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Deeper than well  作者: 水素
第1章 妄念
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エピローグ.2

 空は海のように青く、地上を見下ろせば、一軒家がひしめき合っている。休日の住宅街は閑散としていて、子供達の姿はない。

「何だか、静かだね」

 立ちながら柵に手を置いて、見は静寂を好むと同時に嫌悪を覚えた。

「ああ、そうだな」

 微は掃除の行き届いた屋上の地面に腰を下ろし、ステンレス製の柵に背中を預けていた。正面を向いているはずなのに、彼の瞳には正面の景色が写り込んでいなかった。ミケランジェロの『アダムの創造』の体勢で、ただ、眺めていた。

「ねぇ、微」

「何だよ?」

「空って広いね」

「そうだな」

「どこまでも続いているね」

「ああ」

「でも、限りがあるんだね」

 微からの返答がなくなった。

 見には多分、微のいま置かれている心境がどんなものであるか、表面的な説明しかできないのだろう。見は微ではないし、同化などできない。ただ、見に説明可能なことは、屋上で感じた、生と死の激情的な一体化は、微の中で現在は崩れていたということだろう。

 微がようやく口を開いた。

「誰かがこんな言葉を残した。物語にはハッピーエンドかバットエンドかがある。だが現実にはハッピーエンドもバットエンドもない。あるのは出来事だけだ」

「誰の言葉?って、聞くまでもないか」

「ああ、聞くまでもないさ」

 見は微を一瞥し、黙って屋上を後にした。

 微は一人、大きく息を取り込んで、滞留させる。空気の香りがする。日常の香りだ。

 数秒後、大きく息を吐き出した。香りが消えた。しかし、別の空気が入り込み、再び日常の香りが広がった。どこにもあの猟奇的の香りはなかった。

 その、日常的な事実が、琴線を切った。

 空には雲が湧き上がってきた。

 カラスが鳴いた。

 声帯を殺した。

 俯いた先に。

 真っ暗な。

 事実の。

 啾々。


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