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劇場型転生:元ヤン男性、ホラー映画のヒロインになる  作者: 依馬 亜連
第2章

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65:陰キャ探偵大激怒

 自由になったヘザーを抱きとめた雷光は、クライヴだった。

 普段は鬱々とした表情を浮かべる顔を憤怒に染め、左腕でヘザーを抱き締めながら右腕でサーベルを構える。

「この子に触れるな」

 低く押し殺した、殺気立った声音を発する。


(いやいやいや。アンタはオレにベタベタ触っていいのかよ)

 ヘザーは内心でそんな突っ込みをしてしまうものの、密着した状態でクライヴの腕の逞しさと、ベルガモットの香りを嗅いでしまい。

 そして自分のために怒ってくれている、なんとも凛々しい横顔も間近で見つめてしまったので。


 すぐさま乙女スイッチが一斉点灯し、あっという間にそれどころでなくなった。

 キュンの大量放出により、とろけてしまう顔を引き締めるのに精一杯である。


 一方、片腕を肘から切断されたイーディスは、その断面図を眺めていた。

 破邪の力を帯びている (らしい)サーベルによって切り落とされたそこからは、肉の焼けるような音がする。実際、白い煙も立ち昇っていた。


 魔女は次いで、周囲を見渡す。

 破壊された骨の残骸が、墓地一帯に散らばっている。惨状以外の何物でもない光景が広がっていた。

 覚悟ガンギマリのクライヴは恐ろしく強いため、未だに健在の骸骨はゼロだった。死後、骨だけの状態となった化け物に、「健在」という評価が正しいのかは不明であるが。


 ふむ、とイーディスは納得したように頷く。そしてクライヴへ向き直った。相変わらず、腹の内が読めない笑みだ。

「なるほど。そこの娘だけでなく、そなたも変わった魂の持ち主であったか――しかし随分と、(いびつ)な色をしているな。それに」

 赤い眼差しが、彼の腕の中のヘザーへ向けられた。


 また舐められてたまるか、と身構える彼女にガンを飛ばされても、イーディスは心底楽しげだ。

「ほう、そうか。なるほどな」

 意味深にそうつぶやくと、無事な腕をかかげる。そして骸骨を喚び出した時のように、指を一つ鳴らした。


 その音に呼応して、クライヴの眼前にピンクの(もや)が現れる。光る粒子をまとった、不可思議な靄だ。

 クライヴもヘザーも戸惑っている内に、靄は彼の体の中へと、吸い込まれるように入り込んだ。防ぐ間もない出来事に、ヘザーの喉がか細く鳴る。


「やれやれ……腕が一つでは、術もままならぬとは。では、またな」

 鷹揚(おうよう)に退却宣言をしたイーディスの姿がぼやけ、再び黒雲と化す。

「あっ、普通に逃げようとしてんじゃねぇぞ!」

 クライヴの腕から飛び出たヘザーがロザリオを突き出すも、それより早く黒雲は森の奥へと遁走(とんそう)した。


 気が付けば、二人が粉砕したホラーマン軍団も消えていた。

 ちゃんと元の墓に戻れたのだろうか、と薄っすら気にはなるものの――今はそれより。

「おいクライヴ、大丈夫か? なんか変なピンクのが、体ん中に入ってったけど」

 ヘザーは慌てて彼の隣まで引き返し、顔をのぞき込む。

 クライヴは靄が吸い込まれた腹部を撫でつつ、うなだれていた。少し長めの前髪が邪魔をして、上手く表情が伺えない。


「痛みも違和感も、別にない」

 返って来たのは、七日連続で犬のウンコを踏んでしまったかのような、どんより声である。彼の場合はこれが平常運転であるため、ヘザーの肩からも力が抜ける。

「そっか、うん、よかった。でも心配だし、一応スタンリーさんに診てもらおうぜ」


 ヘザーは純度百パーセントの善意で、こう提案した。

 なのだが、ようやく持ち上げられた彼の表情は不愉快一色である。いっそ忌々しげに、目の前のヘザーを睨んでくる。

「へ? あー……どうしましたの、クライヴさん?」

 つい敬語になってしまう。


「必要ない」

 ぼそり、と発せられた返答は酷く端的だった。ヘザーは思わず目をむく。

「は? 必要ないって、診察が? いやいや、人殺してる魔女に襲われたんだぞ。なんかあるかもし――」

「必要ないと言っているだろう!」

 こちらを殴りつけるような怒声に、ヘザーの声は断ち切られる。


 予想外過ぎる反応につい、ヘザーは反撃手段も見失った。彼から嫌味や軽口はよく向けられるが、こんな風に明確な拒絶を受けたのは初めてなのだ。

 反撃を考えるどころか、怒鳴られたことがとても悲しくて――実のところ、ちょっと泣きそうである。


 すん、と鼻を鳴らしてうろたえる彼女の細い手首を、クライヴが強引に掴んだ。普段は手を握ることすらおっかなびっくりな彼らしくない、乱暴さだ。

「おい、急にな――痛ぇだろ! ちょっ、おい! やめろって!」

 掴まれた腕を無言で引っ張られた。ヘザーは抵抗するも、そのまま強制的に来た道を戻らされる。


(何が違和感ない、だよ! こちとら違和しか感じてねぇから!)

 両足で必死になって踏ん張りながら、胸の内ではこう叫んだ。

 しかし腕力と長い脚による歩幅を活用し、クライヴはヘザーの抵抗を一顧(いっこ)だにせず進んで行く。

 普段どれだけ、彼がこちらを気遣って(いた)わってくれているのかと、場違いに再認識してしまう。


 彼の目的地は、二人が宿泊するベイツ・ホテルだった。

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