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Deeper than well  作者: 水素
第1章 妄念
30/42

5.4

 鉄のバリアが破壊されそうで絶体絶命の羅愛の方に、マイク付きイヤホンから通信が入った。花からである。

「羅愛くん、こちらのカードは回収できた……あとは頼むよ」

「了解」

 羅愛は今までの傷が嘘であるかのようにすっと立ち上がった。見ると、傷口は瞬く間に塞がっていく。力を温存していたようで、ここで勝敗を決するようだ。鉄のバリアが破壊される。銃弾の光線が迫り来る。

——元素召喚

「『アンチモン』『鉛』」

 銃弾で相殺し、別のカードを取り出す。

——元素召喚

「『アルミニウム』」

 すると、アルミニウムのカードが粒子と化し、FLASH五台の周囲を取り巻いて成形、丸孔が表面に千鳥抜きに空いた金属でFLASH全体が覆われた。

 舞依はハープを鳴らし、FLASHを操作しようとする。しかし、突然にFLASHは反応を示さなくなり、だらんと手足を重力に任せている。

 何度ハープを鳴らしてもFLASHは反応しない。

「!?」

 動揺する舞依を尻目に羅愛は次の瞬間、動かなくなったFLASH五台に銃弾の雨を浴びせ、大量の風穴を開けた。ドスンッと一瞬にして鉄屑となり、地面と邂逅する。いともたやすくFLASHは全滅した。

「どういうことだ?」

「あれはパンチングメタルだね」

「パンチングメタル?」

「音を消すには幾つか方法があるのだけれど、あのパンチングメタルはその一つである共鳴型吸音の原理を用いたものなんだよね。彼女の能力は恐らく、ハープを媒介として、物の固有振動数に合わせた波を自在に作り出せる能力なんだ。物にはそれ特有の固有振動数を持っている。その物に同じ振動数の波をぶつけると共振現象が起こる。その共振を利用して物を動かす能力だと思うね。だから、彼女はハープを使って、FLASHの機体の固有振動数と同じ振動数の波を発生させることで動かしていたのだと思う。その証拠に、固有振動数が大体同じ物質も揺れていたりした。例えば、加速器の管とかも揺れていたんだ。物質特有とは言っても、近いものはあるからね。それで、残火さんはその固有振動数に合わせて、パンチングメタルの孔を調整し、FLASHに貼り付けることで、音がFLASHに届かないようにしたんだよ」

 二人は羅愛に視線を戻した。羅愛は、そのままかけ出すと、蹴り出して空中に乗り出し、かかと落としを浴びせる。舞依は元素召喚でニオブを出し、高速移動で逃げようとするが、右肩に命中、ハープを落としそうになるが左手で握りしめてかろうじて手離さずに、その場から距離を取って、一台の加速器の上に着地した。

 舞依の右肩の服が破け、肌に青紫の打撲傷が広がっている。

「勝負あったんじゃない?」

 羅愛は別のカードを構え、あざ笑うかのように言った。

「………羅愛ちゃん。年上を舐めちゃいけないよ」

 舞依はハープを掻き鳴らす。そして、周囲の加速器の一部を破壊し、瓦礫を浮上させ、舞依の周りを囲み、同様に発射の構えを取った。

 その時、舞依の方に鎧社長から連絡が入った。イヤホンから衝撃の事実が流れた。羅愛の言葉の本当の意味がわかった。世界が揺れていると錯覚するほどの震え、身体中から汗が湧き出て、未来起こるであろう出来事全てに恐怖を感じ始めた。このままでは全てが無に帰す。

 舞依は揺れる弦を手で止めた。瓦礫は無残に落下し、他の装置を破壊していった。そして、壁際の通路に飛び移ると床に置いていた黒いハープケースに素早くハープをしまい、通路の出入り口へと逃げるように入って行った。羅愛も後を追いかけていく。

 取り残される二人。

「どうなってんだ………」

「でも、相手に異変があったのは間違いない」

 二人も通路へと繋がる階段を見つけ、後を追っていく。

 その時だった。

 後ろに転がっていたFLASHの瓦礫が大爆発。加速器諸共、砂塵になると共に、爆発は天井に大きな穴を開け、雹のように降り注ぐ。二人は急いで別に部屋に飛び入って、廊下が奥へと続いていたので走り続ける。舞依や羅愛の姿が見えてきた。カードで互いに牽制しながら、距離を保ちつつ、舞依は逃げ、羅愛はそれに続く。

