1.3
七竅高校では、二週間後の十一月十一日の文化祭に向けて放課後、着々と生徒たちは準備を進めていた。
見たちのクラスはコスプレ喫茶をやるということで、教室では居残って衣装作りに励んでいた。
「で、なんで俺がこんなことしなきゃならねぇんだよ」
微は口を動かしながら手もすいすいと動かして、衣装のスカートに、細かな刺繍を入れている。
「僕もほら、こうして作ってるし」
見は教室の飾り付けに使う折り紙を製作していた。
「お前は関係者で俺はサッカー部があるはずなんだ」
「でも、文化祭でサッカー部って何も関係ないから、こうして準備に駆り出されているんでしょ?」
「ああ、しかも、裁縫できるやつがクラスにほとんどいねぇってどういうことだよ?誰がコスプレ喫茶やるなんて言い始めた?」
「少なくとも、僕ら二人は言ってないね」
「馬鹿なクラスメイトがおよそ二十名だよ、民主主義って横暴だな」
「でも、多数派というのは少数派がいて初めて成り立つ言葉だよ。だから存在が軽視されているかもしれないけれど、無視されているわけでは無いだろうから、まぁ、よしとしようよ」
「お前はいつもそう穏やかだな」
「感情的になってもしょうがないけれど、それは表向きで、本当は何も思わないってのが正解かな、人の判断に干渉するのは自分の領分でないというか、あくまで傍観して、成るように任せれば僕としてはそれで問題ないかなって」
「だから、あいつに冷静な関心を向けられるのか?」
「それは違うかもしれないけど………」
この場に羅愛がいないことに、見はほっとした。
「しかしよ、最近、羅愛の姿見ないな」
放課後の掃除を終えると、羅愛は大概下校していた。ここ数日は文芸部の方にも顔を出していない。
「何してんだろうね………」
見は、飾りに使う猫の折り紙を完成させたところだった。
§
同じ時刻、羅愛は爆発の中にいた。
襲い来る爆撃に続く爆撃。地上に黄昏が降り注ぐ。
数百メートル離れた先には大砲を構えた兵士の姿。
「相手は年端もいかない女だからって油断するな!相手を化け物と思え!とにかく撃ち続けろ!」
隊長の指示により、兵士はミラン対戦車ミサイルを休まず撃ち続ける。
羅愛はひたすら爆撃が止むのを退屈そうに瓦礫を盾に、待っていた。
耳につけたマイク付きイヤホンから日木頭の声が届く。
「そっちの様子はどうだい?」
戦闘中の相手に尋ねる調子とは思えない、軽々しさを帯びた声だ。
「カードのデミウルゴス探索の最中に敵勢力と遭遇。恐らくフランス陸軍特殊作戦旅団隷下の第1海兵歩兵落下傘連隊」
「これは伝統のある軍隊がはるばるやってきたようだね。まぁ、それが終わったら帰ってくるといいよ。エリに代わって私が腕によりをかけたハンバーグを用意したから楽しみにしていてくれ」
「まぁ、食べれるもの作ってくれないからしょうがないわね…………」
「それを言っては………殺される……」
「エリってクールぶっている割りには怒りっぽいものね」
羅愛はマイクを切った。ちょうど爆撃が止んだようで、兵士の数人はアサルトライフル、FA-MAS G2コマンド(通称:クレーロン)を携えて瓦礫に隠れつつ接近し始めた。
「これだけの兵力で私を殺そうだなんて舐められたものね」
——元素召喚
「『炭素』『鉄』!」
手から出現した二枚のカードは光の粒子に姿を変え、手の中で月光の如く輝く刀が成形される。
羅愛は姿を晒して刀を構えた。
「馬鹿が!蜂の巣にしてやれぇ!」
隊長の指示の元、海兵隊兵らはアサルトライフルの照準を即座に合わせて発射。羅愛は一切避けることをしなかった。
「何が殺戮の天使だ?あんな黒いローブを着た化け物にそんな名前は相応しくない」
隊長が高笑いを浮かべた。羅愛が蜂の巣になっているという幻想に浸りながら。
「あ、何!」
「繰り返す。目標は銃弾を刀で弾いています」
「そんなこと、出来るわけが!」
「接近してきます。あ、ああああああああ」
兵士の一人と通信が途絶える。
「くそっ」
叫び声を上げ、血しぶきをあげる兵士を見て、一人が呪詛を漏らした。アサルトライフルを構え、連射。羅愛は完全に銃弾のスピード以上の動きを繰り出し、風のようにかわして間合いを一瞬にして詰める。
「何!」
気づいた時には頭と身体が別れていた。兵士の意識はそこで途絶えた。
「おい、マルコが!」
「ふざけるな!俺たちはフランス軍のエースだぞ。こんな餓鬼に!」
「あっ!」
叫び声が終わる前に、即座に三人の首を切断した羅愛。
「そんな嘘だろ!」
最後の残っていた兵士は声をあげる間も無く、心臓を一突き。羅愛は時間をかけずにまるでベルトコンベアのアームのように機械的な動作で人を殺した。
「連絡が完全に途絶。全滅です。すぐに戦線を離脱した方が………」
隊長の側にいた兵士の言葉が途切れた。みると、影も形もなく、青白い光線の餌食になっていた。
跳躍で一瞬にして距離を詰めてきた羅愛による先制攻撃である。すかさず待機していた兵士らによってミランが発射される。計五発の対戦車ミサイルは羅愛目掛けて飛んでくる。羅愛は即座に元素召喚。自身をフィギュアスケートのスピンのように高速回転させ、手から発せられる高圧水流がそれに合わせて空中で竜巻きのような形を作り出し、ミサイルを全て弾き飛ばした。
「まさか!」
ミサイルの装填の最中、残りの兵士はアサルトライフルを容赦なく打ち続けるが、水流の竜巻きには何の効果もなく、羅愛は跳躍、重力加速度に従ってどんどん降下してくる。
「早く、装填を急げ!あいつを食い止めるんだ」
装填が終了する時間まで羅愛が待つはずもなかった。水流が止まると再び元素召喚で刀を取り出すと、音速のスピードで地上を一掃。瞬きぐらいの僅かな時間で、すでに隊長を残して身体に自身の血を浴びていない人間はいなかった。
辺り一面が見るに耐えない光景になっていた。
もはや恐怖で動けなくなって、最後に残った隊長は膝から崩れ落ちた。
「そ、んな。あぁ…………」
四十を超えた剛健な男が震えおののき、唇が強張り、涙が溢れて止まらなかった。
「お願いだから、殺さないで、家族だっているんだぁ、あああ………」
「ならば最初から私を殺しにこなければよかったのよ」
一撃にして三撃。常人には一振りにしか見えなかったが、確かに身体は三等分に切り裂かれていた。
腕を横に振り払い、刀を拭った。地面に血の一閃を描く。
羅愛は二枚のカードに戻し、身体に取り込んだ。周囲を見て、終わったことを確認してマイクをオンにした。一言、マイク越しの相手に告げるにとどめた。
「今から帰る」




