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アレクシス5

「な、なあ……本当に()()()()で、魔女は満足するのか? 呪われた子供を差し出すなんて、もし魔女の機嫌を損ねたら村人全員が呪い殺されちまうんじゃあ……」


 村の大人が声を掛けると、父さんは笑いながら肩を竦めた。


「問題ない、魔女が秘薬の対価に要求してきたのは「村で一番不要だと思うゴミクズ」だぞ? 口ではゴミクズと言ったって、魔女が要求するものなんて古今東西『子供』に決まってる――つまり、村で一番価値のない子供を生贄に差し出せという暗喩(あんゆ)だろう。全く、遠回しで分かりにくい対価の要求をしやがって、気味の悪い魔女め」

「そ、そうか……それなら良いんだ。親のお前らには悪いが、アレクシスの扱いには村の人間も困ってた。魔女に任せられるなら、それが一番良いよな」

「おい、俺だって好きで親になった訳じゃあない。子は親を選べないなんて言うが、その逆もまた(しか)りだろう? 勘弁してくれよ」

「そうだな、悪い……お前らの苦労は知っていたはずなのに」


 ホッと安心した様子の大人は、父さんと顔を見合わせて笑った。

 ――よく分からないけれど、僕が魔女のイケニエになると皆が喜ぶみたい! これは凄いぞ、今まで僕のやることで皆が喜んだことなんてなかったのに、夢みたいだ。

 それに何よりも、僕が薬の『お金』になるなんて嬉しい。ずっと村の邪魔者で皆から嫌われていたけれど、魔女にとってはお金になるんだ。


 それに、魔女の物語なら聞いたことがある。魔女は不老不死で 永遠の時間を生き続けるんだって。だからずっと綺麗なお姉さんの姿をしていて、年を取らないし死なない。

 ずっと綺麗でいるためには子供の血肉が必要とか聞いたこともあるけれど、僕が好きな物語はソレじゃあない。

 魔女の物語で好きなのは、引き取った子供がどんどん年を取って、いずれ魔女よりも大人になって――魔女1人を残して死んでしまう話だ。


 魔女は永遠にそんなことを繰り返しているのかな? 誰かを好きになる度、別れに怯えるのかな? 僕はよくあの気持ちの悪いお姉さんに「可哀相だ」って言われるけれど、魔女は僕なんかよりもずっと可哀相だ。何とかしてあげられれば良いのにね。

 僕が一緒に居るから平気だよって優しくしたら、僕のことを好きになってくれないかな? やっぱり、呪われている子なんて嫌だって言われるかな。


「アレクシス、間違っても嫌だなんて言うんじゃあないぞ。どの道もうお前はこの村には居られない、村の女に乱暴しようとするような男は、居ちゃあいけないんだ」

「あ……」


 ――そうか。やっぱりお姉さんと僕のことは、無かったことにはならないみたい。もし僕が嫌だって言ったら、本当に殺されちゃうんだろうな。直接叩かれるのか、それとも村から追い出されて死んじゃうのかは分からないけれど。

 このまま愛を知らずに死ぬのだけは嫌だ。どうせ死ぬなら、魔女のところが良い。


「――うん、分かった。僕イケニエになるよ」

「そうかアレクシス、分かってくれるか……さすがお兄ちゃんだな。じゃあカゴを家に置いてきなさい。母さんにもジェフリーにも挨拶する必要はないから、とにかく急ぐんだ」

「はい、父さん」


 僕は大きく頷いてから家まで走った。そして家の入口にカゴを置くと、また村の中心まで走って戻った。

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