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劇場型転生:元ヤン男性、ホラー映画のヒロインになる  作者: 依馬 亜連
第1章

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30/100

30:ヤンキー令嬢のときめきマックス決意表明

 相も変わらず雪がちらついているため、バルコニーは無人であった。

 激しい運動と、とんでもないときめきと、人生最大級の羞恥心でとにかく全身火照っていたため、この寒々しさが心地いい。

 腰に手を当てて、粉雪ちらつく夜空を見上げる。そして大きく深呼吸。


(アラサーのオッサンが、同じくアラサーのオッサンにキュンキュンするって……いやでも、オレいま乙女だし、いいのか? あれ、いいのかも……いやいやいや! 落ち着けオレ、たしかにオレはヘザーだけどよ、同時にオレというアイデンディティもだな――)


「あれれぇ、フリーリング伯爵令嬢様がぁ、一人で何をなさってるんですかぁー?」

 が、若干ろれつの怪しい声が、一人きりの静謐(せいひつ)な空間に割り込んできた。


 露骨に顔をしかめて振り返れば、見るからに飲んだくれている若い男性が三人。

 二人は忌まわしい、『アビス』本編でヘザーを押し倒したクソ野郎である。もう一人は初見のツラだが、同類であることは、赤ら顔と千鳥足っぷりから明らかである。


(ってか、なんで一人増えてんだよ! そういうサービスいらねぇよ!)


 たまらず、歯を見せて唸ってしまう。せっかく黒い影を蹴散らしたのに、そのご褒美がレイプ魔増量とは如何(いかが)なものか。


 中身は百戦錬磨の鬼ヤンキーだが、あくまで肉体は華奢で可憐な美少女であり。

 しかもつい先ほど、悪霊相手に八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をこなしたところだ。つまりは軽くガス欠状態なのである。


 そのような状態で酔っ払いとはいえ、自分よりずっとガタイのいい男×三体を相手にするのは……明らかに分が悪すぎる。


 不利な状況を察して悔し気な彼女を、へらへら笑った不埒(ふらち)な男どもが囲んだ。今日はよく囲まれる日である。

「さっきの踊り、すごかったねぇ」

「そこらの娼婦なんてもう、目じゃなかったよぉ! ソーホーでさ、荒稼ぎできるんじゃない?」

 ロンドンにあるソーホー地区は、売春婦も多くいる歓楽街として有名な場所だ。

「そうやって、伯爵様にも取り入ったのかなぁ?」

「ああー、そういえば彼は……ああ見えて、案外遊んでいるという噂だしねぇ」


 そう言って新顔が、いやらしく舌なめずり。思わず「※こいつはドスケベ野郎です」というテロップを入れたくなるような面構えだ。


 ドスケベ・フェイスのまま、彼はまろやかなヘザーの胸へと手を伸ばす。

 ヘザーがその手に噛みつくより早く、彼の背後から伸びた腕が、思い切り手首を掴んだ。

 手首はそのまま、遠慮なく後方へと(ひね)り上げられる。


 ぎゃぉあっ!と新顔が悲鳴を上げて倒れ込むと、彼の手首を捻り上げたクライヴの姿が、ヘザーの視界にも入って来た。


 普段の無愛想面が愛嬌たっぷりに思えるぐらい、彼は不機嫌かつ怒っている。

「彼女は当家の、大事な後継者だ。何の用がある」

 いつもよりも倍以上低くなった声にも、隠すつもりもない怒気がはらまれていた。


 酔っ払い御三家は青ざめて縮こまり、慌てて後ずさり。

 そして口々に「ごめんなさい」「許して」と叫びながら、不格好な足取りで逃げ去って行った。


 あわや性犯罪という危機から劇的に救われて、ヘザーは棒立ちだった。

 忌々しげに酔っ払いを見送っていたクライヴが、呆けている彼女に向き直る。そのまま体を少しかがめて、ヘザーの顔をのぞきこんだ。

 彼はいつものどんより陰気面かと思いきや、気遣わしげに顔をしかめている。


「ヘザー、大丈夫か? 何もされていないか?」

「お、おお……」

「また何かあるといけない。もう戻ろう」

「うん」

 こくん、とうなずいた彼女の前に、手が差し伸べられる。ヘザーはおずおずと、彼の手を取った。


「ごめん」

「君は何も悪くない。無事でよかった」

 クライヴは即座にそう断言した。修道院で初めて会った時と違い、彼の声はとても優しくて温かい。


 手をつないでとぼとぼ歩きながら、ヘザーの胸のときめきは最高潮に到達していた。

「なぁ、クライヴ」

「うん?」

「アンタ、死ぬんじゃねぇぞ」

「え、何故急に。怖いんだが」

「ってか、オレが絶対死なせねぇからな」

「だから急に何なんだ! 俺には見えない何かがいるのかッ?」

 あっという間にいつもの陰気面に戻り、震え上がるクライヴであったが。


 ときめきで爆死寸前のヘザーは、絶対に彼を死なせないという、強い決意を意識することに必死であった。

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