 出口が見えてきた。方角から察するに駐屯地の外に繋がっている巨大な搬送路のトンネルの出入り口と思われた。

 舞依が抜け、次に羅愛、見と微が遅れて出た。

 眼前の光景に、二人は背筋が凍った。羅愛は目を険しくしている。

 戦闘車が五台、砲身を三人に向けている。周りには選りすぐりの国防軍兵士らがライフルを構えている。袋の鼠とはこのことをいうのだろう、と微は思った。

 舞依は銃口を向けられることなく、兵士らの隙間を駆け抜けて、トンネルを迷わず進んで、闇へと消えた。

 戦闘車のハッチが開き、隊長と思わしき人物が現れる。

「動かない方が賢明ですね」

 道化のような顔をした、鶏ガラのような男が、甲高い声で言った。

「タイプワン、たとえ貴方でも、これだけの兵士を前にして、為す術もないでしょう?ね、遂に対面できて私、幸せで」

 言葉が徐に途切れる。男の額には、風穴が通っている。銃弾は脳を貫通し、搬送路の天井にめり込んだ。

 二人はただ、呆然としていた。

「貴様、よくも一等陸尉を!」

「やれ、やれぇ!」

 一斉に兵器が火を吹く。背後の施設が壊れようが容赦無く、銃弾の海を浴びせ、砲弾の津波が三人に押し寄せる。見と微は施設の影に隠れるも、羅愛はそのようなことをする以前に猛襲に遭い、彼女が一体どうなっているのか、二人には視認できないほど、煙が濃くなっていた。

 銃声は一分以上続き、「撃ち方やめぇ!」の号令の後、煙が徐々に晴れていく。

 羅愛の姿は何処にもなかった。血の一滴さえ落ちていない。

「何処だ!何処行った!」

 声をあげた兵士は何処からも分からずに脳天を撃たれ、血を吹いた。

「撃て、撃て」

 兵士達は大混乱に陥った。何処にも羅愛が見えない。しかし、質量を持った銃弾が確実に、兵士を一人、また一人と倒していく。

「あそこだ!!」

 視線の先には、羅愛。天井をまるでトカゲのように走っていた。そして蝶のように空中を華麗に舞い、一発一発を蜂のように刺していく。

 何処からともなく高圧水流が迸る。リヴァイアサンのように荒れ狂い兵士の首を吹き飛ばす。

「退避だ、退避!」

 兵士は戦闘車に乗車し、トンネルの出口へと、弾幕を張りながら逃走していく。しかし、渾身の一撃でもない限り、羅愛には通用しなかった。

 弾を見切って、バレエのようにしなやかに躱していくと、そのまま戦闘車の頭上に飛び移る。戦闘車同士はパニックに満たされて、羅愛を狙おうと発砲するが、簡単に躱されて砲弾がトンネルの天井に命中。黒い瓦礫が降り注ぎ、戦闘車を潰していく。

「残り、一台……」

 羅愛は空中に飛ぶと、前転を一回決め込み、回転を力に変えて、戦闘車にかかと落としを叩き込む。戦闘車は砲弾を放つ。砲弾は羅愛に見事ヒットした。しかし、かかと落としによって叩き落とされ、戦闘車から放たれた砲弾は再び戦闘車と一体化し、砲弾の回転が鋼板と激しく摩擦を引き起こし、アップルパイのように潰れて、そのまま爆発、四散した。

 溢れんばかりの血と瓦礫。そして鼻が壊れるかと思うほどの鉄の匂い。見と微は、何も言葉を発することが出来なかった。

「行くわよ」

 淡々と発せられた声にようやく我を取り戻した二人は、走る羅愛について行く、トンネルの出口に着くと、そこには戦闘車が五台、中戦車が二台待ち伏せていた。先とほとんど同じ光景だが、兵士の数が倍以上だった。羅愛が出てきたと同時に発砲、トンネルにかまいたちのような強風が吹き荒ぶ。二人は羅愛に身体を掴まれ、背後に引き寄せて盾になる。そのまま

