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第十話 現実の妹はお兄ちゃんLoveにはならない

「なんで家に居んの?」


 家を出ようとした時に掛けられた、俺を呼び止める声。さっき踏まれた足がピタリと止まる。


「ちょっとトラブルがあったんだよ」


 そう。これはToL〇VEる。ちょっとえっちなハプニングとラブコメらしい恋愛模様を描いていたんだ。あれ、なんか違くね?

 馬鹿な後輩に拐かされ、その瞬間を妹にゴミを見る目で見下された、が正しい。間違いは正す。赤ペン先生かな?


「お前こそなんで居るんだよ」

「は? 私の勝手でしょ。きも」

「キモさは関係ないだろ……」

「きも」


 新しい鳴き声なの? ポケ〇ンなの?

 そんな語尾でキャラ付けしても流行らないし、そんなもの絶対に流行らせない。俺が傷つく。


 相も変わらず目だけで人を殺せそうなほど鋭い視線を向けられる。あれは兄を見る目じゃない。親の仇を睨みつける怨恨の瞳だ。


 明は俺とはあまり似ていない。俺の顔はそれなりに普通だが、明は垢抜けていて所謂美人系というやつだ。

 見た目も今風で、少し制服を着崩して髪も若干染めているようだ。お嬢様学校には似つかわしくないな。どちらかと言うと半グレギャル子だ。

 人の名前みたいですね。そんな名前付けた親の顔が見てみたい。


 そもそも今風とか今時って言葉が何を指すのか俺にはよくわかっていないが、似合ってはいると思う。


「お前、学校行けよな」

「あんたに言われたくないんだけど。マジきもい」

「確かに……」

「何納得してんの? きも」


 やめろよ。これ以上言われるとお兄ちゃん泣いちゃうぞ。肯定しても否定しても蔑まれるなんてブラック企業みたいですね。一部の人にとってはホワイトかもしれん。面接でひたすら罵倒されそう。


「じゃ、じゃあ、行ってくるから」

「待って」


 ドアノブに手をかけたところでまたしても呼び止められる。行けと言ったり呼び止めたり、一体なんなんだ。

 要件だけわかりやすくまとめないと人は話に飽きちゃうんだぞ。人間の集中力なんてそんなにもたないんだから。同じシーンの繰り返しは見る者に飽きを齎す。

 そろそろ秋ですし、なんちゃって。


「なんだよ」

「私の下着知らない?」


 うわー、やっべー……。

 明の部屋のタンスから下着を適当に取り出してそのままにしていた。これはピンチ大ピンチ。

 三雲だけ先に行かせるんじゃなかった。いや、あいつが居ると余計ややこしくなるか。


 開きっぱなしのタンスと明らかに抜き取られた下着。もう完全に下着ドロが入った後の惨状だ。俺がその犯人だと知ったら……一番軽くても死刑だな。初手から命の保証がないんですけど?


「し、知らない」

「あそ。じゃあこれ、何?」

「えぇーっとぉ……」


 脱衣所から出てきた明が持っていたのは、黒いフリルのパンツとブラ。見覚えがあるなぁ。透けた制服の向こう側に確か……。

 なんで置いてってんだバカ野郎! しかもよりによってかなりエロい下着着けやがって! いっちょ前に色気づいてんじゃねえぞ!


 いやそれよりも、三雲の下着がここにあるってことは、もしかしてあいつはサイズの合わない明のブラ着けてったのか? なぜなのか。


「で、何?これ。扇情的な下着だけど、あんたの趣味?」

「あー。えっと、これはですねぇ……」


 やばいやばい。完全にテンパってる。どう見ても怪しい。怪しいに怪しいを足して怪しいで割ったくらい怪しい。その心は? 割り切れないでしょう、なんつって。

 怪しいがゲシュタルト崩壊してついでに世界も崩壊して何も無かったことにならんか?

 無理ですね、はい。


「さ、さっきの後輩のものなんだ。汗だくだったからシャワーを貸して、着替えのために明の下着を借りた。勝手に貸して悪いと思ってるし、勝手にタンス漁ったのも悪いと思ってる。本当にすまん!」


 斬首だけは勘弁してください! 火炙りも電気椅子も嫌です!

 って言うと「じゃあ死ぬよりキツい拷問で。きも」とか言われそうなので、そこは心の中で願うのみだ。そんなことしないだろって? あるんだなぁ、それが。明ならやりかねない。


「ほんとお人好しできもい」


 え、今なんて? とか鈍感難聴系主人公みたいなことにはならない。きもいとかそう何回も聞きたくないしな。


 恐る恐る顔を上げると、風呂場に向かう明の後ろ姿が見えた。

 何も言わずに扉を閉めてしまい、話はそこで切られた。

 お叱り無し? 死刑免れた? いやこれは執行猶予というやつか。


 シャワーの音が聞こえ、本当に話は終わったのだとわかった。たぶん。ほんとに終わったよね? 風呂上がった時に居なかったからやっぱ死刑とか言わないよね?

 まあその時はその時だ。弁明するだけしてみて、ダメなら刑を甘んじて受け入れよう。俺、今日死ぬかもしれん。


 それにしても、明はどうしてこんな時間に家に居るのだろうか。もしかして普段から学校に行ってないのか? 今日が偶然休みなだけか?

 聖女という県内有数の進学校でそんなことがあるのだろうか。学校の話なんて聞けない俺にはわからんが。


 とりあえず、今は俺の心配をしよう。もう一限も半分ほど過ぎてしまった。

 ここ数日、遅刻やサボりが多すぎて、もうなんと言って謝るかも思いつかない。

 身内が死んだことにしようか。そんなことで殺される身内の身になると不憫極まりないな。


 はぁ、内容については学校に行ってから考えよう。遅くなればその分だけ言い訳も凝ったものにしなきゃならなくなるしな。


 最近学校に行くのが憂鬱で仕方ないぜ。柊木灯の憂鬱。応募の時点でハネられそう。

 そんなことを考えていても仕方が無いので、俺は渋々学校へと向かう。なんかこれが日常になってんな。

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