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救世のメスブタ女神  作者: ワナリ
第2章:侵食世界バルメドール
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39『正念場』


「アーデン、てめえ隠れて見ていやがったのか⁉︎」


「いいのか? ――そんな口をきいて?」


 サリアヴィオラの怒声に、アーデンは薄笑いを浮かべながらそう答える。


「ああん?」


 それに顔を歪めるサリアヴィオラだったが、アーデンの言葉の真意が分かると、すぐに顔色を一変させる。

 いつの間にか――石碑のある草原には、街の人々が、まるでギャラリーの様に集まっていたからだ。


 その視線が、暴言を吐いたサリアヴィオラに集中し、皆、目を丸くしながら困惑している。

 彼女は相手が僕たちだけだと思って、()が出てしまったのだろうが、街の住民たちはそれをしっかり目撃してしまった。


「フッ、やはりお前に、清楚な女神様役は無理だったか」


 またもや薄く笑うアーデンに、


「うっせーんだよ!」


 開き直ったのか、もうサリアヴィオラはぶっきらぼうな口調を隠さなかった。


「あの男を――暗殺するのには失敗した様だな」


 続けて放たれたアーデンの言葉に息を呑む。


 ――リュルルを僕たちの元に送り込み、二段洗脳を発動させた策。


 彼の言葉は、その標的が明確に僕であった事を示唆していた。

 しかもアーデンの口ぶりでは、それを献策したのは彼自身だった様に聞こえる。


(どうして僕を?)


 動揺する僕と、アーデンの目が合う。

 間違いない。彼は真っすぐに僕だけを見ている。


「ああ、しくじったよ! こうなったら、ここで勝負をかける!」


 そこにサリアヴィオラの怒声が、再び響き渡る。


「アタシはヴェルカノンを仕留める。アンタは他の奴らを倒して、リュルルを取り返してくれ」


「いいだろう」


 アーデンはそう答えると、両手に双剣を顕現させる。


 完全に計算が狂った。彼の参戦は想定外だった。

 僕たちが全員でかかれば、サリアヴィオラ一人なら倒せるかと思ったが、アーデンまでが相手となると話が変わる。


 逆に僕たちが束になってかかっても、彼一人に勝てる気がしない。

 それほどアーデンという戦神(いくさがみ)の戦闘能力は圧倒的だった。


 リュルルを胸から下ろし、アロエットに託すと僕は考える。


 サリアヴィオラの狙いはヴェルカノンだ。彼女たちには因縁がある。

 それはサリアヴィオラの姉が、かつてヴェルカノンを主力とした、セブンスロード討伐戦で戦死した『らしい』という事に起因している。


 らしい、というのは、『緊縛の鎖(ボンデージ・チェーン)』でリュルルを支配した時に流れ込んできた記憶に、彼女がそう告白する光景があったからだ。


 シャウアの導きに、アーデンが天界への反逆を決意した時、サリアヴィオラは、


 ――アタシの姉さんは、セブンスロードの討伐戦で死んだ。


 と言っていた。


 また、ヴェルカノンからも、


 ――切り札だった私が敗れたせいで、討伐軍のほとんどの者が死にました。


 と聞いている。彼女が『贖罪の女神』と呼ばれ、死を望んでいる理由だ。


 そしてアーデンの狙いは――僕だ。


 こちらの理由は分からないが、僕もちょうど彼とは話をしたいと思っていた所だ。

 それが戦闘を介してというのは過酷ではあるが、なぜか僕の中に『一時撤退』という選択肢は浮かんでこなかった。


 ――ここが正念場だ!


 僕のいつもの直感がそう言っていた。


 だから、


「ショーカ、どうする――?」


 不安げな声を漏らすマルヤを無視する様に、


「ヴェルカノン、サリアヴィオラを頼む。アーデンには――僕がいく!」


 僕はヴェルカノンへの指示をもって、彼らと戦闘に入る事を宣言した。


「――――⁉︎」


 マルヤとアロエットは絶句している。


「ご主人様、それは……」


 かろうじて声を発したヴェルカノンも、僕の無謀を諌めようとする。

 確かに無謀かもしれない。だがここは、本当に『正念場』なのだ。


 その決意と覚悟を示す様に、


「ヴェルカノン。――サリアヴィオラのお姉さんは、セブンスロードの討伐戦で死んだらしい」


 僕は、なぜ彼女がサリアヴィオラから仇敵として狙われているのかを、ここで明らかにする。


「――――!」


 さすがにヴェルカノンも、息を詰まらせている。


「ヴェルカノン、もしこれが因縁だとしたら……それを断ち切ろう。ここで彼女との決着をつけるんだ。――これは命令だ」


 僕は非情かもしれない。命令という言葉に、彼女が逆らえないと分かっていたからだ。

 でもそれがヴェルカノンの――これからの僕たちに必要な事であるという思いに、迷いはなかった。


「…………分かりました。でも――」


「僕は死なない。――約束する!」


 ヴェルカノンの思考を先回りして、そう答える。

 彼女の不安は痛いほど分かる。だからこそ、それでもすべてを受け入れてくれた彼女の思いを、僕も裏切りたくはなかった。それは紛れもない本心だった。


 しばしの沈黙の後、


「はい、ご主人様」


 静かな表情に戻った、ヴェルカノンの返答に安堵すると、僕は次の動きに出る。


「アーデン、戦うのは僕とヴェルカノンだけだ! マルヤとアロエットには手出しはさせない。だから、そちらも彼女たちには手出しをしないと約束してほしい!」


 こちらの出方を悠然と見守っているアーデンに向かって、そう告げる。


 アーデンとの一対一の戦いに、周りを配慮する余裕なんて一切ないだろう。

 これは乾坤一擲の戦いになる。それなら僕なりに、フィールドを整えておく必要があったからだ。


「フッ、いいだろう」


 アーデンは必死の形相の僕に、即答してくれた。

 それは侮りなどではなく、僕の思いを理解してくれている様に――なぜかその時の僕には感じられたのだった。


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