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Deeper than well  作者: 水素
第1章 妄念
32/42

5.6

「つまり、隠匿されている、第三の研究所の場所を燻り出すために、幻さんが囮になって捕まり、残火さんが敵と交戦して、釘付けにしている間にその研究所にあるだろうマザーコンピュータの配線を組み替えて、インターネット回線に繋いで、日木頭さんがアクセスし、マザーコンピュータに接続された全てのFLASHを掌握して研究所を乗っ取ったってことですか?」

「そういうことだね」

「でも、幻さんがどうして研究所につれていかれるとわかったんですか?」

「相変わらず的確な質問をしてくるね」

 SUVは前を走る車を、反対車線に飛び出して避けてどんどんスピードを上げていく。

「公表されているヘブンズヘルの研究所はそれぞれ北海道と広島にある。しかし、その二ヶ所では私が調べた限り、FLASHの研究を行なっていない。そうなると、FLASHの研究を行う第三の研究所の存在が示唆される。FLASHの研究は能力者の研究によって生まれたのだから、カードなどについても政府同様研究していてもおかしくないと考えた。そこで一つの仮説が浮かび上がる。カードもその研究所に数枚保管されているのではないか。ブンズヘルはずっと私たちをFLASHで監視していた。FLASHの名は、残念なことに羅愛くんが交戦した日に調べて初めてわかったことだが、監視されていることには以前から気づいていた。そこで、監視を逆手に取ることにした。FLASHをこっそりいじって、特定の人物のみを認識させるようにしたんだよ。エリと羅愛の顔だけだ。あちらには恐らく十分ぐらい音信不通の時間があったと思うが、気にはしなかったようだね。こうすれば、必然的に敵はエリがタイプワンの庇護者と考える。ヘブンズヘルはそれは大喜びだろう。タイプワンを釣るだけでなく、その庇護者も同じように捕らえるチャンスが出来たのだから。しかし、ある程度は情報収拾のために泳がせておくだろう。そこにあの、研究センターからカードが運び出されるという情報だ。ヘブンズヘルはタイプワンが確実に食いついてくるとわかっていた。ならば、その食いついた時に、守り人のいなくなった庇護者を捕らえるだろう。そして案の定、私の調査でヘブンズヘルが傭兵を雇ったことがわかり、エリを捕らえにきた。そこで、最初の質問の答えを示そう。もし庇護者を捕えたら普通どうするか?その者から能力者についての情報を聞き出し、自分たちの研究に役立てるとは思わないか?」

「それは一理ありますね。しかし、確信はないですよね」

「他の可能性がないんだよ。もし、他の二ヶ所の研究所、もしくは本社に連れてきた場合、場所が判明しているので見つかるリスクが大きい。だから消去法的に第三の研究所と踏んだ。次に解決すべき課題は対抗手段の模索だ。エリに戦闘は無理だし、敵は傭兵だ。ただ深く考えるまでもなかったね。研究所に兵器が溢れかえっているんだから」

「FLASHですか……」

「その通り。ただ、FLASHは基本的にハッキングが出来ない状態になっていて、かつ全てのFLASHにはマザーコンピューターが独自の回線で接続されている。ならばマザーコンピュータの回線を、通常のインターネット回線に切り替えることで私からのハッキングを可能すればよい」

 羅愛の方を花は一瞥した。タオルで身体を吹き終え、ぼうっと外を眺めていた。景色の移り変わりは目まぐるしく、上を見上げれば雲行きが怪しくなっていた。

「そのための対応策がネオジム磁石だ。強力な磁石を電子機器などに近づけると磁場の影響で壊れる。これを使って研究所の設備を破壊した」

「しかし、それではマザーコンピューターやデバイスも壊してしまう恐れがあったのでは?」

「そこはヘブンズヘルに救われたね。マザーコンピューターについて周囲を核シェルターで覆っているという情報を事前に得ていた。シェルターには磁気遮蔽が万全なまでに施されていた。精密機器を扱うのだから当然の処置だ。今回は私たちの有利に働いたけれどね。デバイスについては材料の問題だ。ヘブンズヘルが生体タンパク質を材料にしてくれていたことで、磁気の影響を一切受けなかったというわけなんだ」

 二人は裏側で企画されていた緻密なプランに唖然としていた。

「さて、最終局面を迎えたわけだが、打ち合わせ通りならそのまま本社ビルに向かっているはずだ。敵の能力者も同じだろう。何と言っても自社製品の大軍が本社目掛けて迫ってきているんだから。さて、私たちも向かうことにしようか」

 SUVは真っ直ぐ東京駅へと向かって行った。


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