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救世のメスブタ女神  作者: ワナリ
第2章:侵食世界バルメドール
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41『剣の言葉』


 無我夢中だった。

 激しい金属音の後、腕が折れるかと思うほどの衝撃が伝わってきた。


 僕を両断せんと振り下ろされたアーデンの斬撃。

 それを僕は鎖で奪い取った彼の剣で、全力で打ち払ったのだ。


 なぜそんな事ができたのか?


 僕に剣術の心得などない。火事場の馬鹿力というには、度を超えている。

 それでも僕は無意識のうちに、剣を取っていたらしい。


 ――どうした、そこまでか⁉︎


 確かに聞こえたアーデンの心の声。まるでそれが、僕に未知の力を与えてくれた様に思えてならなかった。


「フン!」


 気合いと共に、今度は横薙ぎの軌道で斬撃が襲ってくる。

 それをまた僕は、渾身の力で打ち払う。

 アーデンの剣は重い。一撃、一撃がまるでハンマーの様だ。


 それを何度も繰り返すうち、僕は気付く。

 斬撃の重さもさる事ながら、今、自分が握っている剣もなんて重いんだと。


 竹刀や模造刀とは訳が違う――これが生命を奪う事を目的とした『真剣』の重さなのか。


 僕とアーデンの剣が火花を散らす。

 その最中――なぜかアーデンの顔が不敵に笑っていた。


 僕をみくびっている? いや、彼の表情はこの状況を楽しんでいる様に見える。

 なぜなら、お互いの命を懸けた戦いにもかかわらず、僕もこの状況に言葉にできない有意義さを感じていたからだ。


 だから僕は声を上げる。


「アーデン! 僕はなぜ、あなたが天界に反旗を翻したのか知っている!」


「…………」


 斬撃戦の中、アーデンは何も答えない。

 それに構わず、僕は叫び続ける。


「僕は鎖で、リュルルを支配した――。あの子の記憶の中に、天界の仕打ちに絶望するあなたの姿があったんだ!」


 使い捨ての道具の様に扱われる戦神(いくさがみ)。彼らが転生を許されていないという事実は、僕にとっても衝撃だった。


「それを知ってどうする?」


 言葉を返してくれた、アーデンの表情が険しくなる。


 それでも(ひる)む事なく、


「僕も天界のやり方には納得していない! だから、あなたの気持ちだって理解できるんだ!」


 僕はアーデンという(おとこ)に伝えたかった思いを、ここで口にする。


「フン、理解するだけでは何も状況は変わらんぞ!」


 一際鋭い剣線と共に、彼が僕の甘さを指摘する。


「分かっています! でも僕だって、このバルメドールを救いたい!」


 アーデンの剣を打ち払うと、僕は胸に抱いていた彼への思いを伝える。


「僕だって見たんだ。天界が人間を消した『無人』の街を! 抵抗できなくて降伏しただけで消されるなんて、あまりに理不尽だ! だから、僕はこの世界を救うために戦うと決めたんだ! あなただって、きっと同じなんでしょう⁉︎」


「――――!」


 アーデンが声を詰まらせる。

 続く斬撃戦の中、僕の問いかけは続く。


「僕は真実を知りたい! なぜ、世界が――六道世界がこうなってしまったのかを! あなただって同じはずだ! だから僕たちは、きっと手を取り合える!」


「お前も天界に反逆するというのか⁉︎」


「違う! あなたも一緒に――『セブンスロード』に行こう!」


「――――! やはりお前が、シャウアの言っていた男か――」


 アーデンの声は打撃音の中、掠れて聞き取れなかった。でも何かが、彼の心に突き刺さったのは確かだ。


「僕には好きになった人がいる。あなたが首を刎ねた戦女神(いくさめがみ)――ヴェルカノンだ! 彼女は『不死の呪い』をかけられている。それを解くために、僕はセブンスロードに行く!」


「女のために、世界を変えるというのか?」


「そうだ! でも、それだけじゃない! 言ったはずだ――僕はそこで真実を知りたいと! 六道世界の真実を知ってヴェルカノンを、このバルメドールの人たちを、いやすべての世界を救うんだ!」


「……大きく出たな」


 そう言うと、アーデンは打ち合いをやめて、後ろに飛び下がる。


 同時に僕の手に握られた剣が消失した。

 僕が振り続けていた剣は、アーデンが顕現させた物だ。なので彼の意思ひとつで消し去られたとしても不思議はない。


 いや、ならどうして――⁉︎


 ホーミング・チェーンを越えて、目の前まで迫った時、剣を消していれば簡単に僕を一刀両断できたはずだ。


 不可解な真実に動揺する僕に向かって、


「お前がそれに値する男か……試してやろう」


 アーデンは厳しい目付きになると、左手にも再び剣を顕現させる。


 そうだ――。彼はさっきまでの斬撃戦でも、一本の剣で僕と同じ条件で戦ってくれた。

 いったい彼は何を――。


「いくぞ!」


 僕から十分な距離をとったアーデンの両手から、双剣がブーメランの様に放たれる。

 左右が異なる不規則な軌道を描くそれは、確実に僕を抹殺するための本気の攻撃だった。


 僕の手にもう剣はない。

 よけるか⁉︎ いや、どちらに避けても、必ず一方の剣が僕の体を斬り裂くだろう。


 今度こそ僕は、自分の力で身を守らなければならない。

 考えろ! 僕が持つ力――。それは鎖だ!


 これまで『緊縛の鎖(ボンデージ・チェーン)』は攻撃にしか使った事がない。

 それでも僕は、心で何かに向かって叫んだ。


(鎖よ、あの剣を――止めるんだ!)


 次の瞬間、僕の足元に無数の魔法陣が展開されると、そこから何本もの鎖が天に向かって飛び出していった。


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