——元素召還、

「『酸素』『ジルコニウム』」

 ジルコニアを表面に展開し、銃弾を防いだ。ジルコニアは耐圧性と高い融点を有し、刃物だけに限らず、防弾チョッキにも用いられている。

「手を緩めるな、どんどん撃てぇ!!!」

「どうなってやがる?」

 銃を撃ち続ける、細身の男。

「相手はまだ餓鬼じゃないですか」

 色白の男が動揺を隠せない。

「知るか!現にそいつが基地を爆破してるだろ!」

 坊主頭の男は、背筋に悪寒が走る。基地を爆破した張本人で、しかも直轄部隊を倒したのならばこれだけ銃弾を落ち続けたところで何も効果がないんじゃないだろうか。

「おい、もうすぐ弾が切れる、装填急げ!」

 戦闘車の車長が怒鳴り声をあげる。

「ダメだ、前が見えなくなっている!」「敵は何処だ?」「壁しか見えないぞ」「後ろだ!ぎゃあああああ!」

 断末魔の叫びが、銃声を掻き消す。兵士が振り向くと、そこに立っていた。

「悪魔だ………」

——元素召還

「『アンチモン』『鉛』」

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」「助けてええええぇぇ!!」「来るなぁぁぁ、こっちに来るなぁぁぁぁぁ」

 あちこちから上がる悲鳴。まるで地獄のようだ。疾風怒濤の弾丸。巻き込まれる兵士、脆い木々のようにバタバタと倒れていく。

「どうして、こうなってんだよ……」

 細身の男の隣には、先まで生きていたはずのタンパク質の塊。死体の肌の白さが、より鮮明になっていた。

 眼前に現れる悪魔。カードを粒子にして身体に戻すとその辺りに落ちていたライフルを手に取る。発砲。膝が崩れ落ちた。

「おい、何処だ!生きているか!!」

 坊主頭の声に、誰も返事がない。戦闘車の照明も全て砕けて視界が芳しくない。後ろでどさっと音がした。生者から死者へと変化していく瓦解時間を目撃した。

「おい、嘘だろぉ、おい」

 近寄って気づいた時には手遅れだった。ライフルは自分の手から離れ、額にはゼロ距離で突きつけられている。

 綺麗な少女だ。坊主頭の男には、彼女が天使のように見えた。鋭い目元で男を捉えている。でも、なぜだろう、男にはこんな死ぬ一歩手前の状況なのに、彼女のことが怖いとは思わなかったのだ。娘に似ている、と思った。目元が良く、娘に似ていた。親近感が湧いたのだろうか。黒いローブを羽織った、血を纏った、地獄を体現したような姿だ。しかし、彼女は、何処か哀愁を漂わせていた。

「なんだか、悲しそうな目だ」

 坊主頭の男の最後の一言だった。

 身体が仰け反って、しかし反作用で前に戻り、死体の上に被さった。最後に娘の事が過った。

 ただの有機物と化した。

 羅愛は一通り片付けて、ジルコニアのバリアを解除すると、二人の無事を目で確認し、何も声をかける事なく、ワールシュタットのような地を抜けていく。

「結局助けられちゃったね」「いけすかないがな」

 数百メートルを走った二人は、目前に停車してある一台のSUVに目が留まった。車体ナンバーが外されて、ドアノブに金属棒が擦りつけられた跡が残っていたので、盗難車のようだ。既に羅愛は助手席に乗車していて、運転手が窓を落として顔を見せる。

「やぁやぁ、無事だったかな。乗ってくださいな」

 場違いな陽気さを振りまいているのは花だった。

 言われるがまま、二人は後部座席に飛び乗った。羅愛は花からタオルを渡され、身体に受けた返り血を拭いていた。

「で、これからだけど、まだお出かけは終わらないんだな。今からヘブンズヘルの本社に向うよ。奏者くんがカードを持ったまま逃げちゃったからね」

「でも、逃げた先がどうして本社ビルだってわかるんです?」

「これがわかるんだな」

 そう言い、にやにやしながら、シフトレバーを動かし車を発進させた。


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