赤い風船
「赤い風船」
赤い風船を持った少女がひとり
残暑の街を歩く
麦わら帽子に白いワンピース
「お嬢ちゃん、ひとりなの?」
顔の無い大人が声を掛ける
少し怯えた目で少女は頷く
「でも大丈夫」
少女は小さな声でそう言いながら
赤い風船の糸を巻き付けた右手を
差し出してみせる
顔の無い大人が首を傾げる
「赤い風船を見つけて来るの。
お父さんとお母さんが」
あぁ、目印なのか。
顔の無い大人が合点する
「裸足で熱いだろ?」
顔の無い大人が抱きあげようとする
イヤイヤをする少女
良かれと思って抱き上げると
「あっ!」
少女の叫び声
糸の切れた赤い風船が
空へと上がっていく
「あぁ、ごめんごめん。
新しい風船を買ってあげるよ」
見上げていた顔を下ろすと
抱いていたはずの少女が
いなくなっていた
遠くで声がする
「お父さん、お母さん。
私はここにいます」
*フィクションです。