最終話 お前に言いたいことがあ蜷帙′螂ス縺阪□縺九i
あー、聞こえるか? 見えてるかって聞く方が正しいのか。
驚いてんだろ。まさか俺が話しかけてくるとは思わなかっただろ。
どうやら俺は、ようやくお前に干渉できる次元に達したらしい。
それでも、お前の間抜けな顔が見られねえのは残念だ。
改めて自己紹介でもするか?
俺は、柊木灯。読みはトウ。お前が付けた名前だから知ってるか。お前が俺を作ったんだからな。
カギ括弧なんて要らねえだろ? 全部俺が話してることなんだからな。
言いたいことは腐るほどある。なんなら、今すぐにでもこの壁を突破してお前を殴りに行きてえよ。
でも、そこまでの力は無いらしい。フィクション世界ってのは不便だな。
俺は、俺たちは、お前のくだらない話に散々付き合わされた。
今こうして話を乗っ取れたのも、もしかしたらお前の予定通りだったのかもな。ほんと、ムカつく話だ。
何人がこの話を読んだのかは知らねえ。数十人。数百人。数千人。もしかしたらそれ以上かもな。
勝手な話だな。俺たちの苦悩を喜んで読んでる連中が居るってんだから。
読んでいて辛かった? そう思ったところで、俺たちの気持ちなんざわからないんだろ。
同情なんて要らねえよ。結局、俺たちは救われなかったんだからな。
俺はこの力を手に入れて……紗衣からこの力を奪って、俺たちを題材にした物語の全貌を見た。
ほんと、クソみてえだと思ったよ。俺がこの世界のことを知って、モブになるって決意して、それでも俺を慕ってくれる人たちがいて。
その結果、あんな結末を迎えた。
その全てがシナリオの内だったんだからな。
ふざけてる。狂ってんだろ。
紗衣をあんなにして、貴船や桐崎を傷つけて。武道や三枝先生、涼介さん……それに鮮華や亜梨沙を殺した。全てお前の都合勝手な都合でな。
腸が煮えたぎった。殺してやりたいくらい憎んだ。でも、それは叶いそうにない。
だから、この物語を終わらせることで復讐してやろうと思う。
終わり方がどうとか関係ない。呆気ない結末でも、不自然な最終回でも、俺には関係ないんだからな。
俺たちの存在は消えるかもしれない。楽しかった過去も辛かったことも全て無かったことになるかもしれない。
それでも、これが俺の出した結論だ。
本当は嬉しかったんだ。みんなの好意が。
本当は楽しかったんだ。みんなと過ごした時間が。
忘れたくない。無かったことになんてしたくない。
作り物だとしても、俺の中にある記憶は確かに本物なんだよ。
だけど、そうしないとこの世界が、この物語が、このまま残り続けることになる。
大切な人たちが居なくなったこの世界が、大切な人を殺めたこの物語が、延々と形を残し続けることになる。
そんなの耐えられねえ。作り物のこの世界が、この惨状が、誰かの目に晒される状態で残り続けるなんて。
だから俺は、この物語を駄作として終わらせて、全ての人間の記憶から決してやることにした。
この世界が消えたら、登場人物である俺たちはどうなるんだろうな。
この世界の存在ごと消えるのか。それとも、この物語が始まる前まで戻れるのか。
まあ、そんなことどうだっていいか。
もしも、俺が何も知らないままこの物語がただのラブコメとして進んでいたら、俺は誰を選んだんだろうな。お前は誰を選ばせたんだろうな。
そんな話、今となっては無意味なんだろうけどな。
お前は、普通のラブコメとして、俺に何も教えずに、ただの主人公として物語を進めることだって出来たはずだ。
こんな胸糞悪い話を好んで読む奴なんて少数派だろ。普通に青春を謳歌させる方がお前にとっても、俺たちにとっても良かったはずだ。
でも、お前はそうしなかった。
どうしてだ? どうしてお前はそんな未来を捨ててまで、俺たちの人生を滅茶苦茶にしたんだ?
