表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世のメスブタ女神  作者: ワナリ
第2章:侵食世界バルメドール
48/52

37『第二のメスブタ』

 

 僕の周りを疾走する十人のリュルル。

 この『十体分裂』が、残像現象を利用した技だと分かっていても、目視でその本体を見破るのはやはり不可能だ。


 だからヴェルカノンは本体を特定するのではなく、僕の鎖により強化された力で、十体すべてに同時攻撃を仕掛ける事で、リュルルを撃破した。


 リュルルの洗脳は、強力な一撃を加える事で『一時的』に解ける。

 だが、それでは意味がないんだ。


 この幼い戦女神(いくさめがみ)は洗脳が発現する度に、また僕たちを襲ってくる。

 そんな堂々巡りの末に、きっと僕たちはリュルルを殺さなければならなくなるだろう。


 僕の中にいる『狂気』は、リュルルを殺せと言った。

 それを抑え込んで――僕はリュルルと共にある事を選んだんだ。


 もう僕の体力は限界を超えている。

 鎖を放てるのは、おそらくあと一回だろう。


 その一回で勝負を決めて――リュルルを救うんだ!


「うへっ!」「うへへっ!」「うひぇひぇーっ!」


 サラウンドの様に響く、リュルルたちの声。

 それに加えて、振り回すトンファーの風切り音のため、視覚はおろか聴覚までもが定まらなくなってきた。


 気を緩めれば、また気を失いそうになる。

 それでも――全力を出さずに勝てる相手ではない!


 鎖はホーミングするとはいえ、目標を見ずに当たるレベルではないだろう。

 だから、瞬きをするのも我慢して『その瞬間』を待つ。


 おそらくリュルルも、次は中途半端な攻撃は打ってこない。

 打つなら、きっと一撃必殺――十体同時攻撃に違いない。


『支配だ……支配しろ』


(ああ、分かってるよ……)


 心で語りかけてくる、もう一人の自分に、僕はそう答える。


 待っていろ、リュルル。

 もうすぐサリアヴィオラの支配を打ち破って――僕が君を支配する!


「うひぇーーーっ!」


 次の瞬間、十体のリュルルが雄叫びを上げながら、前、横、後ろの十方向から高く跳躍してきた。

 同時に僕は顔を上げる。


 この時を待っていた。これなら――十体を同時に視界に捕捉できる!

 両手を天に突き上げながら、


緊縛の鎖(ボンデージ・チェーン)!」


 僕は最後の力を振り絞り、十本の鎖を放つ。


 十本がそれぞれの軌道を描きながら、ホーミング性能を発揮して目標に向かう。

 残像を通過していく鎖たち。その中の一本が――僕の前方から跳んだリュルルの本体を絡め取った。


()った!)


 だが、これだけでは終わらない。

 ここからが――僕の『規格外』の本領を発揮する時だ!


「リュルルーっ!」


 力の限りに叫ぶ。


 僕の鎖は、対象を(くび)り殺すためのものじゃない。

 それを今から見せてやる。


「これから――君を支配する!」


 鎖によって宙に掲げられたリュルルに、僕は宣言する。

 その口元が、自分の意思を超えて笑っているのに気付く。

 心が喜悦に震えている――誰でもない僕の心がだ。


「これから、お前も……僕のメスブタだーっ!」


 己の狂気を発現させながら、僕は鎖に『欲望』という名の力を注ぎ込む。


「あひーっ!」


 まるで電撃を浴びた様に震えるリュルルの口から、その幼い容姿らしからぬ喘ぎ声が漏れた。


 同時に僕の心にも、リュルルの精神が逆流する様に入り込んでくる。


 ――バルメドールに、アロエットたちと降り立った日の映像。

 ――それからアーデンが、二人の目付神(めつけがみ)を弾劾し斬り倒す姿。

 ――そしてサリアヴィオラと戯れながら、街の人たちに可愛い女神様と、マスコットの様に愛されている光景。


 この幼い戦女神(いくさめがみ)のバルメドールで過ごしてきた日々を、僕は一瞬で脳内に共有した。


 僕は鎖を通して、リュルルと一つになった。

 そしてサリアヴィオラの魔眼洗脳を完全に打ち破った事も、僕はこの手で確信した。


 もうリュルルは――僕のものなのだ。


「ほえ……」


 鎖が消失して、宝石の様な目の輝きを取り戻したリュルルが、間の抜けた声を出しながら落ちてくる。

 それを疲れ切った体で、両腕にしっかり抱きとめる。


「ショーカ……」


「もう大丈夫だよ、リュルル」


 見つめ合い、僕たちは再会を喜び合う。

 何から何までが、ぶっつけ本番だったが、なんとか上手くいった。


 たいした威力もない僕の鎖では、持久戦に持ち込まれていたら、おそらく負けていただろう。

 十体分裂後の跳躍攻撃の瞬間を狙ったのも――ヴェルカノンを相手にすでに失敗していても、リュルルの幼い思考かつ洗脳状態の野生なら、構わず繰り出してくるだろうという――イチかバチかの賭けだった。


 確証はなかった。でも言葉にできない『自信』が僕にはあった。


「ご主人様――」


 背中越しに、ヴェルカノンからの声がかかる。

 難局を一人で乗り切った事で、これで彼女も少しは安心してくれる――と思ったのだが、


「その()女神がメスブタって……どういう事ですか?」


 振り向いた僕に浴びせられたのは、突き刺してくる様な追求だった。


「アンタ、ほんとにロリコンの趣味もあったの⁉︎ もうまったく見境ないんだから! 信じらんない!」


 続けてマルヤが、例の爆撃ボイスで僕を痛烈に非難してくる。


 いや、どうして⁉︎ 違うんだ! 僕はリュルルを自分のものにする事で、サリアヴィオラから救うために……支配して……メスブタにしたんだ……。


 いったい何が違うのか、自分でもわからなくなってきた。

 さらにそんな時、困惑する僕に抱かれたリュルルが、愛らしい微笑みを浮かべながら胸に顔を埋めてくる。


 これで状況的にも――僕はクロになった……。


 そんな僕とリュルルの事案級のツーショットを、歓喜のアロエットが興奮気味に眺めている姿に、頭を抱えたくなってくる。


 なぜ、こうなった?

 ここは僕の初勝利を、称えてくれる場面ではないのか?


 こうして僕の初陣と初勝利は、いつもと何も変わらぬ喧騒の中で幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