エピローグ.1
七竅駐屯地、ヘブンズヘル本社、および関連施設の破壊は、新聞でもメディアでも、取り沙汰される事なく、一週間が過ぎようとしていた。舞依については「ビルからの転落による事故死」と報道された。
視上クリニックでは、相変わらず人の来ないためにエリが暇を持て余して、受付でチョコレートをばくばくと食べていた。羅愛は僅かなスペースで、暇つぶしか、柔軟体操をしていた。百八十度の開脚や、前屈、後ろに身体を反らして、手が床についている。
「結局、あの事件は全て隠蔽されたみたいだね。新聞にも一言も書かれていない」
花は受付前の人工革のソファで新聞を読んでいた。
「ヘブンズヘルの研究所からもカードを三枚、研究センターから二枚、剛理舞依から六枚のカードを手に入れた。羅愛ちゃんの保有カードも二十九枚。万々歳じゃないか………」
「そうだね。私の方で立てた作戦もほとんどはプラン通りに進んだ。お陰で私たちの秘密を知る者はほぼ消えた」
「政府の協力があったのだろう。そちらには情報が流れていないのか?」
「ネット上での動きを見る限り、そうした形跡はなかったよ。政府とヘブンズヘルの仲が悪かったことが功を奏したね。まぁ、それも計算に入れて、今回の囮作戦を組んだのだけれどね」
「怖いな……」
エリは、自分の腕を枕にして顔をカウンターに沈めている。
「これでも昔は天才と呼ばれていたんだよ。それにしても、エリには悪い役回りをさせちゃったね」
「気にしたいところだが、気にするな。それよりも私はその見返りとしてのゴディバのチョコを所望していたはずだが?」
「ごめん、株で稼ぐから少しの間待っていてくれ。エリに払う家賃で、小遣いは全部消えた」
エリはつまらなそうに、人差し指でカウンターに円をぐるぐると書いている。
「あー、暇だなぁ。あ、いいこと思いついた。ねぇ、花。ここの屋上から飛び降りて、生き残るかどうか勝負しよう。もし脚の骨を折ってもここは病院だ。私が治療しよう」
「遠慮する選択肢はあるかな?」
「ある」
「あるんだ…………。というより、今は屋上、お取り込み中じゃないかな」
羅愛は一通りの柔軟体操を終え、ふと、天井を見上げた。実際に見上げている先はそれより上にあった。
「そうだ、エリに一つ報告しておくことがあるよ」
「……………あの子のことかい?」
「見くん、本人に自覚はないみたいだが、羅愛を片手で持ち上げたよ。しかも息一つ上げずに」
「まぁ、羅愛ちゃんみたいな存在なら出来るだろうが、彼は違う………。そうなると、答えは一つだな」
「ああ。見くんは…………。デミウルゴスだ……………」




