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日の出

作者: 朝霧

 真っ暗な玄関で靴を履く。折りたたみ椅子を脇に抱える。外に出て真冬の空気を思い切り吸い込む。体の中が綺麗になった気がした。


 夜明け前、水平線の向こうがぼんやりと明るくなっている。全ての風景が紫色に染まっている。風は無い。


 崖際まで歩いていくことにした。足元を見ながら歩く。足首ほどの高さの雑草が、私が歩くたびにカサカサとなる。霜で靴下が濡れて冷たい。雑草の青臭い匂いがした。


 崖から海を覗き込んだ。海は波一つなく静まり返っている。鳥の声もしない。折りたたみ椅子を広げて座って、海を眺める。海はとても深い青で、むしろ黒く見える。体の中に空気を溜め、深く息を吐く。息が白くなって楽しい。自分の吐く息の音しかしない静けさ。今、火傷するほど熱く、砂糖が沢山入ったコーヒーを飲んだらきっととても美味しいと思う。


 段々と東の空が明るくなってくる。太陽の光に照らされて海がきらきらと輝く。まだ音はしない。しかしなんだかザワザワしている気がする。きっと色んなものが今、起き出しているんだと思う。


 やがて水平線の向こうから太陽が顔を出す。じんわりとした暖かさが体を包み、思わず頬が緩む。海が様々な色の青色に見える。さっきまでは気づかなかった波も見えた。とても遠くの方で二羽の鳥が海の向こうに飛んでいく。私は鳥達が点のような大きさになるまで見つめる。


 立ち上がって折りたたみ椅子を片付ける。行きと同じように足元を見ながら歩く。オレンジ色に染まった雑草達は、目を冷ましたように見える。靴下が湿って気持ち悪い。


 玄関につき、家に入る。風呂場で靴下を脱ぎ、温かいお湯で足を洗う。


 寝室に入る。閉じたカーテンに日の光が遮られ薄暗い。まだ夜だ。ベッドに入り、分厚い布団を自分の鼻の上まで引き上げ、目を瞑った。


 夜明け前のあの海に自分が沈み込んで行くような気がする。段々と眠くなってくる。頭の中で何度も静かな海を反芻する。私は今、きっと全てのものが好きだと言える。

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