7.2
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。一時間でも、一日でも、一ヶ月と言われても、納得してしまうぐらい、微の神経はすり減っていた。
「何で…………だ?」
コンクリートやガラスの小さな破片が突き刺さっているが、辛うじて、四肢が動いた。四十階から落ちたはずなのにどうして生きているのだろうか。即死以上の死が待っているはずだった。
すぐに違和感に気づいた。背中に触れるものは固い地面のはずなのに柔らかかった。微の横に、白い塊が映った。ぼやけて前が見えない。焦点がようやく揃った。
「えっ……………?」
腕だ。小枝のように細く、イルカのようにしなやかな腕。腕は背中の方から伸びていた。戦慄く身体を後ろへと向けた。
頭がザクロの実のように破裂して、中身の脳漿が血と混ざり合って広がっていた。髪の茶色がくすんでいて、顔に暗い影を落としている。従容自若な瞳には槍のような破片が突き刺さっていて、眼球そのものが潰れていた。四肢がありえない方向に曲がり、義手が跡形もなく吹き飛んでいる。それが死体であることを確定的なものにしていた。
微の戦慄は、最大限の非礼を以って精神を八つ裂きにせしめた。
見たちが降りてきていた。三人は眼前の光景に言葉を失った。
微はもう自分の身体を退かすパワーさえ残っていない。もう、全てがどうでもよくなった。
周囲はコンクリートの残骸で犇めき、煙が群がり、血の跡がドリッピングのように撒き散らされている。
微は匂いを鼻に取り込んだ。鼻腔に広がる、狂気的な死の芳醇。運命ではない、事実の悪戯の香り。
遂に、舞依は本当の道化になったのだ。彼女は道化になる事を拒絶した。道化にならないために、自分で過去に意味を求めた。しかし、意味を求めようが、求めなかろうが、道化であることには変わりなくなった。
道化、それは、「私」を失った存在につけられる名称だ。




