴散らせるかもしれない。


 そう考えた彼女は、養父に取り憑いている悪魔を追い払おう、と結論付けた。

 なにせ暴力は、現在のヘザーの最も得意とする分野である。


 あと生コンの取扱いも、結構得意だったりする。

 昔というか、生前取った杵柄である。

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