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魔女が不老不死だなんて誰が言い出したんですか?  作者: 卯月ましろ@低浮上
第4章 キツネを振り向かせるために
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道徳心4

「残酷な話だけれど、人間って「皆からいじめられる人間」が居るとすごく安心するの。だって、その人さえ居れば自分はいじめられないもの――「皆からいじめられる人間」に守られているから」

「うーん……どういうこと?」

「よく思い出してみて。カウベリー村には、アル以外にも嫌われ者が居た? 村人全員から石を投げられるような人が」

「え? ええと……」


 僕は、村の人の顔を1人1人思い出した。

 だけど、僕以外に「呪われてる」とか「嫌いだ」とか言われている人は、居なかったと思う。もちろん石を投げられるような人も、無視されるような人も。


 いや、でも――皆から石を投げられるほどではないけど、悪口を言われるような人や家を追い出される人は居た。

 僕の身体を触る気味の悪いお姉さんだって、子供ができずに結婚した家を追い出されて、自分の生まれた家に戻るしかなかった。

 ジェフリーが一緒に遊んでいる村の子の中でも、ちょっと動きが遅い子が居ると皆に突き飛ばされたり、笑い者にされたりしているのを見たことがある。


 ただ、あのお姉さんも他の子供たちから笑い者にされた子も。

 僕が逆三角形の一番下にあるトンガリだとすれば、絶対に僕より()だった。だから「やめて」って言っても僕を触るし、笑い者にされている子だって皆と一緒に僕に石を投げる時だけは、誰からも笑われなかった。

 だってその時に笑われているのは、僕1人だけだから。


「僕――そう、か、うん。なんとなく分かるよ。僕があの子やお姉さんを()()()()んだね」

「そうよ、アルはカウベリー村の生贄みたいなもの。一番立場が弱くて、他の弱者を火の粉から守る役目があった」

「イケニエ……僕、レンのイケニエになるはずだったのになあ。そうか、最初からイケニエだったんだ」


 どうせイケニエになるなら、絶対にレンに使われたい!

 僕がちょっとだけ頬っぺたを膨らませていると、セラス母さんはペンの先で逆三角形のトンガリ――僕の部分を指した。


「でもね、アル。アルはもうカウベリー村に居ないでしょう? この三角形は今、どうなっていると思う?」

「え? うーん、そうだなあ……トンガリがなくなって、三角形じゃなくなっている? ほら、トンガリを切り落としたら変な四角形みたいになるよ」


 僕は指先で、三角形のトンガリ部分を押さえて隠した。僕が居なくなったんだから、もうトンガリはないはずだもんね。

 でもセラス母さんは、首を横に振った。


「いいえ、今も三角形のままよ」

「……え、どうして? 僕が居なくなっても皆、まだ僕が嫌いなの? ――それならそれで良いけどね、だってそうすれば他の人はいじめられないんでしょ?」

「違うわ……ソコに居るのはもう、アルじゃない他の誰かなのよ」

「どういうこと?」

「この歪な三角形は、絶対に形を変える事がないの。それこそ、村ごとなくなりでもしない限りね。アルが抜けたら、次に弱い立場の生贄がここに降りてくるだけ。その生贄が抜けても、また新しい生贄が上から移動してくる……言ったでしょう? 人間は「皆からいじめられる人間」が居るとすごく安心するって」


 セラス母さんはまた、逆三角形のトンガリを突いた。


「普通の組織構造はね、こんなに歪じゃないはずなのよ。頂点が多くの人に支えられて三角を形作るはずなのに、この逆三角形は――カウベリー村は、なかなかに病的だってこと。生贄が居ないと成り立たない、誰かを村八分にしていないと生きられないの。だから、生贄は何度でもつくられる。いじめられる恐れがなかったような人でさえ、いつ下に落ちるか分からないわ」


 そんなにたくさん上から降りて来たら、いつか三角形じゃなくなるはずなのに――ああ、もしかしてそれが〝村ごとなくなる〟ってことなのかな?

 僕はなんだか、複雑な気持ちになった。だって、すごくおかしいと思うんだ。


「……カウベリー村は、すごく嫌なところだったんだね。安心するなんて理由で僕の次のトンガリにされた人が可哀相だよ!」


 僕は面白くなくて、ますます頬っぺたを膨らませた。別にカウベリー村が好きだった訳じゃないけど、すごくカッコ悪い気がする。

 だって、いじめっ子しか居ない村ってことだよね? いじめる人が居ないと、皆不安で生きられないんだよね? だからって、下に行かされる人が可哀相だよ。

 そうしてプンプンしていると、セラス母さんが「アル」って呼んだ。見れば、どうしてか母さんは困ったみたいに眉毛を下げている。


「――あのね、そういうところがあなたの一番の()()なのよ」

「問題?」

「レンも言っていたでしょう? お願いだから、なんでも他人事にするのはやめて――あなたは今「自分の次の人が可哀相だ」って言ったけど、可哀相なのはアルも同じだってことをちゃんと理解して」

「僕が……? ――どうして? 僕、可哀相じゃない……僕はそういうのとは違うよ、だって」


 ――セラス母さんだって言ったじゃないか、僕が嫌われていたのは「仕方がない」って。

 僕のこれは呪いだ。母さんも父さんも、僕のせいでいじめられて――そう、それこそ、僕を産んだせいであの2人は逆三角形のトンガリにされたことがあるんじゃないのかなって思うから。


 僕が悪かったからいけないんだもの、他の誰も悪くない。母さんと父さんを助けたのはジェフリーで、だから、だから――。

 だから嫌われて当然なんだ、誰にも愛されなくて〝普通〟なのに。それが、仕方ないってことじゃないの?


「アルの問題は、その異常な()()かも知れないわね……普通、恨み言の一つや二つ出るでしょう。どうあっても家族を責めないのは、何かしらの強迫観念が原因なのかしら――」


 セラス母さんは小さく息を吐いて、まるで頭が痛いのを堪えるようにおでこを手で押さえた。

 僕はますます分からなくなって、両手をいじいじして俯いた。

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