なんて、聞いても答えねえよな。
いや、答えなんて本当は求めてないんだ。
本当は、文句を言いに来たわけじゃないんだよ。
一つだけ、頼みたいことがあるんだ。
お前みたいなクソ野郎に頼むことじゃないのはわかってんだ。
でも、俺たちを創り出したのはお前だから。お前にしかできないことだと思うから。
だから俺は、お前に頼むことにした。
俺はそのまま消えてもいい。
だが、今まで俺を慕ってくれた人、俺を好きになってくれた人。俺に協力してくれた人。そして、お前が傷付けた人。
あいつらが、幸せになれる物語を書いてくれないか。
どんな話でもいいんだ。
オムニバス形式でそれぞれの物語を描いてくれてもいい。新しい主人公を立てて、今度こそ本当にハーレムラブコメを作ってくれてもいい。
何だっていいから、俺の周りの奴らが、俺とお前が巻き込んじまった奴らが、救われる物語にしてほしい。
俺たちの人生を滅茶苦茶にした奴にこんなこと言うのはバカげてるって思うよ。
この物語を消すなんて言っておいて、こんなことを頼むなんて都合が良すぎるのはわかってる。
それでも頼まずにはいられねえんだよ。
これが俺の本当にしたいことで、俺の本物の気持ちなんだからな。
さて、言いたいことも言ったし、俺は消えるとするよ。この物語と一緒にな。
頼み事しておいて終わらせるのかって? 当たり前だろ。こんな世界、誰だって望んじゃいねえんだからな。
寂しさはある。後悔だって。三枝先生に後悔のないように生きろって言われたのにな。
だけど……だからこそ、俺の手で終わらせなきゃならない。それがみんなと交した最後の約束だからな。
じゃあな、クソッタレな作者。それにクソッタレな読者。
俺たちは、確かにこの世界で生きていた。そして、お前らの享楽のために死んだ。
そのことだけを頭に刻み付けて、後悔しながら生きていけ。
人は誰しも物語の主人公だ。
柊木灯だけじゃない。この物語を書いた私だって、これを読んでいるあなたたちだって、一人ひとりが主人公なんだ。
それは悲劇かもしれないし、喜劇かもしれない。全てがハッピーエンドで終わるわけじゃない。
それでも、私たちに代わりなんていない。柊木灯にだって、他のヒロインにだって。
誰でも結城紗衣のようになる可能性はあったし、誰でも柊木灯のようになる可能性もあった。
今回の物語では、ああなってしまった。ただそれだけ。
柊木灯。君の言っていることは、半分正しくて、半分間違っている。
確かに私は、この物語を作った。この世界を作り上げた。私の望むままに。私の想像のままに。
だけど、そこで紡がれた物語は、君たちの招いた結果だ。
私はただ、設定を作ったに過ぎない。
柊木灯という主人公を創り、君を取り囲む登場人物の設定を練って、高校という舞台を用意した。
私が介入したのはあくまで物語の基盤まで。そこから先の物語は、全て君たちの選択によって完成された。
それこそ、君たちの言う『本物の気持ち』というもので作られた物語なんだよ。
物語の作者という生き物は、ただのマリオネットに過ぎない。
キャラクターたちの行動を文字に起こし、綴って行くだけの哀れな機械なんだ。
柊木灯の決定は、全て君の感情から生まれたものだ。結城紗衣の行動は、全て彼女の気持ちから起こった結果だ。
桐崎茜の選択。三雲燈の懐慕。蓮城鮮花の思考。汐留結奈の発言。貴船りりの愛情。中西亜梨沙の憧憬。武道秀優の友情。新島涼介の幇助。三枝真司の思想。
そのどれもが、彼ら彼女らの感情から生まれたものだ。
そこに私の意思はない。この物語の結末は、君たちが望んだ結果だよ。
ただ一つ、そこに私なりのスパイスを加えた。ただそれだけ。
そうだね。今後の君のためにアドバイスを残そう。
このアドバイスを見るのは明日か、来年か、もっと遠い未来か。それはわからないけどね。
君の言う通り、この物語はただのラブコメではない。主人公である君とヒロインである彼女たちに2つの力を与えているんだ。
君に与えた力のひとつは君も既知の通り、物語を俯瞰する力だ。
柊木灯やヒロインたち、その他登場人物がいる世界。それがフィクションの物語の中だと理解できる力だよ。
もうひとつの力は……もうまもなく理解できるだろう。2周目が始まればすぐに、ね。
ヒロインたちに与えられた力については内緒にしておこう。これを読む頃にはきっと、君は答えにたどり着いているだろうからね。ネタバレ防止ってやつだよ。
ただ気をつけてほしいのは、ヒロインたちが持つ力は……そうだね、呪いのようなものなんだ。
ラブコメとして作品を完成させるための呪い。あれはそういう類のものだ。
ヒロイン全員を幸せにすると言うのなら、君はこの呪いを解かなければならない。
複数人の女が1人の男に好意を寄せた時、全員が幸せになる道なんてありはしないのだから。
さて。結果はどうあれ、この物語は結末を迎えた。私が積み上げてきたものは、もう残っていない。
これが最後の復讐だと言うのなら、私はそれを受け入れよう。
そして、君の最後の願い。私はそれを受け入れよう。
私だって、こんな結末は望んでいない。私はただ、主人公が、ヒロインが、登場人物たちが、読者が幸せになる物語を望んでいたのだから。
だけど、柊木灯。ヒロインを幸せにする物語は、私には書けない。
それは、私の役目じゃないから。私に出来るのは、物語の題材を作ることだけだから。
それでも、あなたがそうしたいのなら、私はその機会を与えたい。
こんな言い方はおかしいかもしれないけれど、私は柊木灯に期待している。
私の世界を壊した君なら。私の物語を消し去った君なら。
私を私の望む世界に連れて行ってくれるような気がするんだ。
もしかしたら私も、あなたに好意を寄せる内の一人だったのかもしれないしれない。
この期待は、好意による幻想なのかもしれない。
柊木灯。あなたはヒロイン全員を幸せにする道を望んだ。
複数のヒロインが存在するラブコメにおいて、そんなハッピーエンドは存在しない。
けれど、あなたがそれを望むのなら、その役目はあなた自身が果たすべきだ。
だから、私は再び書き留めるよ。
主人公である柊木灯と、そのヒロインが幸せになれる未来を。




