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家族? 同棲?

 僕らは、セラス母さんが淹れてくれたロイヤルなミルクティーを飲みながら、レンファの話を詳しく聞いた。ちなみにロイヤルなお茶の味はすごく甘くて、ミルクのふんわりした香りと、スッとするお茶の香りがした! すごく好きだな。


「それにしても、よく無事だったわよね」

「運が良かったと言うべきか困るところです」


 緑のツタに覆われていた〝魔女の家〟は、僕がレンファとバイバイした時には確かに緑色だった。

 だから僕は、永遠の呪いは解けなかったんだなって思っていたんだ。でも、夜にレンファが1人で過ごしていると、いきなりミシミシ音を立てて軋み始めたんだって。

 今までにそんなことは一度もなかったから「おかしい」と思って、レンファは何も持たずに外に出た。すると、途端に屋根が真下にズドンと落ちて、家がぺちゃんこになっちゃったらしい。

 本当に危ない! もし逃げ遅れていたら、レンファはその時点で死んでいたかも知れないな。


 家の中に残っているものを掘り出したくても辺りは真っ暗で、灯りすらない。色んな動物が棲む上に冬間近の寒い外では、布団もなしに寝られない。だから、レンファは仕方なく真っ暗な道を辿ってここまで来たんだって。

 道中何もなくて、本当に良かったよ。


「じゃあ、明るくなったら皆で家に行ってみましょうか。呪いが解けているにしろいないにしろ、解呪の陣をそのままにしておく訳にはいかないでしょう? まあ、解けているなら正直どうなっていても構わないでしょうけれど。もし、解けていないのに陣だけ壊れていたら――」

「仮にそうなったら、もう本当の意味でおしまいですね、私は」

「……そうよね。何百年も壊れなかった家が壊れたんだから、きっと間違いはないと思うけれど……いや、思いたいわね」


 もし、レンファの呪いが残ったまま解呪の陣だけダメになっていたら、確かにそれって大変だ。だって、もう二度と呪いが解けないってことだもんね。

 新しく呪術ができれば良いけれど、今の世界じゃダメだって言っていたし――きっと、陣をペンで真似して書くだけじゃあいけないんだろうな。

 空気と精霊と、代償の生贄。これが全部そろって初めて、呪術になるんだから。


 僕は真面目な顔をして頷きながら、セラス母さんに空のコップを掲げて見せた。

 でも母さんは首を横に振って「あんまり飲み過ぎると寝つきが悪くなるし、夜中にトイレに起きるからダメ」って言う。――くう、おかわり飲みたかったのに。

 僕はしょんぼりしながら、台所に重ねた洗いかけのお皿の上にカップを置いた。これも明日一緒に洗うんだ。


「……少し見ないうちに、まるで本当の母子みたいになって」

「やだ、そう見える? まあ、私にはもったいない息子なんだけどね」

「ええ~? 違うよ、僕にはもったいない母さんなんだよ」

「なんか、面倒くさい母子……」


 呆れたみたいに目を眇めるレンファに、セラス母さんが「面倒くさいとは何よ!?」って怒りながら笑った。


「レンもしばらくこの家に居るなら、アレクの〝妹〟にしてあげても良いわよ?」

「えっ、妹!? 妹はダメだよ、家族だと結婚できないらしいから! レンファは絶対に、よその子です! シッ!」

「シッじゃありませんよ。こっちだって、君みたいな異常な兄は要りません」


 僕が慌てて手を振ると、レンファもじっとりした目でシッ! て手を振り返した。

 ――ああ、なんだか良かったなあ。

 僕はレンファとセラス母さん、両方に嫌われたっておかしくないことをしたんだ。それなのに僕とちゃんと話してくれて、笑いかけてくれて、怒ってくれて、本当に良かった。


 済んでしまったことはどうしようもできないし、仕方がない。だけど仕方がないで終わらせないで、ちゃんと考え続けなくちゃいけない。そうでなきゃ僕は、いつまで経ってもゴミのままだからね。

 ゴミじゃなくなったら、いつかレンファと結婚できそうかも――知れなくもないような、気がしなくもないし? うん、ちゃんとしよう。


「お風呂を沸かすから、明日に備えて早めに休みましょう。目の前で家が潰れた上に、真っ暗な森を手探りで歩いたんだから仕方ないけど……ちょっとホコリっぽいわよ、レン」

「ん、ああ……すみません。椅子と床を汚して」

「いや、掃除すれば済むから良いんだけど、そのまま眠るのはちょっとね――そう言えば、今後〝魔女業〟をどうするかも考えなくちゃいけないんじゃない?」

「これを機にすっぱり辞めてしまうのもアリかもと思っています。まあ、明日家の様子を見てからですね」


 母さんは頷いて「沸かして来るから、待ってて」って言いながら家の奥へ行った。

 薪に火を付けるのは大変だし危ないからって、僕にはやらせてくれないんだよね。村で散々やってきたことなんだけどなあ。

 でも、たぶん僕のことを心配してくれているだけだから「やらせて」なんてワガママは言わないよ。


「レンファの魔女の秘薬って、あの家がなくても作れるの? 陣から離れたら魔法の薬も作れないんじゃない?」

「秘薬なんて名前で呼ばれていますけど、そんな大層なものではありませんよ。君の弟に飲ませるために渡したものだって、ただの解熱剤ですし」

「ゲネーツザイ」

「熱を下げるだけの薬。街へ行けばいくらでも売っているものです。でも、君が過ごしていたような閉鎖的な村だと〝街〟そのものを悪しきものとして捉えているから、恐ろしい場所だと思って近づきたがらない人が多い。そういう、売っていて当たり前の薬を手に入れられない人々に渡す用なんですよ。〝魔女の秘薬〟は」

「へえ。何だかよく分からないけれど、やっぱり街は電気がビリリで、痛くて危ないってこと?」


 僕が首をかしげると、レンファは「――そう。君みたいなのが居る限り〝魔女の秘薬〟はまだこの世に必要なんですよね」って小さく肩を竦めた。

 そう言えば、前に母さんも言っていたな。「魔女業もそろそろ廃業間近なんじゃないかしら」って。


 滅多に街へ出て行かないカウベリー村の人からすれば、熱を下げる薬なんて魔法みたいな薬だ。だって、村に居た薬師のお婆さんが作れるのは、体を冷やすために貼るスースーする薬とか、お腹が痛いのがよくなる薬とか?

 でも確実に効く訳じゃないから、村の中には「インチキだ」って言っている人も居た。たぶん、薬ってそれくらい難しいものなんだと思う。


 レンファはずっと、街へ行くのが怖い人のために〝ゴミクズ〟と薬を交換してくれてたんだ。きっとカウベリー村みたいに変な人が多くて、大変だったんだろうな。

 ――「君が一番変ですよ」なんて言われそうだから、絶対に口に出さないけどさ。

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