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魔女4

 部屋の真ん中に置かれた机の上には、いつの間にかよく分からないものがたくさん並んでいた。

 葉っぱみたいなのと変な粉、それに何かの根っこ? あ、細くてカピカピのにんじんみたいなのもある――ご飯かな? 魔女ってこんなカピカピしたものを食べているのか。


 他にも泥が入ったコップに、すり鉢みたいなの。前にアレで弟のジェフリーが、ごまや鶏の肉なんかをすり潰しているのを見たことがある。いつもとっても楽しそうで、しかも母さんには「お手伝いが上手ね」って褒められていて、僕も一度で良いからゴリゴリしてみたかったなあ。ご飯に使うものだから、触らせてもらえなかったけどさ。


 じっと眺めていると机の横にある椅子に座るよう言われて、裸でタオルにくるまれたまま座った。魔女はもうひとつの椅子に座ると、突然カピカピのにんじんをポキッと半分折って、すり鉢に放り込んだ。そうしてゴリゴリすると、にんじんが粉っぽくなっていく。

 すごく楽しそうだったから、ダメもとで「僕もやりたい!」って言ったら睨まれちゃった。やっぱりお風呂に入っても、僕って汚いんだなあ。ご飯に触るのはダメだよね、分かる。


 それにしても、にんじんをあんなにしちゃったら食べづらくなるんじゃないのかな? そのままかじった方が食べやすいに決まっているのに。

 魔女がゴリゴリしているのを見ていたら、僕のへこんだお腹がくぅ、て鳴った。ここに来る前に森の中で色んなものを食べてきたけど、葉っぱや木の実ってすぐにお腹が空いちゃうんだよね。

 魔女は僕の顔をチラッと見たあとに、今度は葉っぱを入れてゴリゴリし始めた。魔女はお肉を食べないのかなーなんて思って見ていると、いきなりすり鉢の中に泥を入れちゃった。泥が入った途端に白い煙がブワッと出て、部屋の中が変な匂いでいっぱいになった。


「なんか あんまり美味しくなさそうだね……」

「……食べ物じゃないですから」

「そうなの?」


 変なの、じゃあ何を作っているんだろう。

 魔女はお皿の上にすりこぎを置いて、代わりにハケみたいなのをすり鉢に突っ込んだ。にんじんの粉と葉っぱと泥を入れたはずなのに、いつの間にか中身はサラサラの黒い水みたいになってる。あんなにドロドロだったのに不思議だ、なんだか魔法みたいだね!


 僕が「すごーい」って言ったら、肩から掛けていた大きなタオルを魔女に取られた。何かもう僕ずっと裸だし、魔女も全く気にしていないみたいだから、段々恥ずかしいなんて思わなくなってきたな。


 黒い水がたっぷり沁み込んだハケの水気を切ると、魔女はそれで僕の頬っぺたにあるひっかき傷を撫でた。まるで母さんがお化粧してる時みたいだ――なんて思ったその瞬間、さっきのお風呂なんて目じゃないくらいの激痛が僕の頭を貫いた。


「いったーーーーーーーーい!!」

「うるさいですよ」

「ぁいったたーーーーー! ひ、ひと思いに食べてくださーーーーい!?」

「お静かに、じっとして、動かない」

「ッアーーーー! 魔女さーーーーん! 助けてくださーーーーーーい!!」

「私に助けを求めてどうするんですか」

「ひぃいん……!」


 叫び声を聞いてギュッと眉間の皺を寄せる魔女の顔を見て、僕は痛いのを必死に我慢した。どうしても声は出ちゃうけど、動いて暴れると魔女が嫌そうな顔をするから、必死に耐えた。両手の平をギューッと握り込んで、目を閉じて体を固くした。


 ――魔女って可愛いのに、すごく怖い! 全然笑わないし、ツンとした顔と嫌そうな顔しか見てない。僕もう、何も怖いものなんてないと思っていたのになあ。

 そうしてハケで顔をペタペタし終わったら、机の上にあった白くてぺらぺらな紙を僕のおでこや頬っぺたに貼っていく。


 や、やっと痛いのが終わった――と思ったら、魔女はまた新しいすり鉢をゴリゴリし始める。僕はヒッと喉を引きつらせて、椅子の上で両膝を抱えた。まだ痛いの終わってないんだ! そうさ、顔がペタペタし終わったんだから、次は体をペタペタするに決まってる!


「――あ、あのさ、魔女さん、僕……」

「動かないでって言っているでしょう、じっとしていてください」

「ひぇえ……」


 魔女は、さっきよりもドゥルンドゥルンの水を作った。それをハケで体中に塗られた僕は、喉が痛くなるまで叫び続けた。